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しょぼしょぼ姫とミシルの本気(千里と桃香)

 翌日、砦を去ることになった。


「千里、桃香、何か必要なものはありませんか?」

「うーん。あると言えばあるんだけど」

「なんでしょう。なるべく揃えたいと思いますよ」

「えっと、馬車。この子達を大きくして荷物を運ばせると、目立つし怖がられるしで」

「なるほど。そうですよね。それに、馬車があれば、膝の上にのせていけますものね」


 セーラは少し考え、承諾する。


「わかりました。お二人の荷物を運ぶ馬車を用意します。ですけど、お二人は私のお付きですから、私と同じ馬車ですわよ」

「「はーい」」

「なんですのその抜けたような返事、私と一緒じゃいやですの?」

「いやいやいや、そうじゃなくてさ、自分達専用で乗せてもらえるなら、寝ながら行けるかなって」

「全くもう。私と一緒でも寝てて構いませんわよ」


 あははははは。




 馬車には、セーラと千里と桃香、そしてセーラのお付きのミシルが乗る。

 護衛隊長達は、馬に乗って馬車と並走する。


「ねえ、セーラ、疑っちゃいけないことだけど、ミシルさんって、どこまで口が堅いの?」


 ミシルが眉間にしわを寄せる。


「ミシルは私が子供のころから世話をしてくれているメイドです。娘のセシルも昨日もいましたよ。親子で私に仕えてくれる、忠臣ですわ」

「そう。じゃあ、ちょっと魔法の話をするね」

「ミシル、いい? ここでの話はたとえセシルであっても話してはダメよ」

「はい、かしこまりました」

「ちなみに、ミシルさんは、どの程度魔法が使えるんですか?」

「武術も魔法もそれなりに使えないと姫様付のメイド、つまり護衛は務まりません」

「ということは、攻撃魔法も?」

「はい」

「セーラ、一昨日見せてもらったあなたの魔法だけど、はっきり言ってしょぼいわ」

「……そんな、はっきり言わなくても」


 セーラがしょげる。


「だけどね。あなたの魔力量は、ミシルさんより上なの」

「「え?」」


 その発言にはミシルも目を見開く。ミシルもセーラに魔法の才能がないことを知っている。そういうのを含めて理解しておかないと、いざというときに困る。


「あ、あの、どういうことですか?」

「私の方が聞きたいわよ。どういうふうに教育を受けてきたら、こんなにしょぼい魔法使いになるのか」

「またしょぼいって……。ひ、ひどい……」


 千里はセーラの右手を取って、人差し指を伸ばさせる。


「はい、イグニッションして」

「……イグニッション」


 人差し指の先に火がともる。


「いいわ、消して」


 千里は、セーラの手を離す。


「多分だけど、このイグニッションの火、ずっと出していられるでしょ?」

「「はっ?」」


 セーラとミシルが同時に気づく。


「そう。魔力量は多いのよ、セーラ」

「じゃあ、どうして?」


 セーラが身を乗り出して千里に聞く。


「セーラ、魔力操作ってわかる?」

「魔力、そ、う、さ?」


 セーラはミシルと目を合わせるが、二人で首を傾ける。

 千里と桃香は目を合わせて、「やっぱりそこからかー」という顔をする。


「この国の魔法技術ってどうなっているの?」

「え? ちゃんと教育しています。ただ、諜報からの報告では、確かに他の大陸にある国々の方が魔法能力が上だという報告は受けています。それは、民族の差ではないのですか? その代わりと言っては何ですが、我々の武力はそこそこだと思っております」

「護衛隊長が熊相手にあれかー」


 と、思わず声に出してしまう千里。


「ホーンベア相手に一対一で勝てるものなど、人ではありません。あの時は六対六、しかも、私を守りながらです」


 と、セーラが護衛隊長を擁護する。


「人じゃないって言われた……」


 と、桃香がつぶやく。


「あ、いえ、そういうわけではありませんの」

「ごめんごめん。私が悪かった。私と桃ちゃんは武術も魔法も師匠達に教えてもらったんだけど、どれも師匠達に勝てたことがないんだよね。だから、世間一般的な強さってのがわかってないの」


 てへって千里が舌をだす。


「それじゃ、ミシルさんは、どれくらいの魔法の使い手なの?」

「高等学園魔法科首席でした」

「え、それって、すごいんじゃないの?」

「そうですわ。娘のセシルも首席でした」

「やっぱり血筋ってあるのかな」


 千里がふんふんと考える。


「ところで、ミシルさん、セシルさんにコツとかレクチャーしました? 例えば、家の秘伝とかで」

「……」

「ミーシールー」


 セーラがミシルをにらみ、ミシルが視線を逸らせる。


「セーラ、ミシルさんを責めちゃだめよ。それが普通だと思うわ。セーラだって、一家に伝わる帝王学とか、秘宝の情報とか持ってるんでしょ?」

「……」

「そういうのも含んて個人のスキル、個性だと思うよ」

「だって、ミシルがそのコツを教えていてくれたら、わたし、しょぼい姫なんて……」

「言ってないでしょ、しょぼしょぼ姫なんて」

「あー、千里ひどいー。なにその二つ名。いらないからそんなの」


 セーラがぷんすかする。


「あはははは。ごめんごめん」

「セーラさん、千里さんはセーラさんの魔法を何とかしたいと思ってるんですよ」


 桃香が頬を膨らませたセーラに対して、説明を加える。


「わかってるわよ。そんなの」

「じゃあ、話を戻すね。ミシルさん、首席の力を見せてください。ミシルさんの一番強い攻撃魔法は?」

「ファイアランスです」

「それを思いっきり、全力で撃ったらどうなりますか?」

「え、全力でですか?」

「はい。後先考えずにです」

「……」

「じゃあ、ちょっとやってみましょうか。空に向かって」


 草原の真ん中で馬車を止める。

 四人は、馬車から降りる。


「何事ですか?」


 当然のことながら、護衛隊長がやってくる。


「皆、私達に背を向けて取り囲め。絶対にこっちを見るな。王女命令だ。他の者も馬車の中に入り、外を見るな。いいな」


 護衛騎士が背を向けて四人を取り囲む。王女命令で見るなと言われれば、気になっても見るわけにはいかない。


「それじゃ、ミシルさん、空に向かってどうぞ」


 ミシルは、空に手を伸ばし、集中し、魔法を詠唱する。聞かれないように小声で。

 そして、同じく小声で、しかし、ミシル最大魔力を使ったファイアランスを空に向かって撃ちだす。


「ファイアランス!」


 バシュッ!


 長さ二メートル、直径二十センチほどの炎の槍が顕現し、空に向かって飛んで行った。


「おー、飛んで行ったね」

「たーまやー」


 その様子をセーラとミシルが怪訝な顔で見つめる。


「セーラ、もういいわ。馬車に戻って移動を再開しよう」


 千里と桃香が先に馬車に戻る。


「移動を再開するわよ。護衛団長、よろしく」

「はっ」


 セーラとミシルも馬車に戻り、移動が再開される。


「で、なんだったのですか?」


 ミシルが聞いてくる。


「ミシルさん、体調は?」

「変わりませんわ」

「私、全力のファイアランスをと言いましたが」

「全力のファイアランスです」

「どういうことですの?」


 セーラが我慢できなくなって、先を促す。


「セーラ、聞いてね。人ってね、魔力を失うと倒れるのよ」

「だから何なの? 魔力欠乏症ですわよね。寝れば治りますわ」

「ミシルさんは?」

「……えっと?」

「全魔力を使った全力のファイアランスはもっともっと大きいはずなのに、それが出来ないってことです」


 はっとした顔をうかべるミシル。わかったようだ。


「ミシルが手を抜いたってこと?」

「違います。魔力を出し切れていない。うまく使えていないんです」


 桃香が答える。


「じゃあ、ミシルはもっともっと強力な魔法を撃てるということなの」

「そうよ」

「じゃあじゃあ、ミシルより大きな魔力を持っているって言われた私は、ミシルよりもっともっと強力な魔法を撃てるってことなの?」

「そうよ」

「私はもう、しょぼしょぼ姫なんて言われなくてもいいってこと?」

「誰も言ってないじゃない」


 千里はため息をつく。


「可能性の話よ。それでも、才能ってものが影響するわ。ま、それも努力出来なきゃ花開かないと思うし」


 ガバッと、セーラが千里の手を取る。ミシルが桃香の手を取る。


「「先生!」」

「「違うから」」


 こうして、毎晩のように全魔力を使った魔法を夜空に撃ちこんでから寝るという、はた迷惑な習慣をつけるメイドが誕生した。



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