キザクラ商会での買い物(貴博と真央)
「ふー、お腹いっぱい」
「ミーゼル、やめなよ。すっかり満腹キャラじゃない」
おなかをポンポンするミーゼルにルイーズが小言を言う。
「だって。おいしかったじゃん。ほら、ルイーズだっておなか張ってる」
「やだ、触んないでー」
「うむ、私もおなかポンポンよ」
シルヴィが王女らしくない表現をする。
「それはよかったです」
貴博がそれに答えた。
「じゃあ、シルヴィ、お米の生産をお願いするのです」
真央がシルヴィに改めて米の生産をお願いをする。
「任せておいて。米の一大産地にして見せるわ」
真央に向けてそう答えたシルヴィはうつむいてほほを染める。
「だから、旅に出てもまた寄って欲しい」
シルヴィはちらっとクラリスを見てそう付け加えた。
「あはははは。クラリスはもてるのです」
「あー、真央、みんなにだから、放課後木剣クラブに言ったんだから。違うから!」
シルヴィが顔を染めたまま言い訳をする。
「まあ、そう言うことにしておくのです」
あはははは
あはははははは
時はすぎ、パーティが終わる。
シルヴィは城へ戻らなければならない。
「いつ出発するの?」
シルヴィは見送りに出て来た真央とクラリスに聞く。
「うーん。もうちょっと用事があるみたいだから、早くても三日先じゃないかな」
「そう。わかったわ。また来るね」
そう言って、シルヴィはライムとネーブルと共に馬車に乗って城に戻っていった。
翌日。
貴博はセレンとレティを伴ってキザクラ商会へ行く。
もちろん、他のメンバーも一緒にだ。
ラビとマイマイにも団服を作ってあげないといけない。
「いらっしゃいませ」
獣人の国のキザクラ商会の店員はエルフだった。
「あの、すみませんが、この指輪と同じものを二つ注文したいのですが」
貴博は自分の指輪を外し、店員の前に置いてそう注文する。
店員は、貴博の着ている団服と、その指輪を見て、手に取ることもせず、
「少々お待ちください」
と、商会の奥へと足早にで去っていった。
「私は、支店長を任されております、レノアと申します」
しばらく待っていると、支店長のレノアがやってきた。
「貴博様、真央様、ようこそいらっしゃいました。それで、指輪をと」
「はい。これと同じ、というか、妻達のつけているのと同じものを二つ、お願いしたいんですが、できます?」
「はい。もちろんでございます。ですが、ということは、奥様が増えられたということですよね」
「は、はい……」
貴博は視線をそらしつつ答えた。
「このことを会長は?」
「えっと。どう連絡付けていいか……」
「さようですか。それではこちらから報告書を上げておきますね」
「……」
「どちら様の指輪でしょうか」
もちろん、ただの支店長たるレノアが妻全員の顔を知っているわけもない。
「この二人」
と、貴博はセレンとレティの背中を押した。
「え? 騎士団長、様?」
レノアはレティを見て目を丸くする。
「まあ、気にしないでくれ。もう騎士団長ではない。単なる冒険者だ」
「は、承知しました」
「それと、こちらの方は、褐色の肌が素敵ですが、このあたりの方ではないですか?」
「そう言うの、詮索する?」
「あ、申し訳ございません。会長に報告するのに必要な情報だと思いまして」
「はぁ。レティのことは知っているみたいだけど、こっちの妻はブラックドラゴン。セレンディだ」
「ど、ドラゴン族ですか。さすがは会長の息子様」
「……そういうわけだから、指輪をお願いね」
「はい。承知いたしました。その他、御用命はありますか?」
「この二人に団服を」
貴博はラビとマイマイの団服を頼む。
「承知しました。それではサイズを計らせていただきます。誰か……」
他の店員に指示を飛ばすレノア。
「後は、好きに買い物をさせてもらうよ。なんか、僕が知らないうちに稼いだみたいだから」
それを聞いていたミーゼルが舌をペロッと出す。
とはいえ、実際にはリルのおかげでこのパーティは、かなりの収入がある。
「承知しました。どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
「いつごろまでにできる?」
「大変申し訳ないのですが、この指輪が外注になりまして……」
レノアが顔を近づけてこそっと貴博に伝える。
「正直、会長のオリジナルなんです」
と。
レノアは再び顔を離し、
「と言うわけで、一週間ほどお時間をいただきたく」
「なるほど。妻の情報が欲しい理由も理解した」
「恐縮です」
「それじゃ、一週間後に取りに来るね」
「お願いいたします」
「センセー」
ミーゼルが貴博の袖をつかんで商会の中を引っ張って行く。
行った先は下着売り場だ。
貴博は顔を背け、ミーゼルに言う。
「どうしたの? 好きなの買ったらいいんじゃないの?」
しかしミーゼルにはどうしても明らかにしておきたいことがある。
他の妻達もだが。
「あの、はっきりさせておきたいことが」
「何?」
「白が好きなの?」
ぼふっ!
ミーゼルは貴博の顔色の変化で察する。
「あー、好きなんだ」
「いや、あの、みんなそれぞれイメージカラーってあるんじゃないの? 好みがあるんじゃないの?それでいいと思うけど?」
貴博は弁明するが、ミーゼルは聞いちゃいない。
「私、白にする」
ミーゼルは貴博を開放し、ルイーズ達と一緒に下着を選び始めた。
貴博はやれやれとカウンターに戻り、レノアに真央達の買い物のことをお願いする。
また、さらに追加注文をしておく。
「はい。それも一週間後に出来上がると思います」
「よろしくね」
ラビとマイマイを含む放課後木剣クラブの全員が、あれこれ品定めをし続けている。
終わる気配はない。
「サンタフェ、カンタフェ」
貴博が暇だろうと、二人の妖精に呼びかける。
「はい」
「何か御用ですか」
「二人も何か欲しいものがあったら、頼んだらいい」
「ありがとうございます。とはいえ、私達のこのメイド服は、支給品なのです」
「ですので、時々こうしてキザクラ商会に連れてきていただければ、その時に新しい物に代えていただけるんです」
「そういうわけで特に必要なものはありません」
「そうなんだ。でも、なにかあったら遠慮しないでね」
「「ありがとうございます」」
第三世界、ローゼンシュタインの屋敷で、グレイスは報告を聞く。
「あはははは。貴博、妻を二人も増やしたの?」
「そのようです」
シャルロッテが冷静に答える。
「グレイス君だって、成人して一年でそんなにいなかったわよね?」
ソフィリアが確認する。
「だが、結婚式の時は十人。全員が妊娠してたぞ? 貴博はまだ八人だろう」
おりひめが記憶をたどってソフィリアの言葉を修正する。
グレイスの方が多いと。
「……」
「それいくつの時だっけ?」
ソフィリアは人差し指を顎に当て、こてんと首をかしげる。
「妊娠したのが、私がある意味、十……歳なので、その時グレイス様は十六歳です」
ライラが顔を赤らめながらソフィリアの疑問に答えた。
「じゃあ、グレイス君、十六歳で十人と結婚したんじゃん。十人を妊娠させてるんじゃん。貴博君、グレイス君に負けてるよ?」
「ソフィ、自分が結婚した年齢、覚えておいてよ」
「あ、グレイス君、今、ごまかしたよね。グレイス君すごいね。十六歳で十人の妻。記録じゃない?」
グレイスはバッと立ち上がる。
「……貴博の指輪作らなきゃ」
「ちょっと待って、お仕事あるでしょ」
「あ、別に頼まれたあれも作らなきゃ。ラナ、ルナ、行くよ」
「「はい!」」
グレイスはラナとルナを連れて、逃げるように工房へと向かった。




