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この世界に生まれて(貴博と真央)

 真央とクラリス、そしてシルヴィは北門まで戻ってきた。

 帰りも、真央とクラリスが魔物を寄せ付けず、あっさりと。


「姫、ご無事でしたか!」


 と、門の詰所からライムが飛んでくる。


「うむ。いろいろと大変だったが」


 と、真央の方をちらりと見て、シルヴィは続ける。


「二人のおかげで精霊様にお会いすることが出来た」

「「「うぉー!」」」


 歓声が上がる。

 精霊様に会えるなんて、そうそうあることではない。

 ここ、三年頂上までたどり着いていないし、そもそも、精霊に会えるかどうかはわからないのだ。


「それでな、褒美として、肥料と種もみをもらった」


 シルヴィはライムに報告しつつ、背負子から種もみを取り出し、説明をする。


「これが種もみだ。これを来年から栽培する」

「種もみと言うのは何なのですか?」

「種もみを蒔いて苗を育て、それを水を張った畑に植えると、米が出来るそうだ。その米は、真央が持っている」


 と、シルヴィが同意を求めようと振り返ると、そこには背負子が置いてあるものの、真央もクラリスもいなかった。

 米俵も醤油も。


 あれ? 


 と、シルヴィがきょろきょろと見回すと、すでに着替え終わった真央が米俵を担ぎ、クラリスが醤油の瓶をもって立ち去るところだった。

 手ぬぐいはかぶったままで。


「真央、その手ぬぐいのかぶり方、絶対に間違っているだろう」


 クラリスが真央に疑問を投げかける。


「いえ、あっているのです。逃げるときは、鼻の下で結ぶって決まっているのです」

「私は絶対にやらんからな」

「でも、用事は澄んだので、急いで帰って米を食べるのです。すたこらさっさなのです」


 そんな真央とクラリスを見つけたシルヴィ。


「ちょっと、真央、クラリス、待ちなさい。こら、逃げるな。その米、私にも食べさせなさい。どんなものか食べてみないとわからないじゃないの!」


 真央は、そんなシルヴィと視線を合わせてしまう。


「あ、クラリス、ばれました。走ります」

「りょーかい」


 真央とクラリスは走り出した。


「待ちなさいって言っているじゃないの。皆の者、あの者どもを捕らえろ!」


 シルヴィが騎士達に命じる。

 しかし、ライムもネーブルも、他の騎士達も動こうとしない。


「あの二人、騎士団長と副団長を瞬殺にしたんだよな。絶対に敵わないよな」


 そんな声が、騎士達から洩れる。

 それを聞いたシルヴィが切れる。


「いいから行けー!」

「「「はい!」」」


 ライムとネーブルを始め、騎士達が走り出した。


「んもう」


 シルヴィが頬を膨らませる。


 あはははは

 あははははは


 笑い声を残して真央とクラリスが街に紛れて行った。




「ただいまなのです」


 真央とクラリスが西のギルドにたどり着いた。


「あ、おかえり、真央!」


 そう言って真央を出迎えたのは貴博だった。


「あ、センセ!」


 真央は米俵を置いて、貴博の胸に飛び込んだ。


「真央、おかえり」


 真央は、その言葉が嬉しかった。

 だけど、少しだけわがままを言う。


「センセ、逆なのです」


 貴博は、真央が何を求めているかを理解する。

 貴博は真央を抱きしめたまま言う。


「真央。ただいま」

「はい。おかえりなさい」


 真央はぎゅっと貴博を抱きしめた。


 真央にとって、「ただいま」と「おかえりなさい」は特別な言葉だ。

 だが、そのことは貴博と真央以外にはわからない。

 真央が涙を流している理由も誰もわかっていない。

 だが、わかることがある。

 それだけ真央が貴博の帰りを待っていたということだ。

 なので、皆、二人をそっとしておくことにする。

 クラリスはそんな二人に気を遣い、醤油をもってギルドの調理場へと向かった。

 そして、米俵はセレンに運んでもらうように頼んだ。


 真央が落ち着き、そして、貴博に報告する。


「センセ、お米もらったのです」

「お米!?」


 真央が振り返ると、置いたはずの米俵がない。


「あれ」


 と、きょろきょろすると、


「調理場に運んでおいたぞ」


 と、セレンが教えてくれた。


「ありがとうなのです、セレン」


 真央はクラリスを探す。が、いない。


「クラリスが醤油ももらったのです」

「ほんと? すごいね。醤油も見つけたんだ。じゃあ、えっと、どうしようか。とりあえずは米を焚くとして……」

「おにぎりなのです」

「おー、醤油があるから焼きおにぎりもいいかもしれない」

「はいなのです!」


 真央が両のこぶしを握って意気込む。

 そこへミーゼルがやってきた。


「センセ、これ、どうやって食べるの?」


 ミーゼルは両手ですくうように生米を持っている。

 クラリスが調理場からやってきて、ミーゼルと同じように貴博と真央に言う。


「これ、硬くておいしくないんだが」

「あはははは。それ、僕がやるよ」


 そう言って、貴博も調理場へ向かった。


 真央もそれを追いかけようとしたが、声がかかった。


「真央様、お疲れさまでした。団服をお預かりします」

「え?」


 と、振り向くと、そこにはラビが。


「真央様、お風呂も用意できますが」


 そこにはマイマイが。


「あれ、二人とも、しゃべれるようになったのです?」

「「はい!」」

「それに、ツノが無くなってる」

「ありますよ」


 と言って、前髪を持ち上げる二人。


「あー、かっこいいね。お姫様みたい」

「ご主人様もそうおっしゃってくださいました」


 ラビが答える。


「すごいね、やったね。これでみんなと同じ格好が出来るね」


 真央はマイマイの背中のふくらみが無いことも確認した。


「いえ、これまでどおり、魔法使いの恰好をしようかと思っております」

「はい。あれは、ご主人様が特別に用意してくださったものですし、気に入っておりますので」

「そうなんだ」

「ただ、背中のふくらみが無くなったので、マントはやめて、皆様と同じ団服を着用させていただけることになりました」

「ほんと! やった。おそろいだね」


 そう言って、手をつなぎあって喜ぶ真央とラビとマイマイ。


 そこへ貴博が調理場からやってきた。


「真央、クラリスと一緒にお風呂に入っちゃいなよ。ご飯炊けるまで時間があるから」

「はーい」

「真央、行こう」


 クラリスが真央に声をかけた。


「それでは我らが背中を流します」


 ラビだ。


「えー、それはいいのです。お風呂まだなら一緒に入るのです」

「「はい」」


 四人で風呂に浸かる。


「あー、楽しかったのです」

「真央、私も楽しかった。ありがとう」

「何でお礼です? 私もクラリスと一緒に塔に登って楽しかったのです。それに、みんなといるのも、いつも楽しいのです」

「そうだな。楽しいな」

「ラビとマイマイなんて、しゃべれるようになって、本当にびっくりだし、嬉しいのです」


 ラビとマイマイも顔を赤くする。


「毎日が楽しいし、びっくりすることもあるし、本当に、この世界に生まれてよかったのです」


 真央が天井を仰ぎながら、はふっと、つぶやく。


「この世界?」


 クラリスが真央の一言に疑問を持つ。


「あ、えっと、いや、この人生って言うか、アンブローシアにって言うか。もしかしたらもっと違うところに生まれたかもしれないのです。でも、ここに生まれてよかったのです。って意味なのです」


 ぶくぶくぶく、と、口を水に浸ける真央。

 しどろもどろである。


「そうだな。私もこの世界に生まれてよかった。毎日が楽しい」

「私達もです」

「この世界に生まれたおかげで、皆さんに会えた」


 クラリス、ラビ、マイマイも真央に同意する。


「そろそろだろうか。その米というのが出来ているかもしれない」


 クラリスが立ち上がる。


「そう思ったらおなかが空いてきたのです」


 真央も立ち上がり、ラビとマイマイと一緒に風呂を出た。


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