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精霊の塔へ(貴博と真央)

「リル、お願いがあるんだけど」


 引率……、いや、しっかり者のクラリスは準備に余念がない。

 真央はお酒を飲んでしまったせいもあって、もうすでに寝てしまっている。


「なにかな?」

「精霊の塔に行くと、魔物がいっぱいいるらしくって、攻略のポイントは回復なんだって。それで、ポーションを用意して欲しいんだけど」

「そういうことなら、出発までに作っておくよ。毒消しもいるのかなぁ」

「うーん。聞いておけばよかったな。少し用意しておいてくれる?」

「わかったー」




 当日、真央とクラリスはいつもの勝負服を着る。

 いわばセーラー服に団服。


 そこへ、リルがポーチを二つ渡してきた。

 少し底が深くなっているものだ。


「ポーション、細長い瓶にしたから、ちょっとポーチも深くなっちゃった。でも、その方がたくさん入るから」


 真央とクラリスが中を確認する。中には、コルクの蓋がしてある細長いガラス瓶が詰まっている。


「リル、ありがとうなのです」

「これだけあれば大丈夫だろう」

「ちょっと濃いめに作ってあるから、飲む量も少なく済むと思うー」

「例のは入っているのです?」


 例のというのは、水玉キノコだ。


「もちろん。あれ、これまでの実験から、効力が増す効果があるってことがわかったから。センセもセレンの時にそう言っていたでしょ」

「「実験……」」


 もちろん実験台にされているのは訓練中の真央達である。


「武器はちゃんと持ったの?」


 ミーゼルが心配して確認する。


「はい。持ったのです。腰に両手剣、あと、ナイフと大鎌と」

「私も大丈夫だ」


 そこで、ちょうどよく馬車がギルド前に到着した。


「それじゃ、気を付けてね」


 ミーゼル達が見送る。


「日帰りだから夜には帰ってくるのです」

「必ず上まで登ってくるから」


 そう言って、二人は馬車に乗り込んだ。


 馬車は北門を目指して動き出した。




 北門に到着すると、騎士が整列していた。

 その先頭にはライムとネーブルが立っており、第二騎士団らしいことがうかがえる。


 王女がこれから森へ出向くのだ。

 これくらいの見送りがあってもおかしくはない。


 真央とクラリスが馬車を降りると、そこへ、王女が近づいて来た。

 しかし、その服装に真央もクラリスも固まる。

 なんだ、それは、と。


「お二人とも、着替えて来てください」


 と、真央とクラリスに言う王女のその恰好は、半着にもんぺ。

 頭には手ぬぐい。


「お、王女様、その恰好は?」


 クラリスが一歩引き気味に尋ねる。

 真央は、その恰好が何か、わかっているが、ここは黙っておく。


「昔らかの伝統なのです。この格好で参拝に行きます」

「確認ですが、我々もですか?」

「そうです」

「防具は?」

「つけられません」

「武器や道具は?」

「持っていける範囲でお願いします」

「……」


 結局、真央とクラリスも半着にもんぺ、頭に手ぬぐいというスタイルとなる。

 さすがに靴は履かせてもらえるようだ。

 腰には両手剣とポーチ。それだけだ。


「それではこれを」


 と、王女のお付きが風呂敷に包まれた何かを渡してくる。

 王女はそれを袈裟がけに体に結び付ける。


「えっと」


 と、クラリスが悩んでいるが、真央は想像がついている。


「これはお昼ご飯です」

「そ、そう」


 クラリスもあきらめて昼ご飯を包んでいる風呂敷を体に斜めに結び付けた。

 さらに、お付きが三つの背負子を持ってきた。


「これは?」

「お供え物です。背負って行ってください」


 背負子の中には野菜や小麦が入っていて、それなりに重い。

 だが、王女もそれを背負っているのだ。

 背負わないわけにはいかない。

 ちなみに王女は杖も持っている。


 お供えは王女じゃないのか……・

 クラリスは心の中で愚痴る。

 これでは、いざと言う時に動けるかどうか。


「それじゃ、行きますわよ」


 王女の掛け声で真央とクラリスも動き出す。


「「「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」」」


 という騎士団の声に送られ、三人は街を後にした。

 



 王女を先頭に、右後ろに真央、左後ろにクラリスが続く。


「王女殿下」


 クラリスがシルヴィの足取りを見て声をかける。


「シルヴィと」

「それではシルヴィ、これ、けっこう重いですが、大丈夫です?」

「はい。大丈夫です。ですが、戦闘には参加できません。なので、魔物が出てきたら、お二人にお願いします」

「シルヴィにお願いがあります。冒険者のスキルは冒険者の生命線です。漏らされたくないのですが、そのあたりの守秘義務は?」

「もちろん漏らしません。お二人のスタイルで護衛をお願いします」


 三人は街道をしばらく歩き、森へと入った。




 森は足場も悪く、歩きにくいのだが、王女は杖を突きながら歩いて行く。

 しかし、今回で四回目だ。

 王女は、いつもとの違いに気づく。


「今年は魔物が少ないのですね」


 真央とクラリスが苦笑いをする。


「そうなんですね。始めて入る森なので、わかりませんが」


 クラリスがしれっと答える。

 実際には真央が殺気を放って魔物を散らしているのだ。

 クラリスはわざとらしく、話を振る。


「これだけ魔物がいないと、冒険者も森には入らないですよね」

「いえ、魔物の狩場となっているんですが。先日お話ししたように、塔から魔物があふれてきますので」


 しかし、魔物がいないということでこれ幸いと、王女は足を進める。




 三時間ほど歩くと、森が開けた。

 というより、森に囲まれた広い空間に出た。

 その中央に、石造りの塔がそびえている。


「おおー、かっこいいのです」


 真央が感動する。


「これ、かなり高いですよね」


 クラリスが塔の先端を見上げながらシルヴィに聞く。


「私はまだ到達していませんが、二十階ほどあるようです」


 三人が立ち止まって塔を眺めていると、塔の壁の隙間からホーンウルフが出てきた。


「魔物が出てきました!」


 シルヴィが声を上げて一歩さがった。

 真央、クラリス、お願いします、と。


 その声にホーンウルフが気づき、シルヴィを見るが、ホーンウルフはそっぽを向いて逆の森へと入って行った。


「あれ?」


 シルヴィが疑問に思う。

 魔物が襲ってこないと。

 もちろん真央の仕業だが。

 クラリスは、シルヴィの疑問を消し去るように問いかける。


「シルヴィ、塔に入りますか? お昼にしますか?」

「塔に入るわ。お昼は最上階でとりたいもの」




 三人は塔が立つ石の土台の上へと階段を登り、塔の玄関扉に手をかけて引っ張った。


 ギギギギギ


 扉が外側に開いていく。


「いったん閉めて」


 シルヴィが声をかけると、真央とクラリスが扉を閉めた。


「どうしたのです?」

「中に魔物がたくさん」


 真央もクラリスもすでに察知していることだ。

 だが、気にしていなかった。


「では、扉を少し開けて、魔法を撃ちこみます」


 クラリスが提案する。


「魔法をですか?」


 そうか、獣人はあまり使わないんだな、と、その疑問にクラリスは納得する。


「使っていいのですよね?」

「はい。いいと思います」

「じゃあ、真央、ちょこっと開けてくれる?」

「はいなのです」


 真央が扉を引いて少し開けると、クラリスはその隙間から手を突っ込み、


「ファイアボール」


 と、魔法を撃ちこんだ。


 慌てて真央が扉を閉める。


 ドッゴーン!


 塔全体が響く。

 真央はクラリスに目で訴える。

 オーバーキルじゃない? と。

 クラリスは、真央から視線を離し、


「シルヴィ、入りましょうか」


 と、王女に声をかけた。


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