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兎人族受付嬢、キャメロンの嘆き(貴博と真央)

 シルヴィスはソファの真ん中に座りなおす。


「真央さんとクラリスさんですね」

「真央でいいのです」

「クラリスで」

「ありがとうございます。それでは真央とクラリス。始めに聞かせていただきたいのですが、お二人の歳は?」

「十六です」

「十六です」


 真央がジト目でクラリスを見るが、クラリスは苦笑いを浮かべ、見えないところで真央の腿をつねる。


「お若いのに、強いのですね。ちなみに、私は十八になりました。この参拝には成人してから三回行っているのですが、一度も最上階にたどり着けていません。精霊様にお供えをできていないのです。今年こそは到達したいと思っています」

「えっと、どうしていけなかったのです?」


 真央が身を乗り出して尋ねる。


「あの塔は、魔物が湧くところでもあるのです。しかも、各階に魔物が湧く転移陣があるらしく、それぞれの階に魔物が湧いてくるのです。そんな魔物を倒しながら塔を登っていくのですが、三人で入るので、持ち物も限られてしまいます。それで、回復薬が切れたところで撤収していました。それが過去三回」

「問題点は、そこだけですか?」


 クラリスが聞く。


「塔が魔物を生むため、そこに行きつくまでも多くの魔物に遭遇してしまいます」

「なるほど。確認ですが、この街を出るところから、帰ってくるところまで三人で行かないといけないのですね?」

「はい。なぜかそうしないと塔の門が開かないのです」

「となると、回復をどうするか、というのがポイントですね」

「私はお供え物を持つので精一杯なので、そのあたりはお任せしても構いませんか?」

「承知しました。それと、日帰りでよろしいですね」

「そうしたいです」

「したいというのは?」

「遅れると、塔の中で夜を迎えることになりかねませんから」

「なるほど」

「そんなところでしょうか」


 シルヴィスがそうまとめ、真央とクラリスが頷いた。


「明後日、よろしくお願いいたします」


 そう言って、シルヴィスは退出していった。




 真央とクラリスは、再び係りの者に連れられて城を出る。

 そして、冒険者ギルドまで送ってもらった。


「それでは、明後日の朝、八時にこちらへお迎えに上がります」


 真央もクラリスも了承した。




 冒険者ギルドに戻ると、誰もいなかった。

 普通、冒険者が何人かいたり、受付嬢が暇をしていたりするはずだ。

 しかし、いない。


「誰かいませんかー」


 と、真央が声をかけると、奥から走ってくる足音が。


 ズダダダダダ


 ギルマスが走ってきた。

 そして、


「真央様! クラリス様!」


 と、二人に交互に抱きついた。


 様付け? 真央もクラリスも疑問に思う。

 さらに、その後からメルロもキャンベルもやって来て、真央とクラリスに抱きついた。


「えっと、何があったのです?」


 真央が聞くと、


「真央様のおかげで金貨百枚よ。一枚借りてそれを返したとしても、百枚なの」


 と、ギルマスがくるくる回る。

 なるほど、賭けだな。

 と、クラリスは理解する。


「さあさあ、お祝いよ。二人が護衛になったお祝い」


 真央とクラリスは思う、昨日も飲んだな、と。


「メルロ、玄関もう閉めちゃって」

「はーい」


 メルロは玄関の鍵を閉め、ギルマスとキャンベルが真央とクラリスを連れて奥の食堂へと連れて行った。


 真央は、食堂を見回す。


「センセはまだ帰って来ていないのです?」

「はい。もう少しかかるとのことで」


 カンタフェが答える。


「そうなのですか」


 真央は、ちょこっとだけがっかりする。


「真央、がっかりしていても仕方ないわ。気持ちはみんな一緒。だけど、今を楽しむのが真央流でしょ。さ、食べよう」


 ミーゼルが真央とクラリスを席につかせる。

 すると、ギルマスが立ち上がり、


「真央様、クラリス様、今日はご活躍おめでとうございます。そして、ありがとうございます。二人のためささやかですが、パーティです。カンパーイ!」

「「「カンパーイ」」」

 



「ミーゼル、ギルマスたち、賭けに勝ったみたいで喜んでるけど、こっちはどうなったの?」


 クラリスの質問に、ミーゼルはピースサインを示す。


「二千二百枚よ。金貨、一人二枚、二十二枚賭けて、二千二百枚。しばらく大丈夫だと思うわ」

「すごいわね」

「もう、こんなこと無理だけどね」

「で、今日は?」

「今日もギルマスのおごり。景気いいわ」

「じゃ、遠慮なく飲んでいいのね」

「いいと思うわよ。特に二人のおかげだから」


 クラリスが気づく。


「で、あの部屋の隅っこで小さくなっている兎人族の受付嬢さんはどうしたたの?」

「あー、キャメロンさんね。仕事があるからって闘技場へ行けなかったでしょ。だから賭けられなかったって、ふさぎ込んじゃって」

「まあ、新入りが二人で金貨百枚も稼いでこればね。行けばよかったってなるよね」

「でも、こればっかりはギルド内の問題だし、仕事は仕事で仕方ないし、ほおっておくしかないわよ。ギルマスまで浮かれまくっているけど」


「えーえー、どうせ私はしがない受付嬢ですよ」


 キャメロンが出来あがる。

 しかも、ギルマスもメルロもキャンベルも、「まあまあ、おごりだから飲め飲め」と、なっている。

 そりゃ出来上がりもする。


「私も賭けくらい、頼めばよかった」

「大丈夫、キャメロンにはいい人が来るから」


 ギルマスが変な慰め方をする。


「キャメロンはここで運を使わなかったから、白馬の王子様がきっと来るわ。あんなメロンを胸に得ても、内面が完全に冒険者の二人にいい人は来ないわよ」

「ギルマス?」

「言っていいことと悪いことが?」


 メルロとキャンベルが目を点にする。

 金貨百枚に代えがたいものがある、そう伝えたいギルマス。

 家庭も持って、金貨百枚を得て始終ご機嫌なギルマスには説得力がないが。


「私、冒険者になる」

「「「え?」」」

「冒険者になって稼ぐ」


 キャメロンに変なスイッチが入る。


「いや、冒険者ってそんなに稼げないから」

「プラチナランクなのに、ソフィローズ一式で破産するくらいにしか稼げないから」

「そうですよね」

「「……」」


 思わずキャメロンに同意され、なんで稼げなかったのか、と、反省する二人。

 わかっている。

 宵越しの金は持たなかったからだ。


 せっかくの金貨百枚。

 財布のひもを絞ろう。


 そう思ったメルロとキャンベルだった。


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