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セーラと千里と桃香の熊討伐(千里と桃香)

 三人で朝食を取る。


「セーラ、今日は何をするの?」

「行けるのであれば、ホーンベアを狩りにと思うのですが」

「うーん」


 千里が悩む。


「セーラさんは何が得意なのです?」


 千里が悩んでいることを察して桃香が聞く。


「一応一通り訓練は受けています。学園にも通っていましたし」

「じゃあ、熊は明日にして、今日は、セーラの実力を見せてもらってもいい?」

「それが必要なことなのですよね?」

「うん。作戦を考えるのにね」




 朝食後、三人は訓練場へと行く。


「セーラ、魔法は?」

「火魔法と水魔法が使えます」

「じゃあ、火魔法から見せて」

「イグニッション!」


 セーラの指先に火がともる。


「じゃあ、水魔法」

「ウォーターボール」


 ピヨン、バシャ!


「な、なるほど。水は飛ぶのか」

「えっと、すごくないです?」


 セーラがむふーと、得意げな顔をする。

 その一方で、その発言に固まる千里と桃香。


「「……」」

「えっと、どのあたりがでしょうか、セーラさん」


 千里が無い眼鏡をくいっと上げるしぐさをして、右手をセーラに差し出す。


「無詠唱なところです」


 セーラが腰に手をあて胸を張る。


「な、なるほど。すごいです。で、攻撃魔法は?」

「ウォーターボールが飛びましたでしょ、それに」


 と、セーラは人差し指を立てる。


「イグニッション」


 セーラは火をともした指を千里のほほにそっと近づけてくる。


「熱い! 熱いから! って。それが攻撃?」

「ダメージ与えられましたよね?」

「むう」


 桃香は口をあんぐり開けている。


「セーラさん、剣とか槍はどうです?」


 復帰した桃香が魔法から話を逸らす。


「もちろん大丈夫ですわ」


「えいっ、えいっ!」


 セーラはおっかなびっくり剣を振っている。全く腰が入っていない。

 槍も同じだ。


「えっと、護衛隊長います?」


 千里がお付きの騎士に声をかける。


「はっ、自分ですが」

「はい、正座」

「え?」

「せ、い、ざ」


 護衛隊長が正座をする。


「なぜですか?」

「訓練はどうした?」

「はい。やっておりましたよ。あんな感じで」


 千里と護衛団長は、そろってセーラの背中を見る。


「そっか。やってたか」


 仕方ない、と、護衛隊長を開放する。


「桃ちゃん、どうする?」

「魔法特化にして鍛えるか、槍を何とかするかと」

「キキに乗せて突撃させる?」

「でも、それじゃ、自分でできなくなります」

「馬……」

「でも、最初の一頭をって」




 翌日、ホーンベアを狩りに行く。三人で。

 セーラは馬に乗って。千里と桃香はキキとララに乗って。


「千里! 熊の左から槍を入れてタゲを取って」

「はい!」

「桃香、熊の視線がそれたわ。その右側から槍の一撃を!」

「はい!」


 グオー!


「千里、もう一度タゲを取って。左回りに回って視線をそらして。なるべく上を意識させて」

「はい!」


 千里は槍を振り上げて、高く掲げた先端を熊に意識させる。


「熊の顎が上がったわ。桃香、のど元に槍を!」

「はい!」


 ザシュッ!

 ドサッ!


「やりました!」

「セーラ、ナイスリード」

「セーラさん、戦いやすかったです」


 千里と桃香がセーラをほめる。


「やっぱりタゲを取れる人がいると楽よね」


 セーラがふむふむと納得する。


「そうそう。そんな感じでオッケーで」

「千里、タゲ取りありがとうございます」

「セーラ、次に行こうか」

「はい!」


 そんな感じで、セーラの指示で千里と桃香が動き、ホーンベアを二頭三頭と倒していく。

 今は、討伐が目的なので、角だけを持ち帰る。




 千里がこそこそっと桃香に近づく。


「やばい、二頭でくる」

「一頭魔法でやっときますか?」

「もう遅いかも」

「千里、桃香、二頭来ます!」

「ほらね。意外と目ざとい」

「仕方ない、やりますか」

「千里! 左のをプルして」

「え? はい!」


 千里は左の熊に一撃を与え、タゲを取ったまま、引っ張っていく。


「桃香、右の熊の後ろに回って」

「はい」


 桃香が後ろに回り込むと、熊も気を取られてそっちを向く。


「こっちよ!」


 セーラが馬で突撃し、槍でクマの後頭部を小突いた。


 ぽかん!


「あっ」


 なんてしょぼい攻撃を、と、桃香が口を開ける。

 しかし、熊がセーラに気を取られ、首を回して桃香から視線を外した。

 その瞬間、


 ザシュッ!


 桃香が熊ののど元に一撃を入れる。

 浅いか、と、桃香が思ったが、


「桃香、千里のフォローを。走って!」


 セーラが桃香に命じる。一撃を入れられて鈍くなった熊はとりあえず放置する作戦のよう。


「はい!」


 桃香とセーラは千里のフォローに回る。

 三対一ならこれまで通り、危なげなく、倒せる。

 そして、戻ってきて、動きの鈍くなった熊にとどめを刺した。




 みんなで寄り添ってハイタッチを交わす。


「セーラさん、熊をポカッってたたくの意外とナイスでした」

「そうでした? よかったです」

「気を引くのに刺したら、槍が抜けなくなったりして危ないのです」

「それでも、千里が一体を離してくれたからですわ」

「セーラの指示よ」

「ふふふ。ありがとうございます」

「そろそろ帰る?」

「そうですわね。そうしましょうか」


 と、三人で帰ることにする。が、途中で、


「一頭見つけましたわ」


 と、セーラ。


「「……」」

「千里、桃香、お願いがあります。お二人の本当の戦い方を見せてもらえませんか?」

「あの、他言無用でお願いできます?」

「はい。もちろんです」

「じゃあ、桃ちゃんが一人でやります」

「え?」


 セーラは驚く。


「おーい、熊―」


 桃香が両手をぶんぶん振って、熊の気を引く。


「え、桃香、なんてことを!」


 セーラが桃香の全く無防備に熊を呼ぶその行為に驚く。

 熊はそれに気が付き、桃香に向かって走る。

 が、途中で転んで、動かなくなった。


「え? 何が起こりましたの?」

「魔法ですよ」

「魔法?」

「はい。私達は魔法も得意なんです」

「ですが、どんな魔法なのです? 発動したようには見えなかったのですが」

「じゃあ、近づいてみましょう」


 セーラは倒れている熊を観察する。すると気づく。


「延髄にアイスランスを一撃ですか? しかも後ろから?」

「ふふふ」


 桃香は肯定も否定もしない。なぜなら、アイスランスはアイスランスだが、ゼロ距離で発動させ、飛ばしていない。


「そうなのですね。本来なら私の指示なんていらないのですね」

「そんなことはないわよ。魔法は魔力を使うし、使いすぎると倒れちゃうしね。セーラの指示に従って戦っていた方が、楽だし確実だわ」

「そう言っていただけるだけでも……」

「あのさ、セーラ。戦うって言うのは、剣や槍を振り回したり、魔法を撃ちこんだりって言うだけじゃないよ。ちゃんと外から戦局をみて、指示を出すってのも大事な戦い方だと思うよ」




 砦に三人で帰る。


「おー、姫様が六頭もホーンベアを倒したぞ!」

「「「うおー」」」


 砦内で歓声が上がる。


「姫様、十分な成果かと思いますが、いかがですか」


 護衛団長が聞く。


「そうね。明日、王都に帰りましょう」

「はっ」

「千里、桃香、お付きでいてくれる間、私に魔法を教えてくれませんか?」

「いいよ」

「わかりました」


 こうして、毎晩のように全魔力を使った魔法を夜空に撃ちこんでから寝るという、はた迷惑な習慣をつける姫が誕生した。


(セ)「私、槍使いでしたっけ」

(千)「セーラさん、イグニッションを灯したまま熊に近づく勇気あります?(眼鏡くいっ)」

(セ)「ごめんなさい。ありません」

(千)「じゃ、槍使いで」

(セ)「……」

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