予選会(貴博と真央)
キザクラ商会にて。
「真央、クラリス、真っ赤な下着を買うのよ」
ミーゼルが色を指定する。
「えっと、私、白でいいのです」
「真央、どうせペチパンツを履くからどうでもいいと思っているでしょう? でも、勝負パンツを履くと自分に自信がわくのよ。だから、赤よ。って、言っているそばからクラリス、紫を選ばない」
「でも、センセは白が好きなのです」
ギン!
キザクラ商会の空気が固まった。
ミーゼルは白の下着を手に取る。
ルイーズもリルも。
そして、クラリスも。
「そういえば、セレンとレティは指輪を注文しなくていいの?」
シーナが二人に聞く。
「そういうのは旦那様に注文して欲しいので」
「私も。だから、旦那様のご帰還を待つことにするよ」
セレンとレティはそれぞれ答える。
「そうだね。じゃ、センセの帰ってくるのを待つんだね。早く帰ってくるといいね」
「ああ」
「うん」
一方で貴博サイド。
ラビとマイマイがそれぞれ足、背中に力を入れている。
「ラビ、マイマイ、いい感じだよ。きっともうすぐできるから!」
貴博は、ラビとマイマイに根拠のない励ましを送る。
なぜなら……実は貴博も、出したり消したりできるメカニズムをわかっていない。
ラビとマイマイの特訓は続く。
こうして、予選会の日がやってきた。
「それじゃ、行こうか」
ギルマスが声をかける。
ギルマスを先頭に、メルロとキャンベルがギルドを後にする。。
次いで、真央とクラリス、そして放課後木剣クラブの面々が三人について行く。
真央とクラリスは、黒の団服を着ている。
その中は、二人とも紺のセーラー服だ。
腰には木剣が装備されている。
「ねえ真央、本当に木剣でやるの?」
ミーゼルが真央の腰に装備された木剣を見ながら聞く。
「予選会はこれで十分なのです。きっと」
「きっとって」
その話を耳にしてギルマスは冷や汗を流す。
ギルマスもしつこく実剣を勧めた。
これまで西のギルドからは護衛を出していない。
つまり、相手はそれだけ強いのだ。
しかし、真央もクラリスもギルマスの提案を拒否。
あくまでも木剣でやると言い張ったのだ。
皆は、街の中央にある闘技場へと到着する。
「それじゃ、真央、クラリス。貴方達はあっちの控室ね。私達は応援席で観戦するわ」
「わかったのです。頑張ってきます」
真央とクラリスは出場者用入口へ、ミーゼル達は観客用の入口へと向かった。
観客席に入る手前、ミーゼルが放課後木剣クラブの全員に声をかける。
「はい。みんな、金貨一枚出して」
ギルマス、メルロとキャンベルは目を点にする。
一少女が持っていていい硬貨ではない。
しかし、全員がそれをミーゼルに渡した。
「それから、真央とクラリス、センセ達の分は建て替えておくわ。じゃあ、行ってくる。席取っといてね」
「了解。よろしくー」
ミーゼルは走って行ってしまった。
「あ、待て、私も行く」
ギルマスが走り出す。
「ギルマス、私達に給料の前借を!」
メルロとキャンベルまで走り出す。
「さあ、席を取っておきましょ」
ルイーズ達は観客席へと上がっていった。
ミーゼルとギルマスたちが戻ってくる。
「どうだった?」
ルイーズが聞く。
「ふふ。聞いて驚け。なんと、百倍だよ」
「え、金貨百枚になっちゃうの?」
「すごいよね。ぼろもうけよ」
一方、ギルマスたちは真剣だ。
それぞれ銀貨十枚も真央とクラリスに賭けた。
百倍と言うことは銀貨千枚。
金貨にして十枚。
「ねえ、ギルマス、何でこんなに人気ないの?」
ミーゼルの質問にギルマスは顔を伏せて言う。
「この十年、西ギルドからは代表が出ていないんだ」
メルロとキャンベルも視線を逸らす。
「それに、今年はメルロとキャンベルじゃなくて、無名の真央とクラリスだろう? しかも人間。人気が出るはずがない」
「そうなんだ。どうしようか。金貨もう一枚ずつ賭けてくる?」
ルイーズをはじめ、全員が金貨をもう一枚出してくる。
「じゃあ、行ってくるね」
ミーゼルが立ち上がると、
「ミーゼル様、お願いがございます」
ギルマスがミーゼルになぜか「様」をつけてお願いをする。
「金貨を一枚貸していただけませんでしょうか」
借金のお願いだ。
「様」付もおかしくはない。
「私もお願いします」
「私もです」
メルロとキャンベルもだ。
はぁ。ミーゼルはため息をつき、三人に金貨を一枚ずつ渡した。
「知らないわよ。負けても」
「ミーゼル様達が自信たっぷりに金貨を二枚もかけるなら大丈夫です」
そう言って、ギルマス達も走って行った。
その結果、一瞬真央達の倍率が九十五倍程度まで下がったものの、一番人気の東ギルドの倍率が上がるや東ギルドに賭ける者が続出。
結局、西ギルド、真央とクラリスの倍率は百倍に戻ってしまった。
真央とクラリスは控室に入る。
そこには、犬人族の騎士が二人、猿人族のごつい女性が二人いた。
「ぶふっ!」
猿人族の一人が真央とクラリスを見て噴き出すように笑う。
「笑っちゃ悪いよ、お姉ちゃん。メルロやキャンベルでも勝てないからって、あんなちびっこを西ギルドは出してくるなんて」
「だってよ。そんなんだから私らの倍率が二倍にもならないんだぞ? 賭ける気も失せるだろう。観客も盛り上がりやしない」
それを聞いた真央。
クラリスと共に猿人族の二人の前へと颯爽と歩いて行く。
「今日はよろしくなのです。私は真央、こっちはクラリスです」
そう言うと、猿人族の二人は、
「あはははは。挨拶ご苦労。私がオラン、こっちが妹のポンゴだ。よろしくな」
バンバン
と、真央の肩を叩きながら名のった。
「なあ、真央。あの二人、タンクトップに短パンだが、あれ、雄じゃないのか?」
クラリスが真央に言う。
オランやポンゴに聞こえるように。
「貴様ら、死んだぞ?」
と、オランとポンゴがすごんだところで、
「あははははは」
と、笑い声。
犬人族の騎士の一人だ。
「悪い悪い。思っても声に出していいことと悪いことがあるぞ。まあ、冒険者は自由だからな、いいのかもしれんが」
「隊長、隊長も大概です。それ、思っていたって言っているようなものじゃないですか」
「そう言うなネーブル。ついついな。聞かなかったことにしてくれ。騎士は品性が大事だからな」
そう言って犬人族の騎士が近づいてくる。
「私が我が国の第二騎士団長ライムだ。こっちが副団長のネーブル。よろしくな」
「ちっ、私らが騎士団に入らないから騎士団長をやれているっての、わかってないのかね」
オランがやれやれと両掌を天井に向ける。
「言っただろう? 騎士団は品性が大事だと」
「去年も一昨年も負けた分際でよく言うよ」
「まあ、一昨年は様子見だったし、去年はメルロとキャンベルが強かったからな。実質お前達の不戦勝ってところだろう?」
「ふ、今年はそのちびっこに足元すくわれないように、万全で決勝に来いよ。そのうえで叩きのめすから」
「言ってろ」
ライムとオランが視線をぶつけた。




