メルロとキャンベルの再就職と初任務(貴博と真央)
「ラビもマイマイも、ツノはよかったの? 何かの器官だったりしなかったの?」
貴博が疑問に思っていることを二人に聞くが、二人とも首をかしげだけだ。
「いえ、特に何も。ホーンラビットたちとの連絡も取れますし」
とは、ラビ。
「はい。それに、私達はご主人様にお仕えし続けることが出来るのであれば、ツノなど必要ありません。逆にご主人様にお仕えするため、ツノは必要ですか?」
マイマイは、主人に仕える魔物としての証明が必要かどうかを逆に聞く。
「いや、いらない。あっても困らないけど、無くてもね。ラビはラビ、マイマイはマイマイに変わりはないよ」
まあ、あったから騒ぎになったんだけど、と、思いつつ、それは言わないでおく。
すると、突然ラビが貴博に抱きついた。
「ラビ?」
「マイマイだけご主人様に抱きついてずるいのです。しかも、マイマイは服を脱いで抱きついて」
「えっと、ラビ……」
貴博が、ドウドウと、ラビの背中をタップする。
「ハッ、従者の分際で申し訳ありません」
ラビは急いで離れて、跪いた。
「ラビ、気にしなくていいよ。嬉しいときは嬉しいって言おう」
「はい。ありがとうございます」
「で、マイマイ、いつまで全裸でいるの?」
貴博はマイマイから視線を外しながら聞く。
だが、マイマイは服を着ようとする気配すらない。
「私の甲羅ですが、もし、貴博様の盾となれるのであれば、必要かもしれないと思いなおしました。出せるなら自在に出せるようになっておきたいのですが」
「なんか、マイマイだけずるい」
そういうラビに対してマイマイがニヤリとする。
「あー、マイマイ。なにその勝ち誇った顔」
「ふふん。私は特別なのです」
「む、怒った。マイマイが特訓するなら私も特訓する」
「なんの?」
「何か出して見せる。そして、私は貴博様の剣になる!」
ラビもそう、意気込んだ。
そんな時、
「貴博様、カンタフェから連絡が入ってますが」
サンタフェがカンタフェからの連絡を貴博に伝える。
「あ、真央達に連絡するの忘れていたね。しばらく帰れないからって、言っておいて」
「承知しました」
「さあ、どうしようか」
貴博は探査魔法を広げる。
特訓する場所ねぇ、と。
「向こうの方に湖があるから、そこでしばらく特訓しようか」
「「はい」」
三人は、湖に向かって歩き出した。
湖は湖畔も広く、キャンプをするにはちょうどよさそうだ。
貴博は、地面に手を当て、魔法を発動させる。
「家よ出てこい!」
ゴゴゴゴゴ
と、岩壁が持ち上がる。
そして、四方に壁を作り、その上部を丸めて屋根にする。
不格好ではあるが、もともとタカヒロには芸術的センスはない。
「さてと、後は窓をつけてと」
とはいえ、穴をあけただけで、ガラスなどはないのだが。
「キャンプ用品、全部おいてきちゃったから、こんなものでごめんね」
「いえ、ご主人様といられるのであれば、たとえ火の中です」
「そう言ってくれると助かるよ。まずは食事の準備をしようか」
「それでは、私達がいつものように魔物を狩ってきます」
「ご主人様は休んでいてください」
そう言った瞬間、二人は森へと飛び込んだ。
「あれ、あの子達、スピードが増しているかな?」
こうして、数日間にわたる特訓が始まった。
翌日、獣人の街の冒険者ギルド。
「ふわー、よく寝た」
ミーゼルが体を起こす。
「えっと、ここは……」
見回すと、殺風景な部屋。
窓が一つにベッドが四つ。
ミーゼルの横にはルイーズが寝ている。
その他のベッドには、マオとクラリス、リルとシーナ、セレンとレティがそれぞれ寝ている。
「あたたたた、ちょっと頭が痛いわね」
ミーゼルがおでこを押さえながら発したつぶやきに、ルイーズが起きる。
「おはよ、ミーゼル」
「ルイーズ、ここは?」
「覚えてないの? ギルドの来客室よ」
「へ、へえ。そ、そういえば、獣人の冒険者たちと飲んでいて。それで、そいつらはどうなったの?」
「……結論から言うね。ギルドマスターの部屋のベッドでギルマスとキュロちゃん。それにソファに受付嬢さん。一階では、冒険者達が雑魚寝してるわ」
「あれ、メルロさんとキャンベルさんは?」
「冒険者仲間と一緒じゃないのかな?」
「女性なのに?」
「冒険者なら一緒に野営することもあるんじゃないの?」
「それもそうか」
「キャー!」
突然、一階から悲鳴が上がる。
「メルロさん!」
ミーゼルとルイーズが部屋を飛び出す。
その喧騒に真央達も起きだした。
同じように、ギルドマスターの部屋からギルマスが飛び出す。
「何があった!」
二階からギルマスが叫ぶ。
メルロが泣きそうな顔でギルマスに言う。
「服が、服がよごれちゃって……」
「キャァ、私も!」
と、キャンベルも声を上げる。
「……」
ギルマスは冷静に諭す。
「そんなところで寝てりゃ、服も汚れるだろう?」
「だって、だって」
「これ、ソフィローズなんです。高いんです。高級品なんです」
メルロもキャンベルも半泣きだ。
「何でそんな高い服を買ったんだ?」
「嬉しかったんですもん」
はぁ、と、ギルマスはため息をつく。
「家に帰って着替えろよ」
「持ってる服、もう着られませんし、入りません」
「私もです」
「安い服を買ってきたらどうだ?」
「お金ないんです。ソフィローズは高いんです」
「……」
ギルマスはおでこを押さえる。
冒険者らしいお金の使い方だ。
「冒険者らしく、依頼を受けて稼げよ」
「冒険者の服も着られないんです。それに、この胸では……いえ、後悔はしていませんよ。満足しています。すごいです。そう言う意味では、自信がつきました」
「昨日なんて言っていた? 王子様? 騎士様?」
ギルマスの記憶力にメルロもキャンベルも顔を赤らめる。
「そんな冒険者の男どもと雑魚寝をする女を、どこの王子様が? どこの騎士様が?」
「ギルマスー」
「そんなこと言わないで助けてくださいよ」
「はぁ」
ギルマスはため息をつく。
そして提案する。
「仕方ない。制服を支給してやる。ギルドで働け」
「はい」
「ありがとうございます」
元冒険者の二人の再就職が決まった。
その様子を見ていたミーゼルがギルマスに言う。
「ギルマス、お腹すいた」
「……拘留はもう終わりだ。自分達で食ってこい」
「え、最後までちゃんと面倒見てよ」
「そもそも泊めなくてもよかったんだぞ?」
「むう」
ミーゼルは唇を尖らせて部屋に戻る。
ギルマスの「昨日、いくらかかったと思っているんだ」というつぶやきは聞かなかったことにする。
セレンなんて、壁に穴まであけている。
そういうのまで請求されたらまずい。
「みんな、逃げるよ」
ミーゼルが声をかける。
「どうしたのです?」
真央が聞く。
「昨日、ギルドの壁にまで穴をあけたでしょ。請求される前に逃げよう」
全員がセレンを見る。
「え、私?」
「ええ、セレンです。牙狼のリーダーを蹴っ飛ばして、壁に穴をあけていました」
「あいつら、丈夫だな」
「さすがはプラチナランク」
そこ? と、ミーゼルは思うが、先にやることがある。
「よし、行こうか」
全員で部屋を出る。
そして、
「ギルマス、お世話になったのです」
放課後木剣クラブのリーダー、真央がお礼を言う。
「あ、お前達……」
ギルマスが手を伸ばして呼び止めようとするが、
「それでは失礼します」
と、全員がダッシュでギルドを後にした。
「あ、逃げられた」
そこへ、メルロとキャンベルが受付嬢の制服を着て更衣室から出てくる。
「ちょっと胸が苦しいわね」
ふふふ、と、メルロが笑っている。
「腰もちょっときつい気がする。ウエストは余裕だけど」
ふふふ、と、キャンベルも笑っている。
「……お前ら」
「は、はい?」
「ぎ、ギルマス?」
「初仕事だ。あいつら連れ戻せ」
「え? それ、受付嬢の仕事です?」
メルロとキャンベルの命令拒否に、ギルマスはおでこに青筋を浮かべる。
「大事な仕事が決まっていたのに、それをやる前に冒険者をやめた女冒険者は誰だったかな!?」
「「!!!」」
「早く行け!」
「「はい!」」
メルロとキャンベルは慌ててギルドを飛び出した。




