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激突(貴博と真央)

 貴博達の乗った馬車が城を出ていく。

 それを見送るセレン、ラビとマイマイ、そしてカンタフェとサンタフェ。


 その五人に後ろから声をかけた人物。


「セレンディ、それから、ラビとマイマイと言ったか」


 レミール女王陛下である。

  カンタフェとサンタフェはセレンの服に入り込んで慌てて隠れる。


「なんだ。今、のけ者にされたせいで気分が悪いんだが」


 セレンはレミールをにらみつけた。


「そうは言うな。ついてこい。一緒に見ようではないか」


 そこへ、もう一台、豪華な馬車がやってきた。


「これならおぬしでも乗れよう」


 そう言って、レミールは率先して馬車に乗った。


「ほら、行かぬのか?」


 馬車の中からレミールにそう声をかけられ、セレン、ラビとマイマイは女王の馬車へと乗り込んだ。


「セレンディよ。頼みがあるのだが?」


 馬車の中で、レミールがセレンに声をかけた。


「……この状況で頼みとは?」


 いまだ、怒りの収まらないセレン。

 だが、レミールに何か考えがあることはわかる。


「まず、フードをかぶって姿を隠してほしい。それから……」




 貴博達の乗った馬車は、闘技場の前に止まった。


 貴博達は、騎士に案内され、闘技場内へと足を踏み入れて行った。


「この通路をまっすぐ行くと闘技場です。その中央でお待ちください」


 闘技場内の通路途中で、ここまで案内してきた騎士と別れる。

 貴博達は騎士に言われたとおりに闘技場へ入った。

 その闘技場の観客席には大勢のエルフがいた。

 貴博達が闘技場に顔を出した瞬間から、盛大なブーイングが起こる。


「レティ、僕、エルフってもっと品のある種族だと思っていたけど」


 貴博がレティシアに、闘技場の観客席を埋め尽くすエルフに対する負の感想を漏らす。


「長い年月を生きるエルフは、ゆったりと時を過ごすため性格が穏やかなはずなのだが、戦争が起こったりこうしたイベントでは、普段娯楽があまりないこと、なじみがないことから興奮する者も多い」

「まあ、あの冒険者みたいに気の荒い者もいるからね」

「そうだな」

「真ん中に行けって言われたっけ」

「ああ」


 貴博達は盛大なブーイング、いや、殺意の中、闘技場の中央に向かう。

 そして、貴博達は闘技場の中央に横一列に立つ。

 すると、貴博達が入ってきた入口とは逆の入口から、ルノー達冒険者が入ってきた。


「やっぱりあいつらとやらないといけないのか」


 観客の様子から、何が起こるのか、おおよその予想はついていた。

 貴博達は冒険者達が入って来るのを見続ける。

 その列はなかなか切れないのだ。

 しかも、ぐるりと貴博達を囲っていき、それに合わせるように、貴博達も外側を向けて円形へと陣形を変えていく。


「センセ、ざっと二百以上います」


 状況を確認していたシーナが報告する。


「そうだね。これだけの人数を相手にしろっていうのか?」


 貴博が愚痴る。

 また同時に、メンバーに確認を取る。


「リル、ポーションは?」

「あります」

「でもね、なるべく治癒魔法を優先させる。ポーションを飲みすぎると動きが鈍くなるから」

「はい」

「治癒魔法は僕がかける。それから、真央、いける?」

「いけるもなにも、納得してもらうしかないのです」

「そうだね」


 ここまで相手の出方を見ていたいたレティシアが貴博達に謝る。


「すまない。こんなことになろうとは」




 そこで、闘技場の貴賓席に立つレミール女王陛下。

 後ろにはお付きの他、フードをかぶった人物が三人並んでいる。

 観客も貴博達を囲む冒険者達もレミールに視線を送る。


 レミール王女陛下は闘技場が静まったタイミングで大きく声を上げる。


「皆の者、人間はかつて、我らの国に攻め入った。まあ、逆に我らがこの街を奪ってやったがな。しかし、人間が敵だという事実には変わりはない。そうだろう?」

「「「「おー!」」」」


 観客席から歓声が上がる。

 こぶしが突き出されっる。


「我が娘、レティシアは我らエルフを裏切り、人間側についた。これは許しがたいことだ。我が娘とはいえ、遠慮はいらん」


 レミールは剣を抜き、貴博達に突き付ける。

 そして、宣言した。


「制裁を!」


 これにエルフ達が同調する。


「「「「制裁を!」」」」




「お母様? なんてことを!」


 レティシアが動揺する。

 しかし、それは始まってしまう。


 レミール女王が合図を送る。


「お前達、やれ!」




 その合図と同時に、ルノーが指示を出す。


「弓隊! 撃て!」


 全方位、冒険者たちの後方から弓が放たれる。


「ワールウィンド!」


 貴博が風魔法を使って弓矢を吹き飛ばす。

 それを見て、ルノーは弓から魔法へと攻撃を変える。


「弓を置け、魔法を撃ちこめ!」

「「「ファイアボール!」」」

「「「アイスバレット!」」」

「「「ウインドカッター!」」」


 今度は全方位から魔法が飛んでくる。


「迎撃!」


 貴博の指示で、クラリスが、ミーゼルが、ルイーゼが、リルが、シーナがそして真央が、迎撃のための魔法を放つ。


 ドドドドドドーン!


 魔法同士がぶつかり、大きな衝撃を生む。


「うっ!」

「きゃっ!」


 相殺しきれなかった魔法が、ミーゼル達に当たってしまう。

 数はエルフ達の方が多いのだ。


「エリアヒール!」


 貴博が治癒魔法を放ってメンバーの回復を行う。


 貴博は、円陣の真ん中で立ち尽くしているレティシアに声をかける。


「レティ! 固まっている場合じゃない。迎撃を。第二弾が来る!」

「な、なぜ、お母様!」


 レティシアは貴博の言葉を聞いていない。


「レティシア!」


 貴博が叫ぶが、レティシアの状態は変わらない。


 再び、貴博達を膨大な数の魔法が襲ってくる。


「ファイアウォール!」


 ズドドドドド!


 エルフ達の放った魔法のすべてが貴博のファイアウォールに阻まれる。

 それを見てルノーがついに声を上げる。


「抜剣!」


 それに合わせて貴博も応えるように声を上げる。


「全員、木剣装備!」

「「「「「はい!」」」」」


 相手が実剣を抜いたのに対し、貴博は木剣を装備することを指示する。

 これは貴博がエルフ達を傷つけたくないと考えているからでもあるが、どう考えても不利だ。

 しかし、真央も、クラリスも、ミーゼル達も、貴博を信じてその指示に従う。


 まともに打ち合っては木剣はもたない。

 ひたすら相手の剣をそらしつつカウンターを狙っていく。


 とはいえ、身体能力的には貴博達の方が圧倒的に上。相手の剣をよけ、そらし、そして木剣を打ちこむ。

 そして、蹴りを入れて突き飛ばす。


 貴博達は、未だ動けないレティシアを中心に背を合わせて円を描くように配置し、エルフ達と剣を交えている。


「人間はたった七人だろう。囲め! 攻めろ!」


 そう指示を出すルノーに対し、


「絶対に前に出るな。囲まれる!」


 と、突出しないようにと指示をする貴博。


 だが、相手は二百以上。

 こちらは七人。

 レティシアを入れて八人。

 技量は勝っていても、体力も精神力もいつまでもつかわからない状況だ。


「お前達、人間どもを休ませるな。絶えず打ち込め! 殴られたり蹴られたりしたら下がれ。治癒魔法をかけてもらえ。だが、焦ることはない。時間がかかればかかるだけ、こっちが有利だ。冷静にいけ!」


 ルノーの言っていることは正しい。

 貴博達は休むことなく、剣を交えている。

 一方のルノー達は貴博達に木剣で殴られても、後退し、治癒魔法をかけられ、また前線に出て何度も何度も剣を振るってくる。


 貴博も、真央も、クラリスですらも、声を上げることが出来ない。

 技量で優っているとしても、数は武器だ。

 ひたすら剣を交える。




 時間がとてつもなく長く感じる。一分しかたっていないのか、十分、二十分経ったのか、全くわからない。


「センセ、これやばい。ポーションなんて飲んでいる暇がない」


 ミーゼルがメンバーを代表して貴博に状況を報告する。


「治癒魔法は僕がかける。いつでも言って。とりあえずかけるよ。エリアヒール!」

「ありがと、センセ。まだ頑張れるよ!」

「私も!」

「私もです!」


 ミーゼルを始め、ルイーズもリルもまだ負けていない。

 エルフと向かい合い、木剣をふるう。




 だが、その時は来る。


「きゃっ!」


 シーナがついに突き飛ばされ、レティシアにぶつかる。

 そのできたすき間に飛び込んだエルフが、叫びながらレティシアに切りかかった。


「裏切者! 取った!」


 ガキン!


 レティシアが、ようやく剣を抜いた。


「お前、私の仲間を突き飛ばしたな!」


 ドガッ!


 レティシアが剣を交えたエルフの腹に蹴りを入れて突き飛ばす。


「レティシア、遅い!」


 ミーゼルの愚痴。


「悪い。私は決めた。女王だろうが、母親だろうが。私はお前達のために剣を振るう!」


 と、レティシアは宣言し、シーナの穴を埋めるべく前線に並んだ。


「シーナ、休んでいろ。その後、交代で誰かと変われ」

「はい!」


 今度はシーナを中心に全員が背を合わせて剣をかまえる。


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