接近(貴博と真央)
獣人の国に向かう道中、野営地にて、相変わらず訓練を行う放課後木剣クラブ。
ミーゼル達はセレンに胸を借りる。
「てやー!」
「甘い!」
ミーゼルの突きを手の甲で逸らすセレン。
「まだまだです」
すれ違ったミーゼルは体を回転させて横向きに剣を振る。
しかし、
ドスン!
セレンが一歩前に出て、ミーゼルを突き飛ばす。
ズササササー
ミーゼルが突き飛ばされて地面を滑っていく。
「いったーい」
倒れたまま腰をさするミーゼル。
「次、私が行くのです」
ミーゼルに代わり真央がセレンに挑む。
真央は剣をけさぎりに右上から左下に振るが、わざと空ぶると、そのまま体を回転させ、左足のかかとをセレンの横腹に撃ちこむ。
しかし、セレンはそれも読んでいて右ひじでブロックする。
「ほら、背中が丸見えだ」
そう言ってセレンは真央の背中をトンと押す。
「わっちゃっちゃ」
バタン!
真央が前のめりに倒れる。
「次は私!」
と、ルイーズが切り込んでいく。
セレンと真央達の特訓を見ていたレティシアは、一緒にそれを見ている貴博に話しかける。
「真央達の動きが悪いわけじゃないだろうに」
「そうなんだよね。セレンはやっぱりドラゴン族ってことかな」
「貴博なら一撃入れられるのか?」
「真央が無理な段階で無理。真央は僕より強いから」
「貴博はセレンと特訓しなくていいのか?」
「今ちょっと、やることがあって。そう言うレティシアも混ざった方がいいんじゃない?」
「どう考えても私があのレベルにいたってはいないことはわかってる。だからこうして貴博が剣を握るのを待ってたんだ。だが、やること?」
「うん。周りの警戒を」
貴博は、見張り役をしている。
魔力を広げて魔物やそのほか危険な生物が寄ってこないかを確認している。
いわゆる探査魔法でだ。
「そっか。それじゃ、私も混ざってくるよ」
「頑張って」
このパーティには、優香たちのケルベロスや千里達のフェンリルのように、代わりに見張りをしてくれる動物がいない。
ラビとマイマイにも頼んではいない。
よって、貴博が中心となって見張りをすることにしている。
とはいえ、馬車の周りに何も危険なものがないことを確認してしまうと、少し暇になる。
「僕も混ぜてもらおうかな」
貴博も木剣を持ち出して立ち上がる。
ただし、探査魔法を切ることはしない。
つまり、意識をよそに向けながら剣を振るう、そういう訓練を貴博はする。
だが、貴博に声をかけるリルとシーナ。
「センセ、私達の訓練に付き合ってください」
「お願いします」
そう言って、まずリルから貴博に向けて剣をかまえる。
リルとシーナが何の訓練をしたいかというと、対人戦は対人戦だが、魔法を使った対人戦の訓練をしたいのだ。
この二人はミーゼルやルイーズとちがって一歩下がって戦うことが多い。
シーナは指揮をとることが多いし、リルは創薬師でポーションを持ち歩いて回復役を担うことも多いだろうと予想される。
それに、ただでさえこのパーティは前衛が多い。
セレンは言わずもがな。
レティシアもエルフのくせに騎士として前衛だ。
魔法使いの恰好をしているラビとマイマイは全く持って前衛なのだ。
もちろんシーナとリルも、放課後木剣クラブであることはだてではなく、前に出てもそんじゃそこらの騎士には負けない自信がある。
しかし、未だにミーゼルやルイーズですらラビとマイマイには勝てないのだ。
「では、来てください」
と言うリルに、
「行くよ」
と掛け声をかけて、貴博が剣をもって突進する。
しかもフェイントを駆使して。
リルは剣をかまえながら、アイスバレットを乱発する。
しかし、貴博はそのアイスバレットをよけたりはじいたりしながら、リルに近づいていく。
リルは貴博のフェイントを追いかけるようにアイスバレットを右へ左へと撃ちまくる。
そして、貴博が間合いを詰め、
ガキン!
リルの剣と貴博の剣が交わる。
つばぜり合いをしながら貴博はリルを褒める。
「リル、すごいね。魔法のイメージがうまくなったんじゃない?」
「でも、ここまで接近されちゃうと、センセには剣ではかなわないし。まいりました」
「次は私です」
シーナが剣をかまえる。
この魔法を撃ちこむ訓練は、貴博相手にしかしない。
本当に当たってしまっても貴博なら自分で治癒魔法をかけるからでもあるし、これだけ避けることができるのが、貴博か真央くらいなのだ。
セレンはアイスバレットくらいであれば、よけずにまっすぐ突っ込んで来るし。
ちなみに、ラビとマイマイは相変わらずというか、気に入った大鎌を使って二人で特訓をしている。
突如、貴博が右手をシーナに向けて待ったをかける。
「え?」
「ごめん。ちょっと待って」
貴博は、セレンに蹴り飛ばされて転がっているレティシアの下へと急ぐ。
「ヒール!」
と、レティシアを抱きかかえて治癒魔法をかける。
「え?」
レティシアが顔を赤くする。
貴博は、そんなレティシアにはお構いなく、レティシアのほほに自身のほほを近づけていく。
レティシアの、エルフの白い肌ががますます赤くなる。
「貴博!」
そう言って、レティシアが貴博を抱きしめようと決意をした瞬間、
「誰か来る」
貴博は真面目な顔をしてレティシアの耳にささやいた。
「え?」
レティシアは目を丸くする。
「後ろから二十名。あと、北と南にも二十ずつ。方向から言って、エルフじゃないかと」
「え?」
「どうする?」
貴博はエルフのことはエルフに聞く、そう思ってした行動だが、
「センセ!」
「何しているんですか!」
ミーゼルと真央が貴博の襟首をつかんでレティシアから引きはがした。
「え?」
今度は貴博が目を丸くする。
「センセ、「えっ」じゃないです。突然どうしたんですか」
真央は顔を真っ赤にして訴える。
「ほんとだよ。突然レティシアさんに抱き着いて、き、き、き、キスを?」
ミーゼルも顔が真っ赤だ。
「え?」
「センセはやっぱり大人の女性が?」
ルイーズまで勘違いをする。
「旦那様。説教だな」
クラリスが貴博にジト目を送る。
「ちょっと待って、何を?」
「ま、まさか、センセ、無意識にレティシアさんを!?」
真央が驚きの声を上げる。
だが、このやり取りを止めた者がいる。
セレンだ。
「さてと、その茶番劇はその辺にして、全員体力を回復させておけよ」
「「「「え?」」」」




