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千里、災厄をめんどくさがる(優香と恵理子)

「ローレルさん、呼んでくれる?」


 千里がちょっとだけホッとする。

 自分がなにやらやらかした件ではなかった。


「おーい、ローレル。ルージュにフォンデも」


 千里が呼ぶと、三人のエルフがやってくる。


「ローレルさん?」

「呼び捨てでいい」

「ローレル。お願いがあるんだけど」

「何?」

「セーランジュ女王陛下に出兵要請したでしょう」

「うん」

「取り消してないよね」

「うん」

「アストレイアまで進軍してくると思うけど」

「うん」


 ローレルが冷や汗をかく。

 ルージュとフォンデはジト目だ。


「えっと」


 恵理子が発言しようとするが、ローレルがかぶせてしまう。


「だが、ここにいる以上、伝令なんて出せない。来春まであきらめてもらったらいいんじゃないか?」

「そうよね。でも、仕方ない……のかしら!?」


 恵理子の疑問に対して、ローレルに助け舟を出すのは千里。


「セーラでしょ。ほっといても、何とかするわよ」

「千里ちゃん、相変わらずのポジティブ思考。まあ、困るのはアストレイアの国王ね」


 兵站はアストレイア持ちだ。

 ハァ、と、この件についてはあきらめて、ため息をつく恵理子。


「それじゃ、ルビーさんを呼んで」


 別件へと話を移す。


「おーいルビー」

「ネフェリ、リピー」


 それぞれがそれぞれの所属ドラゴンを呼ぶ。


「ローレル、って言うか、千里ちゃんか桃ちゃんかだけど。女神様の自治領シエルとマイナンの街にほとんど騎士も兵士もいないってわかってる?」

「「「???」」」


 わかっていたが、忘れている。

 というより、けっこうどうでもいい。


「やっぱりね。でね、戦争の危険性はあんまりないんだけど、魔物が現れた時に大変だから、緑ドラゴン族に来てもらっているんだけど。いい?」


 優香は説明しつつルビーを見る。


「気にする必要はない。ただ、ワイバーンの営巣地に足を踏み入れない、いや、踏み入れてもいいが、刺激を与えないで欲しい。それだけだ」

「わかった。ありがとう。ネフェリ。悪いけど、そういうことで、リョクレイさん達に伝えてくれる?」

「了解した」


「ちょっと待って!」


 千里が気づく。


「緑ドラゴン族がシエルにいて、何か伝える手段が緑ドラゴン族にあって、セーラがそこまで来るんだったら、セーラへの伝言を頼めるんじゃないの?」

「そ、そうかな?」


 優香がネフェリに視線を送る。


「そのセーラがシエルまで来るのならな」

「じゃあ、セーラへの伝言を伝えてほしい」


 千里はリョクレイに伝言をお願いする。


「「ハウス!」 って」


「「「「「……」」」」」


 優香も恵理子もリョクレイも、桃香とローレルですらジト目だ。

 なんて扱い……。


「ち、千里ちゃん」


 恵理子が何とか口を開く。

 千里は首をかしげる。

 何か間違っただろうか。


「いくら何でも、セーラさんの扱い、ひどくない?」

「え? いいのよ。あの子、っていうか、うちのメンバーけっこうドMだから」

「「「「「……」」」」」


 桃香もローレルも首を横に振る。


「うちの子達、自分を鍛えるの好きだし、戦闘の時なんて、最初の一撃を受けるのよ、わざと」


 優香と恵理子はローレルに視線を送る。

 当然、ローレルは視線を逸らせる。

 聞き耳を立てていた他のメンバーもだ。


「でも、やっぱり伝言はいいわ」


 千里がリョクレイへのお願いを取り下げる。


「だって、もう冬になるじゃん。船、出ないよね。なら、もう帰れないし、アストレイアでお世話になってればいいんじゃないの!?」

「「「「「……」」」」」

「そ、それもそうね……」


 千里のお気軽発言に恵理子は再びあきらめる。

 マティのお父さん、ごめんなさい。

 そう思いながら。


「じゃあ次ね」


 優香が千里のメンバーを見回して千里に言う。


「ミケリナさんっている?」

「おーい、ミケ」

「はい」


 千里に呼ばれてミケがやってくる。


「何でしょうか」

「はい、これ」


 と言って、優香はミケにブレスレットを渡す。


「あなたのお父様からよ」

「ブレスレット! うれしいです。お父様に会ったのですか?」

「ええ、あなたのお父様もお母様も、冒険に出たあなたのことをうらやましがっていたわ。それに、バウワウの街からフィッシャーまで、あなたのお父様に送ってもらったの」

「そうだったんですか。うふうふ」


 と、ミケは嬉しそうにブレスレットを左手首にはめた。


「それ、大事なものなのね」

「ええ。お父様とお母様にもらった大事なものなんです」

「ミケリナさん」

「ミケで……」

「ミケ、それ、家宝だって言っていたわよ」

「え?」

「代々伝わる黄昏の秘石ですって」

「そんな、えっと、よくわからないですが、お宝みたいなものだったんですか?」

「そうみたいね。私達もわからないけど。だからもうなくさないでね」

「はい。大事にします」


 と言って、ミケが下がろうとする。


「あ、ミケ、待って」


 優香が慌ててミケを引き留めるが、千里から横やりが入る。


「ねえ、優香さん。まだあるの? その事務連絡みたいの」


 千里が飽き始めた。


「うん。大事なこと。二番目に」

「一番は?」

「もちろん貴博さんと真央ちゃんを探すことよ」

「で、二番目のそれは何?」

「ミケの持ってるそのブレスレット、黄昏の秘石って呼ばれているらしいの」

「さっき聞いたけど、改めて確認すること? それで?」


 優香は千里に答えることなく、リーシャを呼ぶ。


「リーシャ」

「はい」


 優香に呼ばれたリーシャがやってくる。


「リーシャの持っている石が暁の秘石。これは魔族が代々伝えている大事な秘石」

「秘石……、それ、私達になにか関係ある?」

「千里ちゃんはこはる母様から何か聞いていない?」

「ん? 聞いていないけど。っていうか何を?」

「リーシャ、お願い」

「はい。承知しました」


 リーシャは千里と桃香に向き合う。

 そしてこはるの言葉を一言一句たがえずに語る。


「六人の勇者が六つの秘石をもって、三大陸の中心に集った時、世界が荒れる。大地が裂け火が登り、空を焦がして闇を連れてくる。しかし、それは予期せぬ災いではなく必然。未来の希望につなげるための試練。その試練を乗り越えねば世界が終わる。六つの秘石を集めよ。六人の勇者よ早急に集え。しかし、その前に対策を取ることも重要。何が優先されるべきか、それは誰にも分からん」

「「……」」


 千里と桃香が目を点にする。


「ねえ優香さん。さすがの私でもそんな妄想信じないわよ?」


 千里も桃香もジト目を優香に送る。


「だけどね、私達のところにいるエヴァも秘石かどうかわからないけど、それらしい言い伝えと共にもらっているの。エヴァ、いい?」


 エヴァがやってくる。

 そして、目をつむり、両手の指を組んで、思い出すように語る。


「やがてこの世界に災厄が訪れる。その前兆として、勇者が、聖女が現れるであろう。もし、我がカヴァデールを象徴する白の大蛇を倒せるものが現れたら、この国を譲ってほしい。そのものが新しいカヴァデールである。勇者、聖女と共に戦うものである」

「ね、災厄の前に勇者と聖女が現れるの。で、その勇者と一緒に災厄に立ち向かのがカヴァデール。つまり、エヴァなの。その時にエヴァは石をもらっているの」

「ってことはなに? 私達六人がその勇者とか聖女で、一緒に立ち向かう……。さっき、エヴァが言ったのは戦うよね。何か戦う相手ってこと? その災厄」

「そういえば。災厄と戦う……何かしら」

「まあ、おいておいて、要は、六人の勇者と六人の石を持った人が必要ってことなのね?」

「こじつけかもしれないけど」

「それで、そうとして何を確認したいの?」

「石を持っている人がいないかと。しかもこれまで、魔族、人間、獣人ときてだから。それ以外の種族で」

「それ以外って、精霊かドラゴン族かエルフ……」


 すると、そっと手を上げるローレル。


「シルフィードの姫に伝わっている秘石……名前は知らない」


 そう言って、深緑の石がはまったペンダントを胸から取り出す。


「って言うことは、私達四人とおそらくセンセと真央ちゃん、この六人が勇者とか聖女とかってことで、ローレル達、秘石を持った子たちを連れて、三つの大陸の真ん中、つまり、あの山脈の中へ行くと、大地が裂けて、火が登って、空が焦げて、私達が何かと戦うと。それをしないと、この世界が終わる。ってこと?」

「この話を信じればだけどね。でもね、私と恵理子は不本意だけど、勇者とか聖女って呼ばれてしまっている。でも、千里ちゃん達はなんだっけ、業火の女神と雷鎚の女神? 女神なんでしょ!?」

「「……」」

「ねえ、アンヌさん、サーナさん、このことを知ってるパパとかお母様とか何か情報ない?」


 突然の優香の質問に、アンヌが姿勢を正し、目を伏せて答える。


「申し訳ございません。その件については、緘口令が敷かれました」

「「……」」

「えっと、知らない、ではなく、緘口令……」


 優香がつぶやく。

 そして千里が口を開く。


「私としては、センセと真央ちゃんを見つけるのは絶対だからいい。だけど、その災厄とやらはめんどくさい」


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