風呂場の挨拶(優香と恵理子)
「あ、ルビーいた」
ネフェリが湯船に浸かったルビーを見つける。
「ネフェリにリピー、来たのか」
「ああ、優香と恵理子に付き従っていればそりゃな」
ルビーがネフェリにゼットのドラゴン族について教える。
「このパーティにはもう一人ドラゴン族がいてな。そこの水風呂に浸かっている奴なんだが、アイスドラゴン族のフローラだ」
水風呂に浸かっているフローラが手を上げる。
「ネフェリだ」
「リピーだ」
ドラゴン族も挨拶を済ませた。
リーシャが猫耳娘を見つける。
「あー、猫耳! 天然?」
バッシャーン!
リーシャが声をかけながらミケの前に飛び込む。
ミケは顔にかかったお湯を拭きながら答える。
「は、はい。猫人族のミケリナです」
「かわいい、かわいい、かわいー!」
「は、はあ。ありがとうございます」
リーシャは風呂では当然猫耳も猫しっぽもつけていない。
よって角が丸出しだ。
「あ、貴方は?」
「魔族のリーシャ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
アクアがフローラと一緒に水風呂に浸かったルシフェを見つける。
「あなた、高位精霊よね」
「ええ。ルシフェ」
「私はアクア。この子はパイタン」
「よろしくです」
「精霊は一人?」
「でもお母さんがいる」
と言って、ルシフェはフローラを指さす。
「そっか。いいね。お母さんと一緒で」
「うん」
「ローレルさんですか」
エルフを見つけて近づく姫様隊。
何で私まで、というベルのつぶやきは無視された。
「そうだ。お前達は?」
「私はオキストロ・ノーレライツ」
「ノーレライツ? あのアストレイアの東にある国か?」
「はい。そこの王女でした」
「でした?」
「ええ。こうやって優香様と恵理子様と一緒に旅をしているのが楽しいので」
「ははは。違いない。私も姫なんてやめて、千里達と旅をしている方がいいがな」
ルージュとフォンデがローレルにジト目を送る。
「それから、こっちがマティルダ・アストレイア。こっちがエヴァンジェリン・カヴァデール。で、この人が私達のお姉さん。ベルです」
「おい。王女に女王までか。ベルと言ったか。大変だな。こんな奴らの姉で」
「そういう苦労はわかってください」
と、ルージュが突っ込む。
「本当ですよ。下手に権力を持った自由人の従者がどれだけ大変か」
フォンデも同調する。
「あははははは。でも、私、最後に入ったから、年齢的にはお姉さんですけど。一番の後輩なんです」
ベルが後頭部をかきながら苦笑いをする。
「家族に順番なんて関係あるか? 気にしたら負けだぞ?」
「それ、セーランジェ女王への対抗心でしょ?」
「ルージュ。何を言って」
あはははは
そのほか、レオナとジョセフィーヌ、第四騎士団は、ユリア、ミリー隊やオリティエ隊と触れ合う。
その光景を見ていて優香が口を開く。
「千里ちゃんと桃ちゃんも、素敵な家族を見つけたのね」
「優香さん達だってじゃん。魔族にドラゴン族に精霊? 多種多様だよね」
「千里ちゃん達だってそうじゃない。エルフにドラゴン族に精霊に猫人族?」
そこへ桃香が口を開く。
「ねえ、優香さん、恵理子さん。またずっと、もうずっと、一緒に暮らせるんですよね」
「「「……」」」
優香、恵理子、千里が視線を合わせて言う。
「「「当然じゃない」」」
そう言って桃香に三人が抱き着いた。
「千里さん、優香さん、恵理子さん、危ないです。お風呂の中で騒いじゃ……騒いじゃ……うわーん。嬉しいです。嬉しいです。私、みんながいなくなった後、寂しかったんです。うわーん」
桃香がまた泣き出してしまう。
「桃ちゃん。ごめんね」
「桃ちゃん、ありがとうね。私達のこと」
恵理子は「看取ってくれて」の部分は言わない。
「もう、もうおいていかないで。お願いです。お願いですから。あーん」
桃香が大泣きをする。
すると、さすがに浴場である。
その泣き声は大きく響く。
クサナギとゼットの面々が注目することになる。
だが、誰もそれを止めようとしない。
言葉も発しようとしない。
ただただ、見守る。
恵理子の胸に抱かれて泣く桃香を。
だが、突然、
パタン!
と、桃香の首が折れた。
「キャー、桃ちゃんが、桃ちゃんがのぼせた!」
恵理子が桃香を抱いたまま立ち上がる。
「どうしたらいいの? 水風呂? 水風呂かしら?」
おろおろする恵理子に、
「恵理子さん、看護師だったじゃない!」
という意外にも冷静な突っ込みをする千里。
「恵理子さん、頭を冷やして、それから足を上げて」
優香の助言に恵理子は脱衣所へと桃香を運んで行った。
「恵理子さんがあんなに慌てるの、久しぶりに見たわ」
千里がつぶやき、それに優香が答える。
「そうよね。あの時以来かしら」
「あの時は、私が一番取り乱しちゃったから」
貴博が死んだ日である。
「ところで、千里ちゃん達はご飯食べたの?」
桃香がのぼせても落ち着きを見せる優香が話を変える。
「訓練をした後に汗を流してたの。だから、まだよ」
「じゃあ、上がってご飯を頂きましょうか」
「桃ちゃんは回復するといいけど」
「そうね。だけど、大丈夫よ。ちゃんと看護師がついているんだから。そうそう。千里ちゃんも治癒魔法教えてもらった?」
「もらった」
「きっと、恵理子さん、治癒魔法使うわ」
「すごいよね。治癒魔法って。医者いらずだもん。でも、きっと桃ちゃんには治癒魔法効かないわ」
「え? 千里ちゃん達、どれだけ魔力量あるの?」
「……わかんないけど、増えちゃった。さ、私も上がるか。桃ちゃんに治癒魔法をかけないとだし」
脱衣所に、人数分のソフィローズが用意されており、皆、それに着替える。
桃香も千里の治癒魔法ですっかり元気を取り戻した。
食堂へと移動すると、整列していたメイド達の中から、サーナが声を発する。
「本日は、皆さまお話をしたいこともたくさんあると思い、立食にさせていただきました。どうぞ、ご自由にお食事をしていただければと思います。何かあれば、私どもに」
「ありがとう、サーナさん」
優香が答える。
「優香さん、発声をお願いします」
千里が優香に振る。
皆が果実酒をつがれたワイングラスを持つ。
「クサナギゼットの皆さま。始めまして。今まで、千里ちゃんと桃ちゃんのこと、ありがとうございます。それから、うちのメンバーにも感謝を。おかげで、こうして四人が出会うことが出来ました。本当に嬉しいです。もうこれで、クサナギもクサナギゼットもなくなります。一つの家族です。よろしく。カンパーイ」
「「「「カンパーイ」」」」
「優香さん、クサナギを無くす必要はないんじゃないの? 私達がクサナギに入ればいいんでしょう?」
千里が聞く。
「あ、そっか。でもいいの? ゼットを取っちゃって」
「そもそもクサナギにしたかったのに、同意がないと入れないって言われて」
「そっか。じゃあ、クサナギは残す?」
「それでいいと思うよ。だから、次に冒険者ギルドへ行ったときにこっちの冒険者カードを直すわ」
「そうしましょうか」
「さてと、これまでのこととか、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、それは夜に四人でしてもいいわよね」
「うん」
恵理子の提案に千里がうなずく。
「事務連絡っていうか、現状でのお願いがあるんだけど」
「何?」
千里が怪訝な顔をする。
なにかやらかしただろうか……。




