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シエル到着(優香と恵理子)

 シーガル辺境伯の手紙をもって早馬がノーレライツ王都を目指す。

 その手紙は十日ほどかけて国王の下へと届いた。

 ドレスデン軍よりずっと早く。


「ドレスデン王国軍千五百? 何とか王都へおびき寄せろ。来年の侵攻に向け、殺していい兵士が欲しかったところだ。必ず捕らえるぞ」

「はっ」

「悪魔の血も用意しておけ」

「承知しました」

「それから、奴隷の首輪はどうなっておる」

「順調に生産されております。まあ、我が国のある意味特産品ですからな」

「悪魔用も作っておけよ。千五百も必要なんだ」

「承知しておりますとも」




 優香達は何事もなくシエルの街にたどり着いた。


 シエルの門兵は、巨大な馬車を引くケルベロスを見て、誰が来たのかを察する。

 本当はシンベロスだが、この世界ではケルベロスもシンベロスも区別されていない。

 見たことも比べたこともないのだから仕方ないことだ。


「マオ様、冒険者パーティクサナギの御一行様ですね。どうぞお通りください」


 優香も恵理子も名前の変更をしたことをここでは説明しない。

 いちいちしていたらめんどくさい。

 ただ、優香はすでに仮面を外し、女性としての顔をさらしている。

 そのため、門兵にはタカヒロとして認識されていない。


「どうします? 屋敷へと向かいますか? 冒険者ギルドでしょうか」


 街道を進みながら、ミリーが優香に聞いてくる。


「うーん。屋敷かな。千里ちゃん達がいればラッキーだし」

「承知しました」


 馬車は屋敷へと向かって進む。




 しばらくすると、前方から馬にのった騎士が二人やってくる。


「マオ!」


 マークスとルークスである。


「あ、マークスにルークス、久しぶり。でも、どうしてここに?」


 恵理子が二人に応える。

 ついでに、なぜここにいるのかと、尋ねてみる。

 二人は王国の近衛騎士団長と副騎士団長のはず。


「女神様方に配置換えをくらった。近衛は首だってさ」

「え? そうなの?」


 恵理子も優香も複雑な思いだ。

 女神様方に、ということは、千里と桃香がやったこと。

 とはいえ、近衛としてこの二人は優秀だった。

 首にされる理由はない。


「アストレイアの国王様がな、俺らのことを自由にしていいって言ったせいで、女神様が、「じゃあもらう」だと。自由すぎるだろうあの女神達」


 千里らしい。

 優香も恵理子も納得する。


「あはははは、貴方達も災難ね。それで、この街に?」

「ああ、そうだ……!?」


 マークスが言葉を失う。

 ルークスも目が点になっている。

 仮面をしていないユリアとマティが歩いてきたからだ。


「ゆ、ユリア・ランダース団長様? それに、マティルダ王女殿下……」

「ユリアと呼び捨てでいい。騎士団長でもお前達の上司でもない」

「私も、アストレイアに後継ぎが出来たので、自由に冒険者をさせてもらうことにしました。だから呼び捨てでいいです」

「「ゆ、ユリア……」」


 ボフッ!


 マークスとルークスの顔が真っ赤になる。

 ユリアはもともと超絶美人であり、全騎士の憧れでもある。


「ちょっと、私は無視ですか?」


 マティが怒って見せる。


「す、すみません。ですが、マティルダって呼び捨てはさすがに……」

「マティでいいです。本当に今は一冒険者ですから」

「はあ。それでは以後、そのように」

「ちょっとテンションの違いが気に入りませんが、いいでしょう」


 マティが頬を膨らませる。

 ユリアとの扱いの違いは何だと。


「それで、千里ちゃん達はここにいるの?」


 優香が四人のやり取りを遮って聞く。

 優香と恵理子の二人にとって最優先事項だ。


「えっと、誰?」


 マークスが突然声をかけてきた見目麗しい冒険者に問う。

 こんなメンバー、クサナギにいたかと。

 ルークスは首をかしげる。


「あ、タカヒロよ。元ね。今は優香。優香って呼んで」


 ぼふん!


「あの、えっと、あの、タカヒロ? 優香?」


 マークスとルークスがまた顔を赤くする。


「その辺は後で説明するわ。で、千里ちゃん達は?」

「それが、西の端に行くって出かけたっきり、帰ってきません。代官や私らにすべて丸投げですよ。なんの指示もないんです。しかも、この領は宗主国シルフィードの自治領であると同時に、女神様方の自治領でもあるのでつぶすわけにもいかず」


 マークスが頭をかく。


「というわけで、ま、マティ。王女としての経験を生かして指示をいただけませんか?」


 ルークスのお願いに、マティは、くるっと背を向けて姫様隊へと戻って行った。


「あー!」


 ルークスはうなだれる。


「あ、忘れてた。うちのパーティ、馬車を見てもらってわかると思うけど、カヴァデール王国の女王もいるの。この街に入れてもらえたってことは、両国間で友好的にやっていけるってことでいいかしら」

「そういうのこそ、指示が欲しいんだよ。勝手に決められるわけないだろうに」


 マークスがあきらめたように両の掌を空へ向けた。


「まあ、立ち話も何ですし、とりあえず屋敷へと行きませんか? 現在改装中ですが」


 ルークスが優香と恵理子を誘う。


「そうね。誘ってくれてありがとう」




 改装中の屋敷の前に立つ優香と恵理子。


「えっと、私達が押し入った時はこんな建物じゃなかったわよね?」


 優香が塔を眺めながら首をかしげる。

 敷地を囲う白い壁は変わらない。しかし、屋敷ではなく、塔が何本も建設されつつあり、これは。


「教会よね」


 恵理子がその塔を眺めながらつぶやく。


「はい。女神様の住まう建物ですから、やはり教会かと」


 一人の男がやってきて優香の疑問と恵理子のつぶやきに答える。


「申し遅れました。スミスと申します。クサナギゼットの皆様より、代官を仰せつかっております」

「一番大変な役を押し付けられたのね」


 恵理子の的を得た指摘にスミスは苦笑いをする。


「ここまで丸投げをされたのは初めてですが、以前より代官はしておりましたので」


 と、スミスは頭を下げた。


「それでは、屋敷へどうぞ」


 スミス、マークスとルークスと共に、クサナギは教会に作り替えられつつある屋敷に入っていった。




「それで、千里ちゃん達は?」


 通された会議室で何度目かわからない質問を恵理子がスミス投げかける。

 マークスから聞いた以上のことは返ってきはしないが。


「西へ向かったっきり、帰ってくる気配がありません。手紙も何もありませんし」

「そう。それは、戦争も終わったし、平和になったってことでいいのかしら?」

「ええ。しばらくは何もないと思われます。ただし、ローレル姫には属国アストレイアを守る義務があるかもしれませんが、姫に使えることとなった私どもにとってはそのあたりはどうでもいいことです。私どもは、女神様方、そして姫のためにありますから」

「なんだかすっかりアストレイアじゃないみたいね」


 恵理子がそう呟く。


「ええ、名目上アストレイア王国内のシルフィードの自治領シエルですが、税金を払うわけでもありませんし、アストレイアから何かをしてもらうわけでもありません。実質独立したようなものです。何なら、アストレイア王国内の、を取ってしまって、単にシルフィード国のシエル、と言った方がしっくりくるでしょう」

「そうなのかしらね。で、そのアストレイアを守るために、姫が軍を呼んじゃっている件は?」

「私どもとしては、先ほどから申し上げておりますが、どうでもいいことです。ただ、姫が帰投命令を出さない限りは戻らないでしょうね。いや、戻れないでしょうね」

「そうなのよ。だから、ローレルさんには帰投命令を出してほしいんだけど」

「そんな小さいことを。私どもは女神様と姫様の家臣なのです。兵站など属国が対応すればよいこと。そんなことどうでも」

「……わかったわよ。私達がローレルさんに会いに行ってくるから」

「女神様方に会いに行かれるのであれば早い方がよろしいかと思われます。西の山脈の山頂付近にはもうすぐ雪が降り始めるでしょうから。いずれにしろ、今日は出発するにはもう遅いですから、お泊りになっていってください」

「ありがとう。そうするわ」



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