表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

406/443

冒険者カードの修正~セーラとルディアスの進軍(優香と恵理子)

「できません」


 優香と恵理子の疑問の声に、ミューラが再び言い切る。


「どうして?」


 しかし、優香も恵理子も、そんなことが? と、理解できない。

 理由を聞くことにする。


「偽造防止です。しょぼい貴族の坊ちゃんがプラチナランクの冒険者カードをどこからか持って来て、名前が変わったから修正してって言ってきて、修正できますか? できませんよね。だから、冒険者カードは修正できないことになっているんです」

「じゃあ、結婚したらどうするの?」

「例えば、マオ・クサナギさんがゼットさんと結婚した場合、その場合は、マオ・クサナギ・ゼット、と追記になるんです」

「そこを何とか」

「ギルマスがいいって言ったらいいですよ。ギルマスが怒られるだけですから」


 ミューラはちらりとユリアとマティに視線を向けて確認する。


「えっと、そちらの方、もしかしてブリジットさんです? で、本名のユリア・ランダースに戻したいと? 王女殿下はマティからマティルダ・アストレイアにしたいってことですよね?」

「そうそう」

「ごめんなさい。いろんな意味で修正していいかわかりません。ギルマスが固まっている間にやってしまいますか?」


 ミューラとしては気持ちは理解する。

 ギルマスブレイクが責任を負ってくれるのであれば、やってしまいたい。


「お願いします」

「じゃあ、ユリアさんとマティルダ殿下は冒険者カードを」

「あの、待って。二人だけじゃないの」

「……」


 遮る恵理子にミューラが怪訝な視線を向ける。


「私のは、恵理子・佐々木に。で、こっちのタカヒロのを優香・一ノ瀬に」

「え? タカヒロ、様? タカヒロ様ですか? どう見ても女性ですけど?」


 ミューラが口をあんぐりと開けたまま優香をまじまじと見る。


「あ、そうそう。性別も変えてね」

「がーん」

「なんでそこはがっかりしているの?」

「タカヒロ様がこんな美人だなんて……いつか仮面の下の笑顔を見るのが夢だったのに」


 残念がるミューラをよそに、恵理子は確認を続ける。


「あれ、オッキーのはちゃんとオキストロ・ノーレライツになっているんだっけ?」

「はい。なっていますので、私のは修正する必要はないです」

「じゃあ、エヴァのを、エヴァンジェリン・カヴァデールに」


 恵理子はエヴァのカードも書き換えをと、エヴァに視線を向けるが、エヴァは視線を泳がせる。

 なりたくて女王になったわけではない。カヴァデールを名乗っているわけではない。

 しかし、恵理子に言われてしまえば……。


「カヴァデール? あれ、どこかで聞いたことがあるような」

「去年できたノーレライツの向こうの国よ。エヴァはそこの女王様よ」


 ミューラが恐る恐る、先ほど聞いた家名を口にする。


「……あの、オッキーさんの、ノーレライツって、隣の国の?」

「そうよ、王女」

「勇者がいて、聖女がいて、女王陛下に王女が二人、絶対に逆らえないやつじゃん」


 ミューラはぶつぶつとつぶやいている。

 あまりの衝撃に敬語はどこかへ行った。


「そうだ、ベルはファミリーネームはつけなくていいの?」


 ベルは恵理子に耳打ちする。海賊の性は名乗れないと。


「ミューラさん、それだけお願い」


 恵理子が確認をし終り、改めてミューラにお願いをする。


「ぶつぶつぶつぶつ……」

「ミューラさん!」

「は、はい! 今すぐやってきます!」


 ミューラは冒険者カードを預かって、一階へと飛び降りた。

 権力に屈しないのが冒険者、冒険者ギルドだが、さすがに今回は勝てはしないと判断した。


「あれ、大丈夫かな」


 恵理子が飛び降りミューラを案じて一階を覗き込む。

 おそらく大丈夫そうだ。

 そこにはもうミューラはいない。




 意識を戻したブレイクが口を開く。


「ちょっと、そこに座れ。というか、座っていただけますか?」


 と、ブレイクはソファを勧めてくる。

 なので、皆で座ることにする。


「えっと、確認だが、マティルダ王女殿下とユリア・ランダース騎士団長は生きていたと。それを公にすると」

「私はもう騎士団長ではないがな」


 ユリアが補足する。


「それから、そっちの女性は元はタカヒロで性別さえ偽っていたと」


 こくん。と、優香がうなずく。

 ブレイクが、「男、女、男、女……」とつぶやいたかと思うと、何かを思い出したかのように優香に向かって言った。


「あー、お前、武闘会の時、男子更衣室にいたな! もしかして見たのか?」


 と、手で股間を押さえて。

 優香の顔が真っ赤になる。


「見てない。見てないから。ずっと壁に向いていたから」

「もういいよ。さっきミューラが言った通り、勇者がいて、聖女がいて、女王に王女もいる。そんな奴らに頼まれたらどうしようもないだろう。怒られておくよ」


 ブレイクは頭をカリカリとかく。


「申し訳ない」


 一応、優香が頭を下げる。


「いいってことよ。最悪、一冒険者に戻るだけだ」

「できましたー」


 そう叫びながらミューラが階段を上がってくる。


「はい、優香・一ノ瀬様、恵理子・佐々木様、マティルダ・アストレイア様、ユリア・ランダース様、エヴァンジェリン・カヴァデール様。合っています?」

「ミューラさん、ありがとう」

「いいですよ。ギルマスが罪を全部かぶってくれますから」

「この前、買い食いしていたのも?」


 恵理子がぽつりとかまをかける。

 ブレイクのジト目がミューラを捕らえる。


「な、何で知っているんですか!」


 ミューラはなんてことをばらしてくれるのかと、叫ぶ。


「あ、ごめん。ほんとだったんだ?」


 恵理子は素直に謝る。

 知らなかったと。


「え? ぎ、ギルマス、今の、嘘ですから。何でもないですから」


 あはははは。




 数日後。


「それじゃ、とりあえずシエルを目指そうか」

「「「「はい」」」」


 勇者タカヒロと聖女マオの冒険者パーティクサナギを改め、勇者優香と聖女恵理子の冒険者パーティクサナギは、アストレイアの王都を後にした。




 そのころ、アストレイア王国フィッシャーに、セーランジェ女王率いるカイナーズ軍千五百が上陸する。


 これに対応するのは、フィッシャー子爵に代わり治めることになったターフ子爵。

 本来なら都市名も変えるところだが、貿易港として名が浸透しているためあきらめた経緯がある。


「アストレイア王国フィッシャーを治めさせていただいております、ターフと申します」

「うむ。出迎えご苦労。私はカイナーズ王国女王セーランジェ・カイナーズである。宗主国シルフィードの姫、ローレル様の命によりアストレイアの王都へ向かうところである。兵站はそちらが用意することになっているが、いいか?」

「は、もちろんでございます」


 事前に聞いていてよかった、とターフ子爵は冷や汗を流す。


「とはいえ、我らは侵略者ではない。最低限でよい」

「は、ありがたきお言葉」


 だが、千五百人の兵站だ。

 どれだけ集めないといけないことか。

 たまたま秋に差し掛かったところ、食料は何とかなるだろう。


「とりあえず、街の外に陣を敷かせてもらう。千五百を泊める宿などないだろう?」

「は、ご配慮感謝いたします。食料についてはなるべく早く集めさせますので」

「頼む」




 一方、ノーレライツ王国シーガルにたどり着いたルディアス率いるドレスデン王国軍。


「我らはムーランドラ大陸にあるドレスデン王国の王国軍である。宗主国シルフィードの姫、ローレル姫よりアストレイアへ出兵するよう命令が下った。貴国は平和な国だと聞いている。我々は貴国に害することはないと誓う。貴国を通ってアストレイアへ向かうことを許可願いたい」


 これに対応するのはシーガル辺境伯。


「ルディアス国王陛下がご理解いただいているように、我が国は平和にございます。それゆえ武力もさほど持っておらず、争う力などございません。我が国に害をなさないというお言葉を信じております。我が国の王へは、私の方から手紙を書いておきます」

「ありがとう。それでは我々はこの街の外で一時を過ごさせていただく。それと、この街で少し物資を購入することを許可願いたい」

「ご配慮ありがとうございます。急ぐ旅かもしれませんが、どうぞ、ごゆっくりと滞在ください」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ