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名前(優香と恵理子)

 マティはそっと仮面を外し、立ち上がり、そして、テーブルを回り込んで二人に抱き着いた。


「お父様、お母様……うわーん。私は、私は元気です。ユリアに、タカヒロ様に、マオ様に、みんなに守ってもらって、支えてもらって、強くしてもらって私は!」


 マティは泣きながら叫ぶ。

 まるで自分が生きていることを主張するかのように。


「うわーん。お父様、お母様ー」

「すまなかったな、マティルダ」

「マティルダ、愛しているわ」


 国王と王妃はマティの頭をなでて続けた。


 マティが落ち着いたころ、


「マティ、お父さんとお母さんと部屋に行って話をして来たら?」


 優香が声をかける。

 マティは、両親の顔を見て、そして、


「ちょっと席を外します」


 そう言って、部屋へと二人、いや、三人を連れて行った。


「ブリジット、申し訳ないけど、飲み物とかを」

「はい。持って行きます」


 ブリジットは、飲み物をマティの部屋へと運び、そしてすぐに戻ってきた。


「ブリジットは一緒にいなくてよかったの?」


 恵理子がそんなブリジットに声をかけた。


「はい。家族水入らずで話をしてもらった方がいいかと思いますし」

「そうだね。じゃあブリジット。また、飲みなおそうか」

「はい!」




「ねえ恵理子」


 優香が恵理子に話しかける。


「何?」

「マティもブリジットも正体がばれてるみたいだし、千里ちゃん達に会えるのももう時間の問題。だからもう仮面を取ってもいいんじゃないかしら」

「でも、マティが生きていることを知ったらサザンナイト、また騒がない?」

「今はシルフィードの属国になっているから、そうそう攻め込んだりはできないと思うんだけど?」

「そうよね。なら、国王も認めているし、他の貴族達は黙らせることが出来るだろうし、いいのかもしれないわね」

「あの」


 ブリジットが口を挟んだ。


「仮面を取る取らないはどちらでもいいのですが、ブリジットという名前はお二人から頂いた名前です。私にとって大事な名前なので、そのまま名乗ろうと思いますけど」

「だけど、ユリアっていう名前だって、御両親から頂いた大事な名前でしょう? 素敵な名前じゃない」

「私、孤児だったので。育ててくれた義理の親はいますが、ユリアという名前を誰がつけてくれたのかは」


 優香が自分の仮面を取ってテーブルに置く。


「私も名前を戻すから。ブリジットもユリアに戻しなさい」

「私も恵理子に戻すわ」


 優香と恵理子はそれぞれそう宣言する。


「いいの?」


 リーシャが声を上げる。


「ええ。もう千里ちゃんと桃ちゃんは目前だし。私達のタカヒロとマオっていう名前はもう役目を終えたわ。だから優香と恵理子に戻していいんじゃないのかしら」

「だけど、タカヒロは男で、優香は女で……」


 リーシャが優香の顔を見つめる。


「まあ、何とかなるでしょう。それに、リーシャ、私が世間的に男じゃないと困る?」


 ぶんぶんと首を振るリーシャ。


「私は初めから言ってる。性別なんて関係ないと」


 ミリーやオリティエ達もリーシャの言葉にうなずいて同意する。

 すると、ブリジットも仮面とかつらを外した。


「優香様、恵理子様。それでは私は、ユリア・ランダースに戻ります」


 ユリアの端正な顔が現れ、輝くピンクグレージュの髪が流れる。


「ん。かっこいい」

「ほんと、素敵だわ」


 優香と恵理子のその一言にほほを染めるユリア。

 それを見てリーシャが余計な一言を言う。


「ユリアも性別なんて気にしないもんね」


 と。

 ユリアが顔を真っ赤にし、


「この、バカ猫ー!」


 と、リーシャを追いかけまわした。

 あはははは

 あははははははは




 しばらくすると、国王と赤子を抱いた王妃、マティが降りてくる。

 優香はとりあえず、仮面をつけなおした。


「今晩は世話になった。マティルダにも会えてうれしかった。私達はこれで城に戻ろうと思う。もしよかったら、遊びに来てくれ。クサナギゼットの面々も連れてな」


 そう言って、玄関へと向かう国王と王妃。


「あれ、マティはどうするの?」


 と言う優香の声に、マティがちょっとだけほほを膨らませる。

 その質問には国王が答える。


「マティルダのこと、よろしく頼む。マティルダは皆と一緒にいるそうだ」

「マティルダ、それじゃ、いつでも来てね」


 そう言って、三人は玄関から出て行った。




「マティ、明日なんだけど」


 優香がマティに声をかける。

 先ほど皆で相談していたことをマティにも提案する。


「何でしょうか」

「冒険者ギルドへ行って、冒険者カードの書き換えをしに行こう」

「え、なぜです?」

「マティは、マティルダ・アストレイアに、ブリジットはユリア・ランダースに、そして私達は優香と恵理子に修正するの」


 優香がそう説明する。


 マティが仮面もかつらも外したユリアを視線に入れる。

 ユリアはマティに頷き返した。


「ユリア!」


 マティはユリアに抱き着く。


「ユリア、ユリア、ユリア! また呼べる。ユリアって」


 マティは再び涙を流す。


「また外でユリアって呼べる。誰にも気にせず呼べる。ユリアって!」


 ユリアはマティの髪をなでる。


「私は優香様と恵理子様にもらったブリジットでもよかったんだけどな」

「でも、ユリアは罪人じゃない。ちゃんと堂々と太陽の下、ユリアって呼ぶ。呼べる。それが嬉しい」

「ありがとう」


 優香がフォローする。


「ユリアが生きていることに納得いかない貴族がいるかもしれないけど、この国のことならローレルさんに頼めば何とでもなりそうだしね」

「うん。うん」


 マティはユリアの胸に顔をぐりぐりする。


「ユリア、今日、一緒に寝ていい?」

「ああ、いいぞ」


 マティは、ぎゅっとユリアを抱きしめた。




 翌日、冒険者ギルドへ優香と恵理子、ユリアと姫様隊が訪れる。

 それを見て、受付嬢のミューラが目を見開く。


「えっと、マオ、様? そちらのお方は……」


 ミューラが仮面を外したユリアとマティ、そして、初めて見る女性、優香に視線を送りつつ、恵理子に聞く。


「ギルマスいます?」


 だが、恵理子はミューラの質問に答えず、ギルマスがいるかの確認を一方的に取る。


「は、はい」

「じゃあ、お邪魔するわね」


 と言って、恵理子は二階へと上がっていく。

 優香たちは恵理子について行く。

 ミューラはそれを止めることができない。


 バン!


「ギルマス、お願いがあるんだけど」


 ドアを開けるなり恵理子がギルマス、ブレイクに声をかけた。


「な、なんだよ……」


 ブレイクは、うすうすは感づいていたものの、ユリアとマティを実際に見て固まり、つぶやくように口を開いた。


「やっぱり、生きていたのか?」

「それでね、お願いがあるんだけど」


 固まったブレイクなどお構いなしに恵理子が話を続ける。


「冒険者カード、修正して欲しいんだけど」


 ブレイクが動かない。

 仕方ないと、恵理子はギルマス部屋の外に向かって声を上げる。


「ミューラさーん、ちょっと来てー」


 恵理子が一階に向けて声をかけると、ミューラが嫌そうな顔をしてギルマスの部屋へと上がってきた。


「何でしょう」

「ギルマスが固まっちゃったんだけど」

「どうして固まったんです?」


 ミューラはその理由に想像がついている。

 生きているこの国の王女と元騎士団長を目にしたのだ。

 自分でも目を疑った。

 だが、確認をと恵理子に問うた。


「わかんない」


 恵理子はそれだけ答えて、ここに来た目的をミューラに告げる。


「でもお願いがあって。冒険者カードを修正して欲しいんだけど」

「できません」


 恵理子のお願いにミューラが即答する。


「え?」


わんも「名前について、ややこしいこと申し訳ありません。ここから先、ブリジットをユリアに戻します。よろしくお願いいたします」

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