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優香と恵理子の噂(優香と恵理子)

「よし、行こう」


 優香が気合を入れて皆に声をかけた。


「ちょっと待ってください」


 とは、ブリジット。

 優香は気合を入れた手前、ちょっと恥ずかしくなる。


「今、ミリー達に買い出しをお願いしたところなので」

「そっか。そうだよね。ごめん。っていうか、ありがとう」

「タカヒロ、どうする?」


 恵理子が余した時間を有効活用しようと優香に聞く。


「んー。ちょっとアストレイアとサザンナイトの戦争について、知っている人に聞きたいな」

「そうね。うーん。どうせ冒険者は脳筋だから知らないわよね」


 ガタガタガタ。


 恵理子の暴言ともいえる発言にギルド内の冒険者が反応する。

 それを見て、やれやれと、恵理子は立ち上がり、右手に金貨を取り出す。

 そして、左手には巨大なファイアボールを。


「誰か、アストレイアとサザンナイトの戦争について、詳しい人はいないかしら?」


 しかし、冒険者たちは、その巨大なファイアボールを見て、視線をそらした。


「ほら」


 恵理子はファイアボールを消して椅子に座りなおす。


 バン!


 突然、二階のドアが勢いよく開いてギルマス、マーシーが顔を出して怒鳴った。


「おい、ギルド内で火を焚くんじゃねえ!」

「あら? ギルマスのマーシーさんだったかしら?」


 恵理子が顔を出して怒鳴ったマーシーに対して軽く呼びかける。


「……お、おう。お前らか。久しぶりだな。それじゃ」


 バタン


 ドアが閉められた。


「「……」」

「何なのあれ」


 あきれる恵理子。


「お姉さーん、ちょっとギルマス呼んできてー」


 と、今度は優香が手にファイアボールを出現させた。


「ひぃ! 今すぐ!」


 受付嬢は走って二階へと上がり、ギルマスの首根っこを捕まえて降りてきた。




「何なんだよ」

「話が聞きたいだけです。ギルドには各地の情報が集まって来るでしょ?」


 恵理子がマーシーに詰め寄る。

 ほら、情報を出せ、と。


「ああ、集まって来るぞ、女王ホイホイの勇者様とかお玉使いの聖女様の話とか。聞きたい話はなんだ?」

「「……」」


 思いがけない反撃を受けて固まる二人にマーシーは続ける。


「いいのか、お玉使い。お前の夫だろうに。女王とみれば手玉に取っていくそんな夫で」

「……」

「まあ、女王なんてそんなにいないから、これ以上は増えないと思うけどな」

「……」

「しかも聖女様、元祖聖女様と胸の大きさをはりあって負けたらしいじゃないか」

「……」

「あれ? 女王ホイホイもお玉使いも、さっきまでの勢いどうした?」


 マーシーは得意げに優香と恵理子に対して上から視線を送る。


「心が痛い……」

「恥ずかしい……」


 ギン!


 ギルド中が凍った。凍ったというより、殺気ですべてが固まった。


「私達の主人を愚弄するとは、貴様、許せん!」

「剣の錆にしてくれる」


 リーシャがこぶしをかまえ、ブリジットが剣を抜いた。

 殺気と共に。

 また、ネフェリとリピーも立ち上がる。


「ちょっと待ってパイタン。ここではやめて!」


 恵理子が飛び上がってパイタンをなだめる。

 ギルド内で大蛇が顕現したら大騒ぎだ。

 びびるマーシー。


「あ、いや、あの、なんだ。で、聞きたいことは何でしょうか、勇者様に聖女様」

「そんなことが広まっているの?」


 恵理子が顔を赤らめたまま聞く。


「まあ、面白ければなんでも広がるさ。酒の勢いによってな。で、聞きたいことってなんだ?」

「はぁ。一つ、クサナギゼットについて。二つ、アストレイアとサザンナイトの先の戦争について」

「どっちも同じじゃないのか?」


 はぁ、と、マーシーもため息をついて続ける。


「まず、女神様方はな、この街からおそらくだが、まっすぐにアストレイアの王都に向かった」

「女神様……」


 サーバルから千里と桃香が女神と呼ばれていると聞いていたが、千里ちゃん達は一般的にそう呼ばれているのかと、改めてそう思う。


「そうだぞ、この街では女神様と言えばあの二人だ。海賊に捕らわれていた人たちの怪我を治して開放し、しかも、お金も持たせたそうだ。それに聞いた話では、海賊の拠点に業火をもたらし、さらに雷の鉄槌を落としたとな」

「「……」」

「だから二人は業火の女神と雷鎚の女神と言われている」

「「……」」


 固まる優香と恵理子をちらっと見て、まぁいいかと、マーシーは続ける。


「えっと、いいか、話を進める。でだな、たまたま女神達がアストレイアにいた時にサザンナイトが侵攻した。しかも前触れがなかったせいでアストレイアは迎え撃つ準備も整っていなかったらしい。そのアストレイアがどうにもならなくなった時に助けの手を差し伸べたのがシルフィードの姫らしい」

「それで、属国に?」

「そうだ。属国になったことでシルフィードに守ってもらえたというわけだ」

「でも、ムーランドラからは、これから軍が遠征してくるのよね?」

「あ? これから援軍が来るのか?」

「だって、カイナーズに命令書が来ていたわよ。それで、セーランジェ女王が出兵の準備をさせていたもの」

「まさか、その女王も……あ、ごめんなさい。失言でした」


 マーシーは当てられた殺気に肩をすぼめる。


「そう言うわけだから、少なくともこの街にカイナーズの軍勢が上陸すると思うわよ」

「それはそれで領主と相談しないとだな」

「それで、戦争はどうなったの?」

「終わったぞ。シルフィードの姫がサザンナイトの皇帝の首をとってな」

「そう。それはよかったわ」

「よくないわ。これからムーランドラから軍がやってくるんだろう?」

「でも、シルフィードの姫の命令だから、姫が取り消さない限りは移動するんじゃないかしら? 取り消されたかどうかは?」

「知らない。そんな命令が出ていたことも知らないんだ」

「その女王、クサナギ、ゼットの方のメンバーだから、ちゃんともてなしてあげてね」


 恵理子がゼットの部分を強調する。


「やきも……いや、ごめんなさい」


 失言の多いマーシー。


「それで、クサナギゼットはどうしたの?」

「その戦争の功績というか代償としてヘブンリー公爵領とマイナン伯爵領をあわせて自治領としたらしい。名前はシエル」

「公爵領と伯爵領?」

「何でもヘブンリー公爵は国を裏切ってサザンナイト側に寝返ったらしい。それで戦死。一族は全員処刑だろうな。それで空いた領地をそのままシルフィードというか、クサナギゼットに明け渡したらしい。マイナン伯爵は領地替えらしいが詳しいことは知らん」

「じゃあ、そこは女神様の領地、シエルってこと?」

「なんか、かっこいいわね」

「アストレイアの奥だし、獣人の国や魔族の国がちょっかいかけない限りは、女神様方の統治する天国みたいな領だろうさ。元々公爵領ってことで豊かだったしな」

「それじゃ、大丈夫だわ」


 恵理子が納得する。

 アストレイアはともかく、クサナギは魔族とは友好関係を築けている。

 もちろん、獣人の国と敵対する理由もない。


「その後、クサナギゼットがどこかに移動したとかは?」

「さあ、そこまでは聞いていないな」

「ブリジット様! 準備が完了しました」


 ミリーがギルドに飛びこんで来る。


「タカヒロ様、マオ様、出発の準備が整いました」


 ブリジットが改めて優香と恵理子に伝えた。

 出発しようと。


「ありがとう。ミリー達もオリティエ達もありがとう」

「それじゃ、行こうか」


 優香が立ち上がる。恵理子も、リーシャもブリジットも。アクアとパイタンも。

 そして、みんなでギルドを後にすべく、入口へと向かった。


「あ」


 と、恵理子が立ち止まって、まだ椅子に座っているマーシーに声をかけた。


「変な二つ名広めたら、殺す」


 マーシーだけではなく、受付嬢も、ギルドにいた冒険者まで固まった。

 マーシーは思った。

 ギルマス引退しようかな、と。



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