転生(優香と恵理子)-2
「一ノ瀬さんか。名前は優香、と」
そうグレイスが日本語でつぶやくと、そのつぶやきを聞いた左手の赤子が思念で騒ぎ出す。
赤子同士のやり取りはできないようにグレイスがそこはつながらないように切っている。
「えっと、そっちの君は、その名前に心当たりが?」
(はい。私は佐々木恵理子。優香さんは姉のように慕っている親友です)
「優香さん。こっちの子、恵理子さんだって。わかるかい?」
(恵理子さん? 本当に? 私、先に死んじゃったのに。恵理子さん、看取ってくれてありがとう)
「恵理子さん、優香さんが看取ってくれてありがとうって言ってるけど」
「おぎゃー」
「おぎゃー」
二人の赤子が泣き出す。
グレイスは、二人の赤子から手を離し、「やれやれ」と、つぶやいた。
「ちょっと泣き止んでくれる?」
グレイスは、二人に声をかける。
「ようやく会えた親友と話をしたいという気持ちはわかるんだけど、君たちは、赤ちゃんだから会話ができない。わかる?」
二人は瞬きをする。
「かといって、僕が通訳するのもめんどくさい」
瞬きで答える。
「だから、ちょっとだけおとなしくしていてくれるかな。お互いが会話をできないのは、二人の魔力の波長が違うから。それが合えば、手をつないで会話ができる。いい?」
二人は目を見開いて瞬きをしない。驚いているだけだが。
「えっと、あの世界から来たんだったら、理解が難しいのかもしれないけど、とりあえずは僕の言うことを聞いてくれるかな」
二人は瞬きをする。
「よし、いい子だ。じゃあ、おとなしくしててね」
グレイスは、ソフィリアとシャルロッテから赤子を受け取る。
右手に優香、左手に恵理子だ。
「じゃあ、ちょっと体の中がもやもやして気持ち悪いかもしれないけど、しばらく我慢していてね」
と、グレイスは二人に魔力を注いでいく。
「ちょっと不思議な感じがするでしょ。今、君達の魔力を僕の魔力で上書きして、僕と一致させるから」
「旦那様」
シャルロッテがグレイスに声を上げて忠告をする。
「その子達に旦那様の魔力をそんなに注いだら、その子達の魔力……」
「ま、よーちゃんもこの子達が特別だって言ってたし、これくらいはいいんじゃない?」
「そうですか?」
「あって困るものじゃないよ」
グレイスは、二人に魔力を注いでいく。
二人の赤子の魔力量が増えていき、もともとの魔力と混ざり合うが、圧倒的にグレイスからの魔力が多い。
優香も恵理子もグレイスの魔力に染められていく。
しかも、魔力を注ぎ込まれるということは、その容量も大きくなるということ。
「バニー、ベビーベッドを用意してもらって」
「はい、旦那様。コルベット、お願いします」
「はい、かしこまりました、奥様」
バニーは、コルベットと呼んだメイドと何人ものメイドを連れて部屋を出て行った。
そしてベビーベッドが用意された。
「ソフィ、シャル、お願い」
二人は、それぞれ赤子を受け取り、ベビーベッドに寝かせる。
そして、二人の手をつながせた。
(恵理子さん!)
(優香さん!)
(会えてよかった)
(私もうれしい。優香さんが亡くなった後、寂しかったんですよ)
(ごめんね、でも、寿命ってものがあったから仕方ないよね)
(まあ、優香さんが亡くなった後、私も死んでしまって、千里ちゃんと桃ちゃんには迷惑をかけたと思いますから)
(そっか、でも、会えてうれしいんだけど、どういう状況?)
(私もよくわからないんです。死んだ後に、ピンクの髪の陽気なお兄ちゃんに話しかけられて、気づいたらここに)
(私も一緒。どういうことかしら。まさかと思うけど、生まれ変わった?)
(そうとしか考えられないんですけど、こうやって、手をつないで優香さんと会話ができるとか、さっき手をつないだあの男の人と会話ができたとか、意味が分かりません)
(そうよね。でも、恵理子さんに合えたことは本当にうれしい。でも、状況がわからなくて、混乱もするわ)
二人は、首をうまく回せないので、目で見まわす。
(ここ、どこかしら)
(わかりません。どこなんでしょうか)
二人は聞き耳を立てる。すると、グレイスと呼ばれた男性達の会話が聞こえてくる。
しかしながら、言葉が違う。日本語ではない。さっきまで日本語で話をしていたのに。
グレイスとソフィリア、シャルロッテは、ソファに座ってお茶を飲みながら話をしている。
「あの子達、どうする?」
「人として育ってもらった方がいいのですよね」
グレイスの質問に、シャルロッテが確認を取る。
「それは、私達のように天使とかではなくってことよね」
さらに、ソフィリアも確認してくる。
「まあ、そうだね。だから、本来なら僕達の周りから離したいところだけど」
「では、キザクラの経営する孤児院にでも入れます? そうでないなら、養子として迎え入れてくれそうな人を探さないといけなくなりますけど」
「うーん。僕らが神とか天使とかってことがばれなきゃいいのかもよ。で、誰が面倒を見る? 誰に面倒見させる? シャル? ソフィ?」
「いえ、私達は、大きな子供の面倒を見ないといけませんから」
シャルロッテとソフィリアがグレイスに視線を送る。グレイスは大きな子供が誰かわかっていて無視だ。
シャルロッテは続けて養母の候補を上げる。
「妻達の、ということですか? 頭脳中心ならライラやバイオレット、体力バカならリゼ」
「ちょっと待て、今、私のことを体力バカって言いましたか? シャル様」
グレイスの実母であり、グレイスとの子を持ったことで妻の一人となったリーゼロッテが憤る。
「ですけど、武術中心にするならあなたが適任ではなくて?」
「武術ならおりひめやこはるもいるだろう」
「人に人外な訓練させてどうするんですか、旦那様ならまだしも」
「まあそうだが」
「ですが、魔法に特化させるなら、レイとかドライア、ディーネでしょうか。状況によってはバニーやマイルズ姉妹に任せるのもいいかもしれませんけど」
「レイたちは精霊だし、魔法の使い方の根本が違うから、魔法特化ならラナ達かラミ達かな。まあ、いずれにしても、一年間は魔力ぐるぐるだよ」
グレイスは席を立って、赤子の方へ向かう。
「さてと」