帰国と出兵(優香と恵理子)
ハァ。
その不安なのか何なのかわからない雰囲気を優香がため息と共に振り払う。
「セーラ、千里ちゃん達のことを教えて。二人のことだから、一緒にいて苦労したんじゃない?」
「そうなの、聞いて聞いて! 最初に会ったのはね……」
セーラが顔を明るくして、出会いを語る。
「え、それ、セーラが熊を倒せなかったのが悪いんじゃん」
「だって、いきなり六頭のホーンベアに出会っちゃったのよ。それ以来、千里と桃香にしょぼしょぼって言われて……」
「「「あはははは」」」
ちなみに、桃香は言っていない。
「笑い事じゃないわよ。これでも姫だったのよ。姫にそんなこと言う人いる?」
「「「あはははは」」」
「んもう。あははははは」
セーラは続ける。
千里と桃香の話には事欠かない。
「それにね。うちの騎士団、第四がないでしょ」
「ん? 知らないけど」
「第四騎士団、千里達が持って行っちゃったのよ」
「え? なんで?」
「もちろん、こぶしでよ」
「「……」」
「しかも、聞いた話だけど、千里が第四騎士団長のヨンを抑え込んだ後、千里、桃香に対してなんて言ったと思う?」
「「……」」
「カンチョウしろって! ひどくない? ヨンだって女の子なのよ? もちろん桃香は断っていたけど」
何やってるの、千里ちゃん、桃ちゃん。
そう、思う優香と恵理子。
今頃くしゃみをしていないだろうか。
「最後に会ったのは獣人の国のソーシンだけど、そこで人妻を奪っていたわ」
「「え?」」
「辺境伯の奥さんね、ちなみにそこにいるジュディのお母さんだけど、辺境伯から略奪したわ。私も娘をもらっちゃったから同罪だけど。こっちは就職だから許してほしいわ」
セーラは真剣な顔をして優香と恵理子を見る。
それに優香と恵理子も答えよう、真顔でセーラを見つめる。
「優香、恵理子、聞いてください」
「聞くわ」
「千里と桃香、あの二人」
ゴクリ
「私達家族より、食事を優先するんです!」
「「え?」」
「シルフィードでも私達を見捨てようとしたんですよ」
「「え?」」
優香と恵理子は思う。
セーラ、酔ったかな? と。
まあ、千里と桃香に対する愚痴を言える相手に出会ったのだ。
酒もすすむ。
「あの二人に常識というものを……」
「教えておくわ」
「いや、いいです。ああでなくては千里でも桃香でもなくなってしまいますから」
「いいんかい!」
「「あははははは」」
「「「あはははははは」」」
にぎやかな会話は、昼を過ぎ、おやつを過ぎ、夕食を過ぎ、夜まで続いた。
翌朝。
「セーラ、昨日は楽しい話をありがとう。それにおいしい食事や寝どこまで」
「いいのよ。千里と桃香の家族なら私の家族。私も楽しかったし。それに、優香と恵理子って、千里と桃香から想像もできないほど常識人なのね」
「「……」」
「千里と桃香が探している相手、同族だとしたら、どんな災害がやってくるかと思ったわ。実際、ロックリザードの丸焼きなんて、千里と桃香しかしないかと思ったけど」
「「……」」
「千里と桃香に会ったらよろしくね」
「うん。伝える。何があるかわからないけど、すべてをうまく治められるように頑張ってみる。そうしたらまた……」
「ううん。私達も一緒にやるから」
「そう言ってくれると嬉しい。ありがとう。よろしくね」
「それで、ナッカンドラに渡るの?」
「昨日の話だとそうしようかなって」
「なら、アルカンドラの千里達には私からそう手紙を書いておくわ」
「ありがとう。そうしてくれると助かる」
「じゃあ、近いうちにまた会いましょう」
「「うん」」
と、別れを惜しんでいるときに、
「女王陛下、伝令が! 命令書が!」
一人の騎士がやって来て、セーラに進言する。
「命令書?」
ミシルが騎士に近づいて、その手紙を受け取る。
「陛下」
ミシルがセーラに手紙を渡す。
セーラがその手紙に目を通すと、セーラの表情が変わった。
優香と恵理子にもわかるくらいに。
「セーラ、どうしたの?」
セーラはその手紙を、声をかけてきた優香に渡す。
優香と恵理子はその手紙に目を通す。
そこにはこう書かれていた。
『属国としたアストレイアをサザンナイト帝国から守るため、出兵せよ。ローレル』
それを読んだ優香と恵理子が思わず声を上げてしまう。
「「アストレイアを属国化した?」」
これにマティとブリジットが反応する。
つまり、このカイナーズと同様にアストレイアもシルフィードの属国となったということだ。
「「サザンナイト帝国から守る?」」
これはサザンナイトが優香たちクサナギがいない間にアストレイアに攻め込むということだ。
前回の侵攻の時には優香たちクサナギがそれを食いとめたことは事実だ。
だが、今はいない。
一方で、シルフィードの姫がアストレイアを属国化して守ると言っている。
ということは、千里達がアストレイアを守るのかもしれない。
だが、わからないことが多い。
「セーラ!」
優香がセーラに呼びかけると、セーラは間髪入れずに優香たちに提案する。
「私達は、アストレイアに送る軍の編成を整える。だから、優香達は先に行って!」
「わかった。私達もアストレイアに戻る」
「ずっと西に行くとドレスデンに着く。そのさらに西に獣人の国がある。港町バウワウの領主に頼めば定期便とは別に船を出してもらえるかもしれない」
セーラは一呼吸を置いて優香達にお願いをする。
「千里達は無茶苦茶なの。すべてを滅ぼす前に止めて」
「「そっち!?」」
「あの二人は、人とは思えない力を持っている。ドラゴン族を従えるほどに。そういう意味では優香達も同じだけど、優香達とちがって千里達は止まらない。千里自身が自由人だから」
「そう言われると、何も言い返せないけど。多分大丈夫よ。だって、その手紙もローレルさんからでしょ。国と国との戦争だから、千里ちゃんじゃなくてローレルさんの名前なのだと思うわ。千里ちゃんもちゃんと考えているわよ。それに、千里ちゃんだったら、もうすでにことを終えているわ」
「そうならいいのだけれど」
「いずれにしろアストレイアは私達のホームなの。心配だから、私達は急いでアストレイアに戻るから」
「ごめん。ナッカンドラに行きたかったでしょうに」
「セーラのせいじゃないわ。私達も気になるから戻るだけ」
「「「それじゃ、また会いましょう」」」
そう言って、優香と恵理子は、セーラと別れた。
「ミリー、補給は?」
優香が確認する。
「はい。昨日のうちにミシルにお願いして終わっています」
「じゃ、出られるのね」
「はい!」
「目指すはとりあえずバウワウ。西に向かうわ。出発!」
「「「「はい!」」」」
「女王陛下、こちらはどうしますか?」
見送っているセーラにミシルが問う。
「第一から第三、二千を選抜して遠征の用意。我が軍もバウワウから船に乗る。特に第一は、先行するように。道中の盗賊にも注意をさせて。それから、バウワウの船を押さえさせて」
「はっ。で、指揮は?」
「私が出る」
「は?」
「ローレルの命令だもの。私が出るしかないじゃない」
「はっ。それでは第一から第三にそのように伝えます。それから、われら五名も同行します」
「お願いね。ミシル」




