中二病を考察(優香と恵理子)
セーラが念を押す。
「千里と桃香はあなた達のメッセージを冒険者ギルドで見ていれば、アストレイアの拠点に行っているはずよね。千里のことだから怪しいけど、その辺であなた達を待つはずじゃない? なら、先に行くべき場所はナッカンドラではなくて?」
「……でも、千里ちゃん達と合流しなきゃ」
セーラの言うこともわかるが、恵理子は悩む。
確実にいるであろう千里と桃香との合流を優先すべきでは、と。
「もしあれなら、私から千里達に手紙を出すわよ。ナッカンドラを東と西から捜索するという案を。あの大陸には、人間の国は一つ、アンブローシアしかないはず。もし、捜している二人が人間なら、アンブローシアあたりで育っているんじゃない? あなた達のように旅に出ていたらわからないけど」
「セーラ、千里ちゃんと桃ちゃんに初めて会ったのはいつ?」
優香がふと気になったことをセーラに尋ねる。
「さっきも言ったけど、会ってから一年よ。つまり、去年」
「千里ちゃん達の、その時の歳は?」
「確か十六。成人して出てきたって」
「私達がその一年前に成人して旅に出た。つまり、一年のずれ。私達がパパの下で育って、アルカンドラの屋敷に出された直後に、パパのところへ千里ちゃん達が来た。じゃあ、貴博さんと真央ちゃんは……」
その予想を恵理子が引き継ぐ。
「千里ちゃん達がパパ達の下からムーランドラに出てすぐ、パパの下に貴博さんと真央ちゃんが来た?」
「もちろん、私達の前かも知れないけど。でも、パパの様子から、慣れた感じじゃなかったから、たぶん私達が最初。ということは、貴博さん達が旅に出ているとしたら、今年」
予想が正しければ、貴博と真央が旅に出たのはこの春。
アンブローシアという街からそうは離れていない可能性が高い。
「ねえ」
セーラが疑問に思う。
「二人の言っていることがわからないんだけど。パパのところに来た? 確か、千里も桃香も養子だと言ってた。パパって言うのは、キザクラ商会の会長よね? 養子にもらわれてきた。それはいい。でも順番に? 探している相手が? 仲間が? 出会ったこともないのに仲間? 全然わからない。まるで、前世の仲間を探しているみたいじゃない。前世の記憶をもって、前世の仲間を。しかも、順番にこの世界に生を受けて」
優香と恵理子は、しまった、という表情を押さえて顔を見合わせる。
自分達が転生したってことは、言っていいことではない。
ミリー達家族であっても。
そんなことが起こりえるなんてことを知られるわけにはいかない。
そこで、なぜか無意識的なフォローをしたのは、中二病リーシャ。
「『六人の勇者が六つの秘石をもって、三大陸の中心に集った時、世界が荒れる。大地が裂け火が登り、空を焦がして闇を連れてくる。しかし、それは予期せぬ災いではなく必然。未来の希望につなげるための試練。その試練を乗り越えねば世界が終わる。六つの秘石を集めよ。六人の勇者よ早急に集え。しかし、その前に対策を取ることも重要。何が優先されるべきか、それは誰にもわからん』と、こはる様がおっしゃられたの。優香様、恵理子様はのこり四人の勇者を集めるように言われているの。それが千里と桃香、それに貴博と真央。そう言われているの。だからその四人を探しているの」
それを聞いたセーラは目を点にする。
「な、何? その成人前の男の子がしちゃうような妄想は」
優香と恵理子も顔を赤らめて視線をそらす。
「だけど、二人の育ての親がそう言うの。事実かも知れないでしょう? この世界が終わる危機がくるの。なら、千里と桃香を、貴博と真央を探さなければならないでしょう」
リーシャは続ける。
「しかも、秘石も六つ必要なんだけど、私が一つ。そして、エヴァが一つ持ってる」
「え?」
エヴァが目を丸くして、胸元にかかっている白ヘビの紋章が刻まれた石に手を当てる。
思いがけず、自分もまきこまれた?
と、エヴァも思う。
「六人の勇者、六つの秘石。これらは集まりつつあるの。こはる様の予言が真実であるという証拠だよ。どうするの? この世界は優香様と恵理子様、そして四人の勇者によって守られるんだよ?」
「あの、どこまでほんと?」
セーラは優香と恵理子の顔を覗き込む。
「ごめんなさい。どこまで本当かはわからないわ。だけど、思い返しての想像だけど、正直言って、パパの奥さん達、つまり私達の義理のお母様方は、私達では全くかなわないわ。ネフェリやリピーですら一蹴されるの。それに、パパ。これまで会ったて来た人たちと比べても同じところを探すのが難しいくらい超越しているわ。語彙が少なくてごめんなさい」
ここで優香が一区切りを入れる。
これを聞いているセーラ達だけではなく、リーシャやブリジットまでもが、つばを飲み込む。
「言うなれば、パパは、神よ。この世の理をすべて理解している」
「「「……」」」
「その神とも思えるパパの第三夫人であるこはる母様が言ったこの世の終わり。パパは実現できるわ。きっとだけど」
「じゃあ何?」
優香のその予想を聞いて恵理子が聞く。
「それじゃ、パパは私達で遊んでいるの?」
「多分違うわ。愛するこはる母様の発言を現実にしたいだけ。嘘にしたくないだけ。たぶん、それだけよ。それから、私達がお互いを探していることとはきっと別。私達に旅をさせて強くし、家族を持たせる。これはこれ。そして中二病こはる母様の単なる思い付きの実現はそれはそれ」
「でも!」
セーラが声を上げる。
「六人の勇者が六つの秘石をもって集まらないとこの世界が終わるのよね。それを実現させるの? 神が? このことは千里達は知っているの?」
「千里ちゃん達が知っているかどうかは知らないわ」
フゥ、とため息をついて優香が言葉を続ける。
「だけど、六人の勇者が私達だとして、六つの秘石があるとして、それが集まって何かがあった時に、試練を乗り越えれば何の問題もないわ。それは私達がやる。その時はね。でも、何もないかも知れないでしょ。私達が確かめるわよ。パパのやることだもの」
「はぁ。どこまで信じていいかわからないわよね。でも、その時はお願いするわ」
セーラがやれやれと両の掌を上に向ける。
「セーラ、貴方も千里と桃香の家族なら、確実に巻き込まれるのよ。その必然に」
「……。嫌よ。なんだっけ? 地は裂け火が登り闇が訪れる? 完全に死亡フラグじゃない」
「でも、千里ちゃんと桃ちゃんが手伝って、って言ったら?」
「……ずるい。ずるいわよ。その時は行くわ。千里と桃香は私にとって恩人だもの。家族だもの。悪魔でもあるけど。だから、その時は覚悟を決めるわ」
「で、聞きたいんだけど。秘石に心当たりは?」
「……ないわ」
「二人が秘石を持っていたというのは?」
「聞いたこともないわ。あの二人が宝石に興味があると思う?」
「思わないわね」
「「「……」」」
沈黙が流れる。




