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旅に出たから……(優香と恵理子)

 馬車はリーフについて行く。

 迷いの森は迷わすだけでなく、ショートカットもできるようだった。


 しばらく進むとツリーマンションが見え、その間を抜けて何もない広場に出た。


「ここで待っていて」


 リーフはそう言って、巨大な木に作られたツリーマンションへと入って行った。


 しばらくして、高齢のエルフが何人も出てくる。

 その高齢の男性エルフが優香と恵理子に声をかけてくる。


「私はゲルン。この国の長老の一人です。今、姫は不在にしており、よって、私が代理としてこの国を治めております。皆さまは千里様、桃香様の関係者とのこと。姫から挨拶できず、申し訳なく思っております」


 と、ゲルンは頭を下げた。


「ゲルンさん。頭を上げてください。突然来た私達も悪いんです。というか、いろいろ聞きたいことがあってここまで来たんです。正直、半分くらいというか、メインのところはリーフさんに聞いてしまったんですが」

「そういうことでしたら、食事をしながらでいかがでしょうか。千里様も桃香様も、我が国の果実酒を気に入ってくださいました。皆さまにも味わっていただきたく思いますので」

「ありがとうございます」


 と、お礼を言った半面、心の中では、「あの子達、どれだけ飲んだのよ」と、昔の飲みっぷりを思い出す。


「大変申し訳ないのですが、その悪魔の使い達は、この広場に置いておいていただいて構いませんか? 部屋には入れられないものですから」

「仕方ないです。何か、肉などがあれば、食べさせてあげたいのですが」

「魚は食べるのですか?」

「食べますね」

「それでは、肉とマスを用意します」

「ありがとうございます」


 優香達は、ゲルンについて行き、食堂へと通され、テーブルについた。


「それでは、食事をしながらお話をさせていただきたく思います」


 ゲルンが丁寧に頭を下げてくる。

 優香も恵理子も首をかしげる。


 ちょっとイメージが違う。

 獣人の国に攻め入るような感じではない。


 テーブルにはサラダ、スープ、肉、魚、様々な料理が並べられていく。

 リーシャはナイフとフォークをもって並びきるのが待てない様子。


「待たせては申し訳ないので、並んだところから食べていただいて構いません。果実酒も遠慮なく飲んで欲しいです」


 その一言に、皆、果実酒に口をつける。


「おいしい」

「うまー」


 などなど、声が上がる。現状、未成年はエヴァとマティのみ。だが、二人とも年齢を詐称している。

 遠慮なく飲む。


「お姉ちゃん、飲んじゃうからね」


 ベルはすでにマティとエヴァに絡んでいる。

 それに対して、ミリーが叱る。


「ベル。私達はタカヒロ様とマオ様に恥をかかせてはいけません。品よくしなさい」

「はい。すみません」


 ベルは舌をちらっと出して反省する。


「よい。気にするでない。我々は千里様、桃香様のお二人のせい……おかげで慣れておる。むしろ、わしらの出した食事、酒をおいしく食べ、飲んでくれることが嬉しい」


 優香と恵理子は顔を赤らめてうつむく。


 ゲルン、「せい」っていったよ。「せい」って。

 千里ちゃん、桃ちゃん。こっちの世界でも自由人……。


「そう言ってくれるなら、おいしく食べるのがいいの」


 そう言って、リーシャがかぶっていた猫を脱ぎ捨て、普段通りに食事を始める。


「す、すみません」


 と、恵理子が謝るが、ゲルンは全く気にした様子はない。


「楽しく飲み食いしてくれればよい。それを千里様、桃香様から教わった。食事は楽しいものだと」


 優香と桃香はやはり疑問に思う。

 そのため、早速聞く。

 嫌な疑問は先に晴らした方がいい。


「あの、ゲルンさん」

「なんだ?」

「先日、獣人の村が人間に襲われていました」

「ふむ。まあ、わしらは人間や獣人のやることには興味がないがな」


 優香はやっぱり、と思う。が、続きを聞く。


「その村を襲った人間たちは、自分達がカイナーズの騎士団だと言い、宗主国エルフの国シルフィードがこの大陸を支配するために、命じられてやっていると言っていました」


 ゲルンの顔が赤くなるのがわかる。


「私達は確信しました。皆さんがそのようなことをするはずがないと」

「当たり前だ!」


 ゲルンは怒鳴る。


「我々は売られた喧嘩は買うが、人間達に興味などない。争うなら勝手にやってくれればいい」

「ゲルンさん。不快になるようなことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、私達としては、それを確認したく、ここまで来た次第です」

「わかっておる。貴方様方が悪いわけではない。こちらこそ声を上げてしまい申し訳ない」


 ゲルンは続ける。


「だが、カイナーズが絡んでいるという疑念が払しょくされたわけではない。それは聞かねばならんだろうな」

「わかりました。それは私達が聞いてまいりましょう。それより、千里ちゃんと桃ちゃんのことを教えて欲しいのですが。それと、本当にこの国のお姫様が千里ちゃんと桃ちゃんについて行ったのですか?」

「貴方様方は千里様と桃香様の何を知っておいでで?」

「実は、よくわかっていません」

「あの二人は、我らが信仰する大精霊様方の義理の娘であり、育ての親はハイエルフ様なのだ。しかも、ハイエルフ様から神獣フェンリルを下賜されている。我々が敬わない理由はない」

「えっと、すみません。確認させていただいていいですか?」


 恵理子が口を挟む。


「何じゃ、いいぞ」

「その大精霊様って言うのは、レイ母様、ディーネ母様、ドライア母様ですか?」


 ゲルンとその他、この場にいるエルフが全員固まる。

 さらに、恵理子は、知っている名前を並べる。


「ハイエルフ様って、ラナ母様かルナ母様ですか? それとも、ラミさんかレミさん?」


 ゲルン達はまだ固まっている。


「もしもーし」


 優香がゲルンをゆすって現実に戻す。


「貴方様方は、もしかして千里様、桃香様のご姉妹であらせられるか」


 この時点で優香と恵理子は確信する。


 パパめ、全部知ってんじゃん。


 と。


「そうみたい。同じ母様達なんだけど、別々の場所で育ったみたいね」


 おほほほほほ、と恵理子がごまかす。


「だからうまく情報共有が出来なかったのです」


 と、優香もごまかす。


 そんなことよりパパだ。

 義理の母様達もだが。


「そうなのですな。しかし、不思議ですな。親が同じなのに、なぜ別々のところで育てられ、そしてお互いの情報を隠すようなことを」


 ゲルンの疑問に恵理子は言う。


「一つはこの世界で生きる力を得るため。始めから一緒にいたら旅にも出ないし、強くなろうとも思っていなかったわ。きっと」


 そして、優香と恵理子は視線を合わせて頷き、優香が言葉を続ける。


「もう一つは、こんなに素晴らしい、家族を得るため。そう思う。始めから一緒にいたら旅に出ないし、こんな素敵な家族に出会えなかった。だから、私は旅に出るきっかけをくれたパパに感謝してる」


 リーシャやブリジットをはじめ、クサナギの面々はまじまじと優香と恵理子を見る。

 ミリーやオリティエ達は目に涙を浮かべていく。

 今すぐ優香と恵理子に抱き着きたい、そんな雰囲気だ。


「この国の姫様も千里ちゃんと桃ちゃんと一緒にいるんでしょ。二人を見つけたら、もっと大所帯になるわ。すごく楽しみ」


 優香も恵理子も思いをはせる。


「ゲルンさん。幸せな情報をありがとう。千里ちゃんと桃ちゃんがいることがわかって、私達に素敵な家族がいるってことを改めて実感して、幸せです」


 優香と恵理子は頭を下げる。

 ゲルン達は優香と恵理子の家族を見回し、そして空気を読む。


「ふふ。わしらはそろそろ行くでな。家族で食事を楽しむと良い。料理も酒も給仕に言えばよい。それではゆっくりな」


 と、ゲルン以下長老たちが部屋を出て行き、ドアが閉まった瞬間、リーシャが、ブリジットが、ミリーがオリティエが、みんなが、優香と恵理子に抱き着いた。


「「あははははは。みんな、ありがとう」」


 みんなが、全員が、泣き笑った。


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