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千里と桃香の存在確認(優香と恵理子)

 ベルは、ふらつきながらも自分が刺した紙手裏剣を回収しようとロックリザードの頭に登る。

 そして、刺さった紙手裏剣に手を伸ばし、がっくりとうなだれた。

 髪手裏剣はかなりの勢いで刺さったらしく、ロックリザードの皮膚にまで到達していた。つまり、血でぬれていた。


「もう使えないじゃん」


 エヴァがベルを慰める。


「もっと、スパンと切れるようになるといいね」


 ウインドカッターで、と。

 だが、ベルは気持ちを切り替える。


「よし、リシェルに相談する。大きな手裏剣を作れる紙を買っていいかって!」

「ベル、ウインドカッターは紙手裏剣が無くても撃てるんだよ……」


 というエヴァのつぶやきは、意気込んでいるベルには届かなかった。




「よーし、全部集めてー。燃やすよー」


 という優香の指示に、ミリー達はロックリザードを集め始める。

 一番効率よく集めているのはネフェリにリピー。

 ゲインゲイン蹴とばして集めてくる。


 オッキー達姫様隊も一体ずつ運んでロックリザードの山を築いていった。


「パイタン、お願い。できる?」

「うん」


 と、パイタンは口をあんぐり大きく開けて、炎を吐き出した。




「あ、トカゲって食べられたかなぁ」


 優香がロックリザードが燃えて行く様を見て、ぽつりとつぶやく。

 それを拾う恵理子。


「い、嫌よ、トカゲを食べるなんて」


 味に興味を示した優香だったが、恵理子に拒否をされてしまえば仕方ない。

 すべて燃やしてしまうことにした。




「さあ行こう」


 と、しばらく馬車を進めると、渓谷が見えてきた。

 真っ黒こげの渓谷が。


 渓谷の入口に立つ優香と恵理子。


「なに、この真っ黒の渓谷」

「うーん」


 と、優香が壁を触ってみる。


「これ、すすだね」

「って言うことは、この渓谷を丸ごと燃やした……、えっと、人じゃないわよね。そんなことができる何かがいるってこと?」

「恵理子ならできる?」

「奥までは無理」

「私も無理だと思う」


 二人はうーむと悩む。

 悩んでも仕方ないことだが。

 だが、一つだけ可能性に気づく。

 二人同時に。


「「エルフの軍隊?」」


 二人は顔を見合わせる。

 エルフの国シルフィードは人間の国を従属させたと聞いた。

 しかも大国を三国も。

 おそらく、これくらいの火力を持っていてもおかしくはない。

 しかも、この先にエルフの国。

 南に人類の国カイナーズ。


「この渓谷で戦争があったのかしら」


 二人は知らない。

 とある二人の人間が、自分達より馬鹿みたいにでかい魔力を持っていることを。

 二人は思い出さない。

 渓谷を燃やすなんてことをやりかねない人間が二人もいることを。

 だが、優香の記憶のどこかに、似たような風景がよぎる。

 真っ黒な壁。しかし、思い出す前に恵理子に声をかけられる。


「まあいいわ。進みましょう」




 その渓谷には一体もロックリザードがいなかった。


「こんな汚れた壁じゃ、ロックリザードも歩けないか」

「きっとそうね。だから渓谷の外にいたのね」

「あれ、全滅させちゃった?」

「きっとだけど、まだいると思うわよ。そう思いましょう」




 渓谷を移動し、途中で野営を一度したものの、優香達は炭鉱の町モルガンに無事に到着する。


「さてと冒険者ギルドね」


 一行は冒険者ギルドへ馬車で行くものの大騒ぎになる。


「な、なんだこの大きなケルベロスは!」

「なんで悪魔の従者が何でこんなところに!」


 などなど。

 冒険者ギルドはてんやわんやである。


 そこへ押し出されてくる男が一人。

 ギルマスだ。


「お、お前ら、何の用だ!」

「教えて欲しいことがあるんだけど」


 ようやく話を聞いてくれそうな人が出てきたと、優香が聞く。


「なんだ。答えたら立ち去ってくれるのか?」

「え、立ち去らなきゃダメ? この子達、おとなしいよ?」

「なるべくなら、お願いしたい」

「うーん。それは後で考えるとして」

「いや、今考えてくれよ」

「エルフの国について教えて」

「……えっと、エルフの国? その森を入って行った先にある。らしい」

「らしいって言うのは?」

「あるのは確実だが、エルフのまじないで迷いの森になっている。行きつけるかどうかはわからない」

「なるほど。じゃあ、次、エルフの国の侵攻について」

「確かにエルフの騎士団が出立したな。我が国は属国だし、止めることはできなかったぞ」

「属国だった? じゃあ、どこを攻めに?」

「ドレスデンだ」


 なるほど。従属させられた順番があるのか。優香と恵理子はそう理解する。


「じゃあ最後。エルフの姫が従っているっていう人間のことについては?」

「?」


 ギルマスは首をかしげる。そして、


「噂では我が国の姫、今の女王陛下、セーランジェ女王陛下な。その方と一緒にカイナーズ政権を奪ったのはエルフだと聞いているが。エルフが従っているだと? 逆じゃないのか?」

「そう。宗主国の姫が属国の人間に従うわけもないか」

「そりゃそうだろう」


 ふと、優香は思い出す。


「獣人の国を攻め落とすって言うのは?」

「は? なんだそりゃ。まあもちろんこの街はへき地もへき地だ。だから声がかからないかもしれないが、平和が一番だぞ? 少なくともうちの女王陛下はそう思っているはずだ」

「エルフに命じられたら?」

「そりゃ宗主国にすごまれたら命令を聞かざるは得ないだろうさ。だけどエルフが? 何のメリットが?」

「……」


 ますますわからなくなる優香と恵理子。


「ありがとう。ここに滞在しても迷惑っぽいし、エルフの国に行ってみるわ」

「すまないな。気を付けて」




 優香達は、馬車を森に向けて進めた。


 森に入る。


「迷いの森って、シーブレイズの東の森みたいな感じかしら」


 恵理子が怪訝な顔をする。


「そうかもね。ここはアクアとパイタンにお願いかな」


 そう、優香と恵理子は相談しつつも、その心配は杞憂に終わる。




「あんた達、高位精霊ね」


 と、高位精霊リーフが現れた。


「「うん」」


 と、頷くアクアとパイタン。

 しかし、リーフと名乗った高位精霊は、アクアとパイタンの着ている団服を見て、そして、さらに優香や恵理子たち、他のメンバーがおそろいで着ていることを確認する。

 そして、ついにその名前を出す。


「あなた達、千里と桃香の関係者?」


 と。

 そのリーフの言葉に、優香と恵理子は顔を見合わせ、そしてその目に涙を浮かべて抱き合う。


 ようやく聞けた。

 やっと聞けたその名前。

 いた。

 この世界にいた。

 千里ちゃんと桃ちゃん。

 二人がこの世界に来ている。

 二人に会える。

 旅に出て三年目。

 それがわかった。

 ここまで来た。

 千里ちゃん、桃ちゃん。

 きっとあともうちょっとだ。


「あれ、どうしたのかな?」


 リーフは優香と恵理子を眺める。

 そのままにしておいては話が進まないと、リーフが声をかけようとするが、それをアクアが止めた。

 もうちょっとそのままでと。




 ひとしきり涙を流したあと、優香と恵理子はお互いを開放する。

 涙を指で拭いながら優香が聞く。


「千里ちゃんと桃ちゃんを知っているのね」

「ああ。知っている。この国に来たからな」

「この国はエルフの国であってる?」

「ああ。あっているぞ。行くか?」


 リーフがそう聞いてくる。

 優香と恵理子にとっては願ったり叶ったりだ。

 聞きたいことがいろいろある。


「お願い。連れてって」

「わかった。ついてこい」


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