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力試し(優香と恵理子)

 ズダダダダダダダ


「ニャニャニャニャニャー」


 しばらくお茶を飲みながら待っていると、リーシャとブリジットが走って戻って来た。


「ちょっと、砂が舞うじゃない」


 全力で駆けてきたリーシャに恵理子がクレームを入れる。


「ごめんなさい」


 リーシャが頭を下げる。


 ドドドドド……


「えっと、何があったの?」


 恵理子は走って戻って来たリーシャとブリジットにその理由を聞く。

 なにやら音がするがとりあえずは置いておいて。


 ドドドドドド……


「えっと」


 リーシャが言いよどむ。


「トカゲがいました」


 ブリジットがリーシャに代わりに答える。


 ドドドドドド……


「トカゲ?」

「ええ、トカゲです」


 ドドドドドド……


「このまだなり続けている足音と何か関係ある?」

「追っかけてきた」


 リーシャが目をそらして答える。


「何でそんなことに?」

「このバカ猫が石を投げたので」

「……バカ猫って」

「見てこいってだけ言われたんだろうに」


 ブリジットがリーシャに飽きれて肩をすくめる。


 ドドドドドド……


「それで?」

「ものすごく硬いんです。岩で体がおおわれているようでして」


 ブリジットがトカゲの説明をする。


「硬い?」


 優香と恵理子が顔を見合わせてニヤリとする。

 そして二人は立ち上がり、両手剣を取り出した。


 ドドドドドド……


 砂煙が見え始める。

 優香と恵理子は砂煙に向かって歩き出す。

 そして、二人は剣をかまえて走り出した。

 優香と恵理子は硬いものが切りたかったらしい。




 そんな二人の背中を見送りながら、ブリジットはリーシャに問う。


「ブリジット、一匹じゃないって言わなくてよかった?」

「あ、忘れた」


 その様子を見ていると、案の定。


「「キャー!」」


 悲鳴を上げつつ走って戻ってくる優香と恵理子。

 ブリジットは慌てて指示を出す。


「ミリー達は全員退却準備! ネフェリとリピー、ブレス用意。アクアとパイタンも魔法展開!」


「一匹じゃないじゃんー!」


 と、叫びながら走る優香と恵理子を見て、ブリジットはカウントダウンを始める。


「当てるなよ。三、二、一、て―!」


 バシュ! バシュ! ドゴーーーーン!

 ズドドドドドドドーーーーン!


 ブレスと魔法が巨大なロックリザードの群れを襲う。


 優香と恵理子が馬車まで戻ってくる。


「な、何、あのトカゲ、しかもでかいしたくさんいるし、追ってくるし」


 五メートル級のロックリザードの群れに、恵理子が慌てる。


「えっと、そう言いましたよね」


 リーシャが恵理子に確認する。


「たくさんなんて聞いてないわ」


 リーシャは目をそらす。


 状況を見ていたブリジットが報告する。


「ブレス、魔法ともに着弾。しかし、吹っ飛ばしただけでまだ討伐できていません」

「え?」

「硬いなー」

「優香、どうする?」


 優香はふむ、と思考する。

 硬いトカゲ、ここは訓練の成果を試す場だと。


「よーし、全員抜刀! ネフェリとリピーは好きにして。切れぬなら切って見せようトカゲちゃん。かな」

「……」


 優香の宣言ともとれる指示に、恵理子が固まる。


「まあいいわ。このままだと悔しいし」

「いざとなったら大鎌で口から切り裂け!」


 そういう優香の助言に、ミリーとオリティエの反応は異なる。


「全員身体強化! 意地でも切れ!」

「「「はい!」」」


 優香に試されているのだ。意地でも切らねば。

 ミリー隊、オリティエ隊とも、両手剣を握る。

 姫様隊のオッキーとマティも。




 一方の姫様隊にいる魔導士二人。


「ねえベル。私達後衛だけど、切らなきゃダメ?」


 エヴァがベルに声をかける。

 しかしベルは紙手裏剣をもってワクワクしている。


「え?」

「え?」


 エヴァは思った。この人、紙手裏剣をあのトカゲに刺すつもりだ、と。

 不安そうな顔をするエヴァにベルは言う。


「大丈夫、身体強化するから」


 エヴァは思う。

 絶対に違う、と。

 だが、ベルは絶対に天然だとも毎度ながら確信する。


 エヴァのジト目を気にせず、ベルは紙手裏剣を振りかぶる。

 そして、


「うりゃっ!」


 と、手裏剣を投げた。

 全力で。


 手裏剣は右斜め上にものすごい勢いで飛んで行ったかと思うと、弧を書いてロックリザードに向かい、


 サクッ!


 と、その頭の固い岩状のうろこに刺さった。


「よしっ!」


 と、ベルは得意気にガッツポーズを決め、エヴァに解説する。


「身体強化をするとね、およそ三倍のスピードで投げられるの。しかもスピードが上がると刺さる力も強くなるの」


 と。


 エヴァは思う。

 魔法はイメージ。

 イメージだから。

 絶対に筋肉じゃないから。

 と。


 ところが、頭に紙手裏剣が刺さったロックリザード。

 そんなことを気にせず、まっすぐにベルとエヴァに向かって走ってくる。


「効いてないね」


 エヴァがつぶやく。


「紙手裏剣、回収できないじゃん」


 ベルがつぶやく。


 だが、そんなことを言っている場合ではない。

 走ってくるロックリザードはそこそこ速い。

 ベルをロックオンしたロックリザードは、ベルとエヴァに向かって走ってくる。


「やばい」

「まずい」


 それに気づいたエヴァとベル。


「いやー」

「紙手裏剣がー」


 と、二人は走って逃げだした。




 オッキーとマティはそれを見ていたが。


「あの一体は二人に任せようか」

「うん」

「それじゃ、私達はと」


 一体のロックリザードと向き合う。


「さあ、切りますか」

「やりますか」

「「身体強化!」」


 二人は身体強化をして両手剣をかまえる。

 一体のロックリザードが二人に向かって走ってくる。

 が、どちらを狙うか悩んだ末、体の小さなマティに決めたのか、マティに向かって走り出した。

 オッキーは、マティの前に左から走り込み、


「私を無視すんな!」


 と、ロックリザードの開いた口に向かって両手剣をフルスイングした。

 同じくマティもすっとロックリザードの右側にずれ、同じように両手剣をフルスイングしてロックリザードの口へと撃ちこんだ。


 ガシュッ!


 ロックリザードの両の口角にオッキーとマティの剣が突き刺さり、切り裂けはしなかったものの、ロックリザードの動きを止める。

 ロックリザードは、頭を振って、二人の剣を弾き飛ばした。


「マティ、もう一回じゃない?」

「次は切るよ」


 二人はもう一度両手剣をかまえる。

 両の口角を切られ、口が裂けかけたロックリザードはズリズリと後ろに下がり、そして、再び突進してきた。

 今度はオッキーに向かって。


 マティは先にオッキーがやったようにロックリザードの右に飛び込む。そして、オッキーが左によける。


「「せーの!」」


 ザシュッ!


 ロックリザードの口角からのどまで二人によって切り裂かれ、そして、ロックリザードは音を立てて崩れ落ちた。


「やったね」

「うん!」


 二人はハイタッチを交わす。


「ところで」


 と、周りを見回すと、未だエヴァとベルが追いかけられている。


「おーい、エヴァ、ベル、こっちに向かってきて!」


 そのオッキーの提案にエヴァとベルは逃げる方向をオッキー達の方へと変えた。


「オッキー、マティ、お願いー!」

「助けてー」


 入って間もないベルはそろそろ体力的に限界だ。


「私とマティの間を走り抜けてね!」


 エヴァとベルがオッキーとマティの間を走り抜けると、

 両手剣をかまえたオッキーとマティは、両手剣を持ったまま体をひねって一回転し、ロックリザードに向けてフルスイングした。


 ザシュッ!


 今度は一度でのどまで引き裂くことが出来た。


「うん。やっぱり、かまえると全力で振れるな」

「私にも切れた」


 オッキーとマティは嬉しそうにハイタッチを交わしているが、エヴァとベルは両手を地面にタッチして荒くなった呼吸を何とか整えようとしていた。


「ぜえぜえ、オッキー、先輩たちは……」


 エヴァが立ち止まって余裕ぶっているオッキーに聞く。

 オッキーがはにかんで答える。


「先輩方が身体強化して切れないものがあるわけないじゃないか」


 と。


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