夫の心を読む……妻(優香と恵理子)
優香と恵理子は狼人族の獣人から離れ、ミリー達に指示を出す。
「村中を一周して、異常がないかを確認して。何もなかったら、馬車を村の東に出して。そこで寝ましょう」
「「「はい」」」
ミリー隊、オリティエ隊、姫様隊が村中に散っていく。
とはいえ、そんなに広い村ではない。
すぐに見終わってしまう。
しばらくしていると、北の森に避難していた獣人達が戻ってくるのが見えた。
皆、気を落としてうつむいていた。
それはそうだ。
村は、住む家は燃やされた。
それに、傷ついた家族もいるだろう。
「ミリー、オリティエ、予定通り村の外で寝る準備を。それから、マロリー、ルーリー、エヴァ、ちょっと付き合いなさい」
恵理子はそのように指示を出して、優香とマロリー達と一緒に広場へと戻っていった。
恵理子はさっきの狼人族の獣人を広場で見つける。
「ねえ、怪我をしている人がいるなら、治癒魔法をかけるわよ」
「本当か?」
「火事があったんだから、やけどの人もいるわよね。傷が深い人、やけどのひどい人から順番に連れて来て」
「すまない。助かる」
狼人族の獣人は、広場の中心で叫ぶ。
「おーい。怪我をしている者、やけどをしている者に治癒魔法をかけてくれるそうだ。傷がひどい者から連れて来てくれ」
「ありがたい」
「助かる」
「感謝する」
恵理子と優香、マロリーとルーリー、そしてエヴァの五人は、集められた怪我人から治癒魔法をかけていく。
そしてそれが終わると、軽度の怪我人たちに治癒魔法をかけていく。
「えっと、五人でとはいえ、これだけの人数、全員に治癒魔法をかけるのか?」
「できる範囲よ。魔力が尽きたら寝るわ。そう言うあなたもその腕の傷見せなさい」
恵理子は、狼人族の獣人の手を取り、腕の傷に治癒魔法をかけた。
「ありがとう。俺はロボだ」
「あら、いい名前ね。私はマオ」
ロボは名前をほめられほほを染める。
「これで全部かしら」
「そのようだな。ありがとう。仲間を助けてくれて」
「いいのよ。魔力なんて寝たら回復するんだから使わないと損だわ」
「そうか。それでもありがとう」
「あの人間の兵士は任せてもいいのよね?」
「ああ。カイナーズが取り返しに来るかもしれないが、その前にアクウェリアから騎士団が来てくれることを祈っているよ」
「そう。それじゃよろしく。私達は寝るわ」
そう言って、恵理子たちは広場から離れた。
恵理子は馬車に戻るとミリー達にお願いをする。
「疲れているところ悪いんだけど、明日の朝起きたら食料調達に行ってもらえる? 魔物や野菜、野草などなどね」
「「「はい。承知しました」」」
「だから、今日はもう寝なさい」
「「「はい」」」
翌日、早朝からミリー達が森へと入っていく。
そして、狩った獲物、野草などを村の広場へと運び込んでいく。
「あ、いたいた、ロボ」
「ああ、あんたか、マオ」
「火を起こすから、その魔物をさばいて焼いてくれる? 塩コショウはあるわ」
「おい、いいのか? 飯まで」
「だって、燃えちゃったんでしょ?」
「まあ、そうだが」
「それから、野菜はスープを作るからそれも食べてもらって」
「何から何までありがとう」
「何から何までじゃないわ。さばいて焼くのは自分達でやってね。もう怪我は治っているんでしょ?」
と、恵理子はロボの腕をピシッと叩く。
ロボは慌てて腕を引っ込めたものの、すこしそのやり取りがうれしかったのか、ばれないようにほほを染める。
「おーい、肉を獲ってきてくれたから、さばいて焼くぞ!」
と、ロボは集まって来た人達に声をかけていく。
てれを隠すかのように。
獣人達は、恵理子や優香たちクサナギのメンバーに頭を下げて肉やスープを受け取っていく。
そんな中、年老いた女性の獣人がぽつりと言う。
「聖女様のようだ……」
その一言を聞いた獣人達は、声に出すこともひざまずくこともしなかったが、皆が同じように、恵理子達を聖女のようだ、と、女性の一言に心の中で同意した。
優香たちが出発の準備をしていると、ロボたち獣人が近づいて来た。
「行くのか?」
「ええ、シルフィードに行って、話を聞いてくるわ」
恵理子が答える。
「そうか。気を付けて。この道をまっすぐに何日も行くと渓谷に出る。その渓谷を通って北に行き、さらに行ったその先がシルフィードだ。ちなみに、渓谷に入らず逆に南に行けばカイナーズの王都がある」
「ありがとう。助かるわ。それじゃ、元気でね」
恵理子はそうロボに別れの挨拶をして馬車に飛び乗った。
「ミリー出して」
優香が出発の合図を出すと、馬車が動き出す。
「行ってしまった」
聖女様が、の部分は声に出さない。
ロボは治してもらった腕を押さえて馬車を見送る。
ドスッ!
「いってー!」
ロボが尻を押さえる。
強烈なミドルキックが入った。
「何すんだ!」
ロボが振り返ると、狼人族の女性が腕を組んで怒っている。
「何すんだ、じゃないわよ。ほら、何をか知らないけど残念がってないで、村を直すよ」
「わかっているよ、かーちゃん」
ぷりぷり怒っている妻について、頭を掻きながら村に戻るロボ。
振り返ることはしない。
「早く直さなきゃな」
聖女様がいつ戻って来ても休んでもらえるように、頑張りをほめてもらえるように、とは口に出さない。
しかし、この後ロボは妻にぼこぼこにされる。
妻は夫の心を読むのだ。
ロボは叫ぶ。
「信教の自由だ―!」
浮気ではない、聖女様を崇めているだけだと。
優香達は何日も森を進む。
どうも獣人と人間の国との間には砦が無いようだ。
だから簡単に攻め込むことが出来るのか。
だが、それが平和の証なのにな。
そう優香は思う。
そうしてクサナギ一行は、森を抜けて草木の生えない土地へと足を踏み入れた。
見渡してみると、左側は崖。
それがずっと東まで続いている。
北側は平野が続いているようだ。
「渓谷があるって言っていたわよね」
「ええ、あるなら崖の方よね」
そう判断し、北側へ、崖の方へと馬車を進める。
崖沿いを東に向けて進んでいくと、恵理子が何かに気づく。
「あの壁のところ、同系色の何かがいる」
恵理子は遠い崖を指さす。
「はいはーい。行ってきます」
と、ずっと暇を持て余していたリーシャが飛び出す。
もちろんブリジットがリーシャを追いかける。
「ちょっと休憩しましょうか」
と、恵理子は馬車を止めてリーシャとブリジットが戻ってくるのを待つことにした。
ミリー達がてきぱきとテーブルと椅子を出し、お茶を入れ始める。
優香と恵理子、アクアとパイタンは椅子に座ってお茶をいただく。
ネフェリとリピーは立って警戒をしている。




