猫人族キター!(優香と恵理子)
ネフェリとリピーが上昇すると、遠くに火災が見えてきた。
「街、いや、村が燃えているのかしら」
夜になったというのに、煙を上げつつ空を照らすその火災。
数百人規模であろう、さほど大きくない村のようだ。
しかし、全体が燃えているため、火災は大きく見える。
「ネフェリ、リピー、上空へ」
「わかった」
ネフェリとリピーは村の上空へと急ぐ。
そして、村の上空にたどり着くと、二人は煙をよけるように旋回する。
「「レイン!」」
優香と恵理子が雨を降らせる。
それもスコールのような。
「二人とも、村へ」
そう優香が指示をすると、ネフェリとリピーは村の広場へと向かい、そして、地上近くで人型になって降り立った。
優香と恵理子も同じように地面に降り立った。
四人が降り立つ前。
「あ、雨だ!」
と、争っている獣人と人間の両者が空を見上げる。
「よし、助かった」
突然の大雨に獣人の兵士がわずかながら安堵する。
しかし、目の前に敵がいることには変わりがない。
「ち、雨は降らないはずだろうに」
人間の兵士が舌打ちをする。
身体能力でかなわない獣人に勝つためには、住居を燃やし、弱い女子供をあぶり出し、人質にすること。
もちろん、人質としてとらえた後は奴隷として売る。
そう計画していたのに。
しかも、そこへ二体のドラゴンが降り立った。
「味方か?」
獣人が叫ぶ。
「敵か?」
人間が叫ぶ。
さらに数時間前、百人以上の人間の盗賊がこの村へと訪れた。
それなりに兵士らしい恰好をして。
そして、その盗賊のリーダーは門で叫ぶ。
「我らはカイナーズ王国第二騎士団の先遣隊である。宗主国であるエルフの国、シルフィードの意思により、この大陸を統一する。まずは手始めに獣王国のこの最東端の村からだ。おとなしく捕まるなら何もしない。そうでなければ、この先遣隊と第二騎士団本体とでこの村を挟撃し、撃ち滅ぼす」
その宣言と同時に、百人以上の盗賊は同時に火矢を何本も村に撃ちこんだ。
城壁もないような村である。
火矢はいとも簡単に住居や建物に火をつけていく。
獣人たちは、挟撃されると言われれば、西へと弱い女子供を逃がすわけにもいかない。
「北へ、北の森へ逃げろ」
だが、そう簡単に逃げられるものでもない。
「よし、獣人どもをひっとらえろ。抵抗する者は殺してしまえ」
盗賊が叫ぶ。
これにより、盗賊達と獣人の争いは激化していく。
ちなみに、挟撃するというのは、盗賊たちの嘘だ。
そうすれば逃げられはしないだろうと。
「やめなさい!」
恵理子が叫ぶ。
「あ? お前、人間だろう。我らはカイナーズ王国第二騎士団だ。お前達も協力しろ。獣人を捕まえろ!」
「なぜ、なぜそんなことをしないといけないの?」
「宗主国シルフィードの要望だ。この大陸全土を統一しろとな。エルフを頂点とした人間の国を作るのだ。獣人は奴隷としてな」
もちろん盗賊の嘘である。
この村を滅ぼして、獣人を奴隷として売るのは事実だが。
「嘘だと思うならシルフィードへ行って聞いてこい。まさか、宗主国シルフィードに、エルフに逆らったりしないだろうな!」
恵理子は考える。
この人間の兵士達は、この村を滅ぼして獣人達を奴隷にいようとしている。
それを放置してシルフィードに行けば、それが現実のものとなる。
そんな時間はない。
今、決断をしなければ。
とはいえ、こんな強制的な隷属化なんて許すことはできない。
エルフと対立する?
そんなことはあってはならない。
だが、目の前の現実から目をそらすこともできない。
恵理子は優香の顔を見る。そして、うなずき合う。
「私達は冒険者パーティクサナギ。この大陸を無理やり統一するとか、獣人を奴隷にするとか、そんなことはたとえシルフィードの意思だとしても許せない。よって、獣人達の味方をする。覚悟なさい!」
「ネフェリ、リピー、やるよ!」
優香がドラゴン族の二人に声をかける。
「殺していいのか?」
「僕らはエルフの国ともカイナーズとも敵対したくない。だけど、こんなことは許せない。だから、おとなしくおかえり願うのが一番なんだ。だから」
「わかった」
そう返事をして、ネフェリとリピーは人間の兵士をゲインゲインと蹴り飛ばしていった。
殺しはしない。
ひたすら戦闘不能にしていく。
優香と恵理子も、相手の剣を両手剣ではじきながら、両手剣の腹で殴りつけていく。
優香達の参戦により、獣人たちが活気づく。
「俺らもやるぞ!」
「「「「おー!」」」」
数としては負けているものの、もともと獣人達は身体能力にたけている。
優香達と一緒に攻勢に出る。
半分ほど倒したところで、クサナギの馬車が到着した。
「タカヒロ様! マオ様! お待たせしました。どっちをやります? って、人間の方ですね」
リーシャが優香達が誰と対峙しているかを確認して飛び出す。
「猫人族キター!」
獣人たちが歓声を上げる。
「我々も後れを取るな! 行くぞ!」
ブリジットが声を上げると、ミリー隊、オリティエ隊、そして姫様隊が飛び出していく。
「鎮圧が目的だ。魔法は使うな! 無力化しろ!」
「「「はい!」」」
こうなると、後は時間の問題である。
村に攻め込んだ盗たちより、そこに住んでいた獣人たちより圧倒的に強いクサナギが参戦したのである。
しかも二十二人。
ちなみにアクアとパイタンは見学だ。
人間の、兵士の恰好をした盗賊たちは、殴られ、蹴られ、あっという間に沈黙していった。
「これで全部?」
恵理子が確認する。
「おそらく、全部だと思います」
ミリーがすかさず報告してくる。
「それじゃ、全員縛って」
「「「はい」」」
ミリー隊、オリティエ隊そして姫様隊が、人間の兵士達を縛り上げていった。
そこへ一人の狼人族の獣人が、指示を出していた恵理子と優香の下へとやってきた。
「この度は、助けていただき感謝する」
そう言って頭を下げた。そして、続ける。
「これはエルフの国シルフィードの意思と言っていた。それに従って人間の国カイナーズがやっていると。いいのか? お前達は人間族だろう。我々の味方をしてはまずいのではないか?」
「いいのよ。私達はそもそも冒険者だから国の意思になんて従う義務はないわ。それに何より、気に入らないのよ」
恵理子は続ける。
「なんの罪もない人達の村に攻め込んで、村を焼くわ住人を奴隷にしようとするわ、こんな盗賊みたいなやり方、絶対に許せない!」
恵理子は、フゥ、大きく息を吐き、自身を落ち着かせると。
「あなた達は大丈夫なの? 村をこんなにされちゃって」
「大丈夫じゃないな。だが、息子に助けを呼びに行かせた。近くの村にたどり着いていればいいが」
「ああ、狼人族のあの子。西に向かって走っていったわ」
「そうか。無事か。教えてくれてありがとう。この情報が流れれば、おそらくアクウェリアあたりの騎士団が来てくれるだろう。そうすれば、守ってもらえる。家は、何とか建て直すさ」
「強いのね」
「負けていられないだけだ」
「そ。ところで私達だけど、今晩、この村の外で野営させてもらっていいかしら」
「ああ。かまわない。好きにしてくれ」
「ありがとう」




