人間嫌い(優香と恵理子)
わんも「申し訳ないです。予告を忘れました。本日より優香さんと恵理子さん編です。よろしくお願いします」
優香と恵理子、プラチナランク冒険者パーティクサナギがアクウェリアに着いて五日目。
「それじゃ、出発しましょうか」
優香がパーティメンバーに声をかける。
優香が景気良く声をかけたものの、
「で、どっちにする? カイナーズ、それとも、ドレスデン?」
恵理子が聞いてくる。
大事なことを決めていないぞと。
御者台に座っているミリーとオリティエはもっともだと首を縦に振る。
カイナーズはこのアクウェリアから東。ドレスデンは南だ。
「聞いたところによると、エルフの国とつながりが強いのはカイナーズらしいのよね。だから、そっちへ行ってみようかなと」
「わかったわ。東ね。海沿いを行けばいいの?」
「そうみたい」
「ミリー、オリティエ、お願い。東へ」
「「はい!」」
左に海を見ながら進む。
だが、草原の真ん中を進んでいくだけで特に変化があるわけでもない。
見晴らしもよく、遠くを見渡すことが出来るのではあるが。
そうなると、ただ歩くことに暇を持て余す者が出てくる。
シュルルルルルルル、パシン。
シュルルルルルルル、パシン。
ベルだ。
ベルが風属性魔法ウインドカッターを乗せた紙手裏剣を投げては、戻ってきたところを両手で挟むようにキャッチしている。
「ちょっと、ベル。危ないから」
ベルと一緒に歩くエヴァが注意する。
「えー、大丈夫だよ」
「大丈夫って、どこにウインドカッターをキャッチする人がいるの?」
「ここにー」
ベルは得意げだ。
「でも、紙手裏剣が見えるから大丈夫だよ」
ウインドカッターは風魔法だから目に見えない刃だが、ベルが放っているのは紙手裏剣に乗せているので、紙手裏剣に気を付けていれば避けることができる。
ベルはそう言っている。
恵理子はそれを見て思う。
この短期間でベルはウインドカッターの軌道を制御できるようになってしまったかと。
「それに、帰って来ないと拾いに行くのめんどくさいじゃん」
恵理子はそれを聞いて思う。
紙手裏剣のないウインドカッターを放てと。
恵理子は紙を丸めて棒状にして、上へと掲げる。
「ベル、これを狙って!」
「はい」
シュルルルルルルル、サクッ!
シュルルル、パシン。
恵理子の持っていた紙が半分に切れた。
しかも、それを切ったウインドカッター、紙手裏剣は、落ちることなくベルの下へと戻っていった。
恵理子は思う。
惜しい。惜しすぎる。
天才的な風属性魔法使いなのに、物を投げないと気がすまないとは。と。
「よし、マティ、私達も剣を振りながら行こう」
オッキーがマティに声をかけ、歩きながら剣を振り始める。
「はーい」
もう一人の姫様隊、エヴァは、ベルに注意することに飽き、ずっとぶつぶつ言いながら歩いていく。
もちろん魔力操作の鍛錬である。
ちなみに、ミリー隊もオリティエ隊も魔力操作の鍛錬をしながら歩いている。
ミリー隊も、オリティエ隊も、姫様隊も全員が、ただ歩くのではなく、鍛錬をしながら歩いて行く。
それがクサナギの日課だ。
やらないのは、アクアとパイタンくらい。
数日が立ち、食材の在庫に不安を生じ、そろそろ森へ食料を取りに行きたいな、と、思い始めたころ、道は少しずつ内陸へと向かっていく。
海が離れ、そして森が海を消すように見えてくる。
偶然かもしれないけれど、持ち運べる食料と食料を確保できる場所の位置関係、うまくできているものだな。
優香は、そう思い、
「あの森の際で休もう」
と、提案する。
「「「はい」」」
森までたどり着くと、ミリー隊が食料を調達しに森へ入る。
オリティエ隊が夕食の準備を始める。
そして、姫様隊は剣を振る、手裏剣を飛ばす、ぶつぶつ言う。
さらに、ネフェリとリピーを相手に、優香と恵理子、ブリジットにリーシャが剣を振るう。
アクアとパイタンは、二人そろってタロとジロ、ヨーゼフとラッシーと休憩だ。
ミリー隊が帰って来て、食事の準備ができるまで特訓は続く。
ミリー隊が獲ってきたホーンボアをおいしくいただき、ゆっくり休憩タイムに入る。
ちなみに、このパーティの全員は寝る前に魔力を全放出することにしている。
夜の警戒はタロとジロ、ラッシーとヨーゼフにお任せだ。
魔力量の多い優香と恵理子は、他のメンバー達より早い時間から魔力の放出を始める。
とりあえず、広範囲の探査魔法だ。
千里と桃香のように何かをいきなりぶっ放したりしない。
その探査魔法に、何かが引っ掛かる。
「リーシャ、ブリジット、何かが来る」
優香が二人に声をかける。
道の進行方向から、おそらく走ってくる何か。
いや、誰か。
リーシャとブリジットは、ヨーゼフとラッシーを連れて街道を前に出て、様子を探る。
「ブリジット、何か見える?」
「優香様と恵理子様のガチの探査魔法は広すぎて」
「だよねー」
そう言いながら待っていると、走ってくる誰かが見えてきた。
「んー」
リーシャが目を細める。
「あれ、男の子かな?」
そう言って、リーシャはさらに街道を前に出ていく。
ブリジットは、ヨーゼフとラッシーとその場に残る。
少年は、狼人族だった。
東の街から走って来た。
そして、街道に立つリーシャを見つけた。
「猫人族のお姉さん、助けて。助けてください」
少年は、その後ろに人影が見えるのを確認し、獣人のパーティだと確信する。
「えっと、大丈夫? まずは話を聞こうかな」
そう言って、少年を連れてブリジットのところまで戻ってくるリーシャ。
しかし、少年はブリジットを見て、後ずさる。
「人間……」
さらに、ヨーゼフとラッシーを見て、
「なんだこの生き物……」
そう呟き、少年が後ずさって逃げようとしたところを、リーシャがその襟首をつかんだ。
「こら、逃げるな」
「な、離せ! 人間なんかにやられてたまるか。お前も猫人族のくせに人間なんかと仲良くしやがって!」
と、バタバタ手足を振り回して暴れる。
「あ、そう。じゃあ、バイバイ」
リーシャはその手をあっさり離してしまう。
ドサッ!
尻から落ちる少年。
「くっそー」
そう言って、少年は遠回りにクサナギのパーティをよけ、西へと走って行った。
「何だったんだろう」
リーシャが首をかしげる。
「さあな、人間を嫌っていたみたいだけど?」
「助けてって言っていたよね」
「ああ、なんだったかな」
リーシャとブリジットは優香と恵理子のところまで戻り、そのことについて報告する。
「うーん。急ぎなのかな」
優香が首をかしげる。
「助けてほしい、それと、人間嫌い」
恵理子が二つのキーワードを並べる。
「人間に襲われているんじゃないわよね」
「恵理子、どうする?」
「行かないで後悔するなら行って後悔する」
「だよね」
優香は、皆に伝える。
「戦闘準備。急ぐよ」
「「「はい」」」
もう夜も更けるというのにシンベロス馬車を急がせる。
「優香、恵理子、急ぐなら乗れ」
ネフェリとリピーがドラゴン形態になった。
「ごめん、お願い」
「わかっている」
優香と恵理子はそれぞれネフェリとリピーに乗る。
「ブリジット、リーシャ、後で合流で!」
「了解でーす」
リーシャが手を振って答えた。




