あはははは(貴博と真央)
貴博が周りを見回す。
そこには、頭の無い巨大なホーンタイガーの死体が転がっていた。
あれは、セレンがやったんだな。
イレギュラーは二体いたのか。
「ラビ、マイマイ、そいつは僕が」
そう言うと、ラビとマイマイは、薙刀で一撃を加えて横に飛びずさる。
それを見て貴博は、残りの魔力を込めて魔法を放つ。
「フリーズ!」
貴博が放った魔法は、マイナス距離魔法。
魔力量の多い貴博だからこそ使える魔法。
チートすぎて使うことにためらいを感じるが、今は、セレンをこんな風にしたホーンタイガーを許すことが出来ない。
巨大なホーンタイガーの脳が、心臓が、内臓が、筋肉が、凍っていく。
そして、
ズドーン!
ホーンタイガーが凍ったまま倒れた。
それを見て、ラビとマイマイが薙刀の柄で凍ったホーンタイガーをつんつんする。
もちろん、カチカチである。
貴博は、怒りに任せて魔力を使ってしまったため、魔力が枯渇し、もうフラフラの状態である。
何とか、セレンの横まで移動し、座り込み、セレンの手を取る。
だが、そこでは終わらない。
「キュ!」
ラビが鳴いた。
貴博が振り返ると、ラビとマイマイが洞窟に向かって薙刀をかまえている。
貴博は後悔する。
ちゃんと探査魔法を使っておけばよかった。
ホーンタイガーを倒すのに全身を凍らせる必要はなかった。
そうすれば、まだ……
だが、洞窟から出てくる魔獣、ホーンタイガーは待ってはくれない。
貴博が倒したホーンタイガーも五メートル級と大きかったが、それをさらに上回る大きさ。
貴博は何とか立ち上がる。
そして、腰の刀を抜いてかまえる。
グルルルルル、
そう鳴いてホーンタイガーはラビとマイマイに襲い掛かった。
マイマイが薙刀の柄で爪を立てた前足の蹴りを防ぐ。
そのすきにラビが切り込む。
しかし、その毛は皮膚は相当固いらしく、刃が通らない。
ガキン! ガキン! ガキン!
何度も何度もホーンタイガーの爪と二人が振るう薙刀が打ち合わさる。
ホーンタイガーはその高さを生かした上からの爪攻撃、ふみつけ、かみつきなどの攻撃をラビとマイマイに仕掛ける。
二人とも、一人が受けて一人が攻撃をするというパターンで対処するが、なかなかダメージが通らない。
ラビとマイマイのスピードをもってしても。
それはある意味したがない。
二人が持っているのは人間用の薙刀なのだ。
巨大なホーンタイガーにはおもちゃのようなものかもしれない。
それに、どうにもならないのが体重差。
ついにマイマイが弾き飛ばされた。
それにより攻撃のタイミングを失ったラビも蹴り飛ばされた。
ホーンタイガーはふらふらと立ち上がっている貴博を見据え、口を開いて襲い掛かって来た。
ザシュッ!
「ギャーーーーーン!」
ホーンタイガーが悲鳴を上げた。
貴博が見上げると、ホーンタイガーの右の口角が裂けていた。
「お待たせなのです」
真央だ。
真央が大鎌をもって、ホーンタイガーに対峙している。
そこへラビとマイマイも何とか戻ってくる。
「ラビ、マイマイ、大きな獲物にはやっぱり大鎌なのです」
そう言って、真央はどこから出したのか、大鎌二本をそれぞれにポイっと渡した。
ラビとマイマイも大鎌をかまえる。
「いいですか、大鎌の基本は刺してえぐるです!」
と言って、振り下ろされるホーンタイガーの右足に向け、真央は飛び込むと同時に体ごと一回転して、大鎌の先端でホーンタイガーの皮膚を貫く。
そして、肉を裂く。
「ギャーーーン!」
なるほど、と、ラビとマイマイも飛び出す。
さすがに三人に大鎌をふるわれると、巨大なホーンタイガーであろうとも同時に対処することが出来ない。
左前足、後ろ足と、ラビ、マイマイに削られていくホーンタイガー。
ついには立っていられなくなり、崩れ落ちる。
そこへホーンタイガーの延髄からのどに向かって真央が大鎌を貫く。
ザシュッ!
ドッシーン!
ついに巨大ホーンタイガーが横向きに倒れた。
それを見て、貴博も崩れ落ちる。
「あ、ホーンタイガー、撤退していくみたい」
貴博が張った炎の壁の中から外の気配を察知したミーゼルが言う。
「センセ達、イレギュラーを倒したのかな」
「きっとそうだと思うわ。センセですもの。真央も追いかけて行ったしね」
ルイーズとリルもそう想像する。
「で、シーナ、実際のところ、どうなの?」
「はい。終わったっぽいです。動きが止まりました」
「それはよかった。センセが炎の壁を作ってくれて楽になったけど。これ、消さなきゃ出られないわ」
ミーゼルはやれやれと炎に向かって右手を伸ばし、
「ウォーターボール!」
と、水魔法を撃ちだした。
「私もやるー」
ルイーズとリルも参戦する。
「ちょっと水蒸気が上がって熱いんだが?」
クラリスが苦言と呈するが、
「じゃあどうするのよ」
というミーゼルの意見に沈黙し、クラリスもあきらめて同じようにウォーターボールを撃ちだした。
サンタフェとカンタフェは、魔力をかなり消費したのか、馬車の上で休んでいる。
その様子を見ていたレティシアはぽつりとつぶやく。
「このパーティは全員が剣士でかつ、魔導士なのか?」
それに答えたのはシーナ。
「そうですよ。センセの鍛え方、容赦ないんですから」
レティシアは固まり、シーナは笑う。
「シーナ、笑ってないで手伝ってー」
「はーい。今すぐ」
ミーゼルの呼びかけにシーナも馬車からぴょんと飛び降り、消火活動に参加した。
「よし、私も手伝おう」
レティシアも一緒にウォーターボールを撃ちだした。
「さすがエルフ」
「さすがエルフ」
「さすが……」
「バカにしてんのかー!」
「あはははは」
「「「あははははは」」」
「ふふふ、あはははは」
思わず笑ってしまったレティシアだった。
倒れたホーンタイガーを前に、腰を下ろしている貴博と真央。
「センセ、どうするです?」
「クラリス達が来るのを待とうか。正直しんどい」
「センセの魔力量、セレンを上回っててよかったのです」
「ほんとに。魔力量を増やしてくれたグレイスには感謝だよ。だけど、ドラゴン族を上回るって、どんだけだよって、自分でも思う。かなり魔力を持っていかれたけどね。おかげで魔力がなくなっちゃって、最後の一頭を倒せなかった」
「でも、このカチコチのホーンタイガーは、私が見てもオーバーキルなのです。頭だけでよかったのです」
「それは僕も反省。でも、魔力量的には真央だって僕と同じようなもんでしょ?」
「使い方がセンセはうますぎるのです」
「ま、真央は体を動かす方が好きだもんね。仕方ないよ。それに、今はその魔力量に助けられたわけだし。真央、来てくれてありがとう」
「ん」
真央は、座っている貴博の胸に倒れ込んで貴博を抱きしめる。
「んん」
貴博と真央が横に寝ているセレンを見る。
「えっと、人が気を失っていると思って。そういうのは、人目につかないところでお願いしたいです」
「セレン、気が付いたんだね。」
「え、ええ。今しがたですけど」
「立ち上がれそう?」
「無理です。さっきみたいに抱いてください」
「言い方!」
「セレンも元気になってよかったのです」
真央が言う。
「いえ、立てないんですが、元気じゃないんですが」
「あはははは」
真央が笑う。
「笑い事じゃないと思うんですけどね」
セレンが唇を尖らせる。
「あはははは」
貴博が釣られてしまう。
「んもう」
セレンがふくれる。
だが、そのやり取りもおかしかったのか、セレンも笑ってしまう。
「「「あはははははは」」」




