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願いの代償(貴博と真央)

 レティシアはその光景に目を奪われる。


 ラビは踊るように飛び跳ねながら薙刀をふるい、次から次へとホーンタイガーの首に刃を当てていく。

 マイマイは、直線的にホーンタイガーの群れに飛び込み、次から次へとその胴体を引き裂いていく。


 そして、目の前の真央。体が小さくともその動きの速さ。

 攻撃を仕掛けてくるホーンタイガーに対して、すっと紙一重で横へよけては刀を一閃。

 ホーンタイガーの首が落ちる。

 おそらくホーンタイガーはいつよけられたのか、切られたのかわかっていないだろう。

 真央はすぐさま次のホーンタイガーへと向かう。

 その素早くまた無駄のない動きに、次から次へとホーンタイガーが倒れていく。


 真央に目を奪われてそれ以外のメンバーを見ることが出来ない。

 しかし、同じような感じだろう。


 そう考えているレティシアにもホーンタイガーが襲ってくる。


 ガシン!


 レティシアは飛びかかって来たホーンタイガーの爪を両手剣ではじく。

 そしてホーンタイガーと対峙する。

 再び飛びかかって来たホーンタイガーに両手剣を一閃する。

 しかし、


 ガツッ!


 ホーンタイガーはレティシアのその剣を咥えて止めてしまう。

 そこへレティシアの背後から別のホーンタイガーがレティシアに牙をむく。


「危ない!」


 ズサッ!


 ミーゼルがアイスバレットをそのホーンタイガーに撃ちこんだ。


「ミーゼル、助かった。が、これ、どうしていいか」


 レティシアは、両手剣を咥えられたまま、ホーンタイガーと押し合い、身動きが取れなくなっている。


「馬車に背を向けてないとだめ。攻撃される方向を絞って! それから。ちょっと待って!」


 ミーゼルはミーゼルで手いっぱいだ。

 なかなかレティシアのフォローに回れないでいる。


 ドスッ! ドスッ!


 レティシアの剣を咥えているホーンタイガーが二発のアイスランスで沈黙する。


「サンタフェ、サンキュ」

「サンタフェ? ありがとう」


 ミーゼルが、そして助けられたレティシアがサンタフェにお礼を言う。


「まだ終わっていません!」


 ホッとした二人に、御者台からシーナが叫ぶ。


「第二弾来ます!」

「これはセレンに早く終わらせてもらわないとだめだな」


 貴博は愚痴を言いながら刀を振り続けた。




 一方のセレン。

 押し寄せるホーンタイガーの群れを蹴散らしながら前を目指す。


「全く、私のさぼりのせいとはいえ、こんなことになろうとは」


 おそらく、セレンが街のキザクラ商会へ行っているときなどに現れたイレギュラーであろう。


「確かに何度も出かけることはあっても、そんなときに限って出てくるとは。兎といい、カメといい、今度は虎か」


 そうして走った突き当りには高い崖が立ちはだかった。

 その前には広い広い木の生えていない空間が。

 そして、その崖には大きな穴。洞窟が。


「さてと、洞窟の中にいるのなら、ブレスを撃ちこめば終わりかな」


 そう言ってセレンは洞窟に歩いて近づく。

 洞窟の入口の高さは五メートルはありそう。


「さぞかしでかいイレギュラーなんだろうな。出てきたイレギュラーを倒すのもまた一興かもだが、今は時間が惜しい。行くぞ」


 そう言って、スゥ、と、セレンは息を吸い込んだ。


 が、それを見計らったかのように森から出てきた二頭の子どものホーンタイガー。

 セレンはその子虎に目を奪われた。

 五十センチくらいの小型のホーンタイガーだ。

 色は白地に黒の縞模様。


 セレンはブレスを撃つのをいったんやめ、子虎に声をかけた。


「いま、お前達のボスを倒すところだから、お前達は下がっていろ」


 しかし、子虎達はとことことセレンの下へと歩いてくる。


 そして、一頭の子虎がセレンの足元でコロンと腹を見せた。


「ニャウン」

「お前達、ここにいたら危ない」


 そう言って、セレンはかがみ、寝転がった子虎を抱きあげようとした瞬間、


 グサッ!


 もう一頭の子虎がセレンの横腹に角を刺した。

 しかも角が刺さったその瞬間に子虎が巨大化する。

 つまり、刺さった角も巨大化し、それがセレンの脇腹を裂いた。


「グハッ!」


 セレンが腹から口から血を吐き出す。


「貴様ら……」


 スウッ! ドゴーン!


 セレンが何とかブレスを撃った。

 巨大化したホーンタイガーに向けて。

 ブレスを撃ちこまれたホーンタイガーはその頭が吹き飛ばされ、その場に崩れ落ちた。

 しかし、もう一頭の小さいままのホーンタイガーはというと、そのサイズのままセレンのそばから離れ、そして、しゃがみこんだ。

 セレンが死んだら食べるつもりで。

 ほおっておいてもセレンは死ぬのだ。




「セレンはまだか?」


 貴博はシーナに聞く。


「ちょっと待ってください……!?」


 様子のおかしいシーナに貴博が焦ったように問いかける。


「シーナ、どうした?」

「セレンの反応が動きません!」

「な? セレンが倒れるわけないだろう?」

「ですが?」


 貴博は考える。どうしようかと。


 貴博はレティシアを見て、謝る。


「ごめん、後で鎮火する」

「え?」


 レティシアは、貴博が何を言ったかわからなかったが、次の瞬間に理解する。


「ファイアサイクロン!」


 馬車の周りに巨大な炎の竜巻が上がった。

 完全な森林破壊である。

 こうなることがわかっていたため、これまで炎魔法を使わなかったが、今は一大事。


「ラビ、マイマイ、行くよ!」


 貴博は、炎の壁を突き抜け、セレンの下へと走った。




 セレンは薄れゆく意識の中で、自分を食おうとしている小さいホーンタイガーを見る。

 そして、何とか、こいつだけでも、と、土に指を立てる。

 しかし、それ以上の力が入らない。


 ドラゴン形態になれていればこんなことにはならなかったのか。

 あのポーションを飲んだせいなのか。

 エルフのスタイルを望んだせいなのか。

 キザクラ商会のソフィローズに憧れたせいなのか。

 そもそも、転移陣の守りをさぼったせいなのか。


 ソフィローズの服は大きく破れ、血にまみれている。


 ああ、こんなところで終わるのか。

 ボッチだった自分を家族と呼んでくれる者達にようやく出会えたのに。

 これから家族との明るい暮らしが待っていそうだったのに。

 全部自分のせいか。


「セレンー!」


 ああ、貴博の声が聞こえる。

 最後に家族の声が聞こえた。よかった。

 それだけはよかった。

 これで……


 セレンが目を閉じる。




 貴博がセレンを抱きかかえる。


「た、か、ひ、ろ……」


 最後の力を使って、貴博の首に両手を回すセレン。


 自分の獲物をとられそうになり、巨大化してうなるホーンタイガー。

 しかし、その前にラビとマイマイが立ちふさがる。


「キュ」


 ラビが任せろと鳴く。マイマイもうなずく。


 貴博がセレンを抱きしめ返す。

 そして、


「メガヒーーール!」


 と、治癒魔法を唱えた。


 セレンを中心に魔法陣が広がる。

 魔法陣から光の柱が立ち上がり、はじけ、光の粒子がセレンに吸い込まれていく。

 セレンが、まばゆく光る。

 そして、セレンの裂けた腹がふさがっていく。


「セレン、ちょっと寝ていて」


 貴博はその場にセレンを寝かせる。

 だが、セレンの意識はもうなく、返事もない。


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