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自由が欲しいドラゴンさん(貴博と真央)

 カウンターに山積みになった素材と肉。


「えっと、確認しますね」


 そう言って素材と肉を査定していく受付嬢。


「ホーンボア、ベア、ボア、ベア……ホーンボアとホーンベアばかりですけど」


 あの子ら、張り合ってボアとベアばっかり獲ってくるから……

 ということはここでは言わない。


「ホーンラビットやホーンウルフはなるべく狩るなって言われていて……」


 貴博が言い訳をする。


「ということは、そこそこのランクだということです?」

「はい。パーティランクはプラチナです。たしか」

「冒険者カードを出していただいていいです?」


 貴博は預かってきたものまで全部の冒険者カードを受付嬢に渡す。


「プラチナ、プラチナ……シルバーが二枚。本当にプラチナランクパーティじゃないですか」


 受付嬢の叫びに、ギルドにいたエルフ冒険者たちが反応する。


「お姉さん、個人情報個人情報」

「はっ、すみません。つい、興奮してしまって」


 受付嬢は冷や汗を引いて何とか取り繕う。


「それでは、報酬を入れておきます。均等割りでいいですね」

「はい。お願いします……あっ、えっと、プラス一で計算して、その分を現金でもらえます?」

「冒険者登録をしていない人が一人いるってことですか?」

「う、うん。まずい?」

「冒険者ギルドは冒険者の組織です。次の依頼の前に、冒険者登録してくださいね。今回は大目に見ますから」

「ありがとう」

「それと、貼り紙の件ですが?」

「一年間貼り紙を貼らせてほしい。銀貨十枚だっけ?」

「はい。そうです」

「じゃあ、僕のカードから引き落としておいて」

「承知しました。紙とペンはいります?」

「あ、貸してください」


 貴博は紙とペンを受け取ると、日本語で千里達にあてたメッセージを書く。

 とはいっても、自分達も移動しているのだ。

 ここに来た日にちと向かう方向を書いておく。


「これ、貼っておいていい?」

「はい、どうぞ。ですが、その文字、暗号ですか?」

「そんなところ」


 そう言って、貴博は貼り紙を貼った。




「レティシア、後は何かある?」


 貴博のその何気ない呼びかけに、ギルド中がざわつく。

 それはそうだ。

 この国の騎士団長を呼び捨てにした。

 しかも人間が。


「いや、何もないぞ。すぐにでも出かけたいくらいだが?」

「ごめん。もうちょっと待って、セレンの冒険者登録をしなきゃだから」

「わかっている。取りあえず、キザクラ商会に戻ろう」




 キザクラ商会に戻ると、キザクラ商会内は意外にも落ち着いていた。

 というか、放課後木剣クラブのメンバーがいない。


「あの、うちのメンバーは?」

「はい。買い物も終わられ、貴賓室でお休みになられています。ご案内します」


 貴博とレティシアは店員に連れられて貴賓室に通された。


「あ、おかえりなさいなのです」


 真央が貴博を出迎える。


「えっと、どういう状況?」


 貴博がくるっと見回して確認する。

 貴賓室では、全員がテーブルにつき、お茶を飲んでまったりしていた。


「買い物が終わったのでまったりしているところなのです。馬車も冒険者カードもなかったので支払いもできてなくて、店を出るわけにもいかなくて」

「なるほど」

「それと、一つ問題が」


 クラリスが割って入る。


「ん?」


 貴博が首をかしげる。


「セレン」

「何?」


 クラリスが呼びかけると、セレンが立ち上がった。

 貴博はそのセレンの恰好を見て困惑する。


「セレン、それを買ったの?」

「そうだ。かっこいいだろう」


 貴博の問いかけにそう言って、くるっと回るセレン。

 セレンは、黒のジャケット、白のシャツ、下はロングのタイトスカート。

 いわゆるキザクラ商会衣装。


「えっと、これから魔獣討伐に行くんだけど?」


 貴博が確認する。これからの予定を覚えているかと。


「何かおかしいか?」

「えっと、汚れない?」


 おかしいと言いたい貴博。だが、質問を選ぶ。


「ウォッシャブルだと言っていたぞ?」

「それに、そのスカート……」

「大丈夫だ。ボタンでスリットが開くようになっている。もちろん、ペチパンツも買ってもらった。見えてもおかしくないように黒だ」


 まだ支払い終わっていないがな。

 貴博は、そう思う。


「そ、そう。セレンがいいならいいんじゃない?」


 もう、めんどくさい。


「でだ、問題と言うのは……」

「私にもその団服がほしい」


 クラリスの言葉を遮ってセレンがお願いしてくる。

 ちなみに、ラビとマイマイはマントをかけているが、妻達は団服だ。


「セレン、この団服なんだけど、これ、放課後木剣クラブの団服なんだ。ラビとマイマイは魔法少女の恰好をしているから団服じゃなくてマントなんだけど」

「放課後木剣クラブに入らないと着られないということか?」

「そゆこと。機密事項も多いんだ」

「入ればいいのだろう?」

「あのね、さっきエルフの女王になんて言われた? 転移陣を守るのがお役目じゃないの? さぼってるって思われているよ? 帰りなよ」

「いやだ。貴博も真央もキザクラ商会の関係者じゃないか。ということは二人について行けばソフィローズの関係者に会えるかもしれないだろう? もっと買ってもらえるかもしれないだろう?」

「だからってついてくるの? お役目は?」

「イレギュラーごとき大した問題じゃない。私がドラゴン形態に戻れれば、すぐに行ってちょちょいとやってくるから」

「今現在、そのイレギュラーのせいでエルフの人達が困ってるんじゃん」

「だからこれから討伐に行くのだろう」

「セレンがちゃんと見ていてくれてたらこんなことにはなってないし。そもそも僕ら関係なくない?」

「ドラゴンにも自由を! ドラゴンにだって好きなものはある! ドラゴンにだってやりたいことがある! ドラゴンにも自由を!」

「……」


 貴博は、すっと貴賓室を出て、店員を呼ぶ。

 これ以上セレンと言いあっても、時間の無駄だろう。

 とにもかくにもめんどくさい。


「店員さん。セレンに団服を。何日かかる?」

「三日ほどで出来上がるかと思いますが」

「じゃあ、用事を済ませてくるから、帰りに寄るね」

「承知いたしました」

「貴博ー」


 団服を注文してくれたことに感謝してか、セレンが貴博の腰に抱き着く。


「ちょっと、何してんのよ」


 ミーゼルがセレンを引きはがそうとセレンの腰に抱きついて引っ張る。

 ルイーズが、リルが、シーナが引っ張る。しかし、セレンは動かない。


「あはははは」


 その様子を見て、真央が笑う。

 大きな株を引っこ抜くようだと。


「ま、真央ー」


 ミーゼルが笑って見ているだけの真央に苦言を呈する。


「だって、ちょっと面白かったのです」


 真央が笑ってしまった。

 これ以上抵抗しても無駄だろう。

 ミーゼルはあきらめる。


「はぁ、まあいいわ。ドラゴンさん、よろしくね」


 ミーゼルがセレンを迎え入れる。


「セレンと呼べと」

「はいはい、セレン。だけど、覚えておいてね。貴博は私達の夫だから」

「……」


 セレンは思う。

 何でこの冒険者パーティは、ドラゴンに臆することがないのかと。

 その答えを真央がいう。


「ようこそ、我が家族へ」


 そうか、家族か。

 家族に入れてもらえたのか。

 私に家族が出来たのか。

 ボッチだったセレンは褐色のほほをわからない程度に赤く染めた。


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