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さぼりドラゴンさんのつけ(貴博と真央)

「大丈夫。ちゃんとソフィローズを一着買ってあげるから」


 貴博が報酬の約束を守ると、セレンに念を押すが、セレンの想いはそうとは違う。置いて行かれるかどうかだ。


「いや、そういう問題じゃなくて」


 セレンがそれを伝えようとするが、レミールが報酬について口を挟む。


「そう言うことなら、私もソフィローズを買ってやってもいいぞ?」

「ご依頼とは何でしょうか」


 セレンが改まって聞く。

 ソフィローズに釣られたセレン。

 報酬について、そういうことだった。


「僕ら、行ってもいい?」

「待っていてください。聞くだけ、聞くだけですから」


 セレンが二兎を追うべく、貴博達を引き留める。


「……まあよい。聞いてほしい」


 レミールは話し始める。


「お前達、魔物がどうやってこの世界に現れているかは知っているか?」

「転移陣ですよね」

「その転移陣を監視しているのが誰かと言うのは?」


 貴博達はみんなでセレンを見る。


「その誰かが何を目的として監視しているかは知っているか?」

「えっと。それは? 転移陣を守るとかじゃなくて?」

「イレギュラーと呼ばれる危険な魔獣が転移陣を通ってこの世界にやってくることがある。それの対処だ」


 セレンが視線を外し始める。


「この大陸の転移陣を守っているのがとある黒色のドラゴンなのだが、そのドラゴン、時々さぼるんだ」


 貴博達がセレンにジト目を送る。

 セレンは窓の外を眺め始める。


「それで、転移陣から出てきたイレギュラー、つまり、凶悪な魔獣が野に放たれることがある」

「えっと、端的に言うと、その凶悪な魔獣を退治してこいと?」


 貴博が依頼の確認を取る。


「ああ。そういうことだ」

「お断りします」


 貴博は、速攻で断りを入れる。

 そのイレギュラーと考えられる魔獣、魔物を二人知っているからだ。

 ラビとマイマイだ。


「私が頼んでいるのはセレンだ」

「それじゃ、僕らはこれで」

「ちょっと待ってって」


 セレンが慌てる。


「退治して欲しい魔獣はホーンタイガーだ」


 転移陣から出てきた危険な魔獣、それはホーンタイガーだった。


「え? ホーンタイガー?」

「ああ。決してホーンラビットでもホーントータスでもない」


 レミールは、ラビとマイマイを見ながらそう言う。


「それって、さぼりのドラゴンさんの尻をぬぐえって言っているんですよね」


 対象がラビとマイマイではないことがわかり、貴博は話を依頼内容に戻す。


「まあ、そうともいう。私としては、セレン一人にやってきてもらってもいいんだが」

「そうだね。そうしてもらっていいかな」

「お願いします。一緒に行ってください」


 セレンが下手にでて貴博に懇願する。言葉遣いも丁寧だ。


「どうして? セレンなら一人でもできそうじゃない?」

「だって、その間にどこかへ行っちゃいますよね」

「まあ、待っている理由もないからね。ちゃんとソフィローズは買ってあげるから」

「もちろん買ってもらいますけど、そうですけど、何で私が貴博達について来ているかわかっていますよね」

「ご飯のためだよね。この国で雇ってもらえばいいじゃん。僕、街を移動するたびにソフィローズを買っていたら破産しそうなんだけど」

「ち、が、い、ます。ご飯もだけど。ドラゴン形態に戻れなくなっちゃったからです。治るまでは面倒見てください」

「理想のスタイルになれたからいいじゃん」

「それはそれで置いておいて」


 その貴博とセレンの会話を聞いて、レミールが慌てて話を遮る。


「おい、ドラゴン形態になれなくなったとか、理想のスタイルになったというのはなんだ?」

「いろいろ言えないこともあるけど、うちの創薬師が作ったポーションを飲んだらセレンが理想のスタイルになった。ついでにドラゴン形態に戻れなくなったけど」

「それは、特別なポーションなのか?」


 これにはリルが答える。


「水玉赤キノコを特別に配合しています」

「水玉赤キノコ? それを配合? 飲んだのか?」

「え? 毒?」


 セレンが顔を青くする。


「いや、普通に食ってうまいけどな。飲むという発想はなかった」

「……」

「体に変化は?」


 貴博がレミールに聞く。


「ないぞ? なんでそんなことを?」

「セレンはポーションを飲んだ時に理想のスタイルを望んだ。その結果がこれ。理想のスタイルを手に入れた一方でドラゴン形態になれなくなった」

「と言うことは、そのポーションを飲んでスタイルが変わったものが他にもいた、と言うことだな」


 レミールはラビとマイマイに視線を送る。


「……」

「まあ、深くは追求せん。そういう意味では、我々エルフはもともと理想のスタイルだからな、水玉赤キノコにそのような効果があったとしても、我らには効かないだろうよ。それに、その回復薬との組み合わせによるのかもしれないしな。おそらく、そっちだろう」


 真央達は思う。

 私達はリルのポーションを飲んでも体に変化はなかった。

 と言うことは、自分が好きだったんだと。

 それはそれで嬉しい。

 でも今度飲むときは、胸のことを考えてみよう。

 と。

 だが、実際には、真央は、前世で貴博に愛されたこのスタイルを気に入っている。そう願って魔力ぐるぐるをした。


「だが、そのことは内密にしておけ。悪しき心を持ったものが強い体を望み、それがかなった時、何が起こるか想像がつく」

「なるほど。よい方向に効くというわけではない、と言うことですね」

「そういうことだ。そのキノコ配合ポーションはよっぽどのことがない限り、世に出さないことをお勧めする」


 リルがうなずく。


「ところで話を元に戻すが、依頼をしたいが、セレンはドラゴン形態になれないと」

「……」


 セレンが無言をもって肯定する。


「その魔獣がいるところまで歩いて行くとなると、片道で三日はかかる。セレン、頼めるか?」

「嫌です。飢え死にします」

「と言うことだ、貴博、付き合ってやってくれんか」

「僕らにメリットがあるとは」

「エルフと人間族との関係改善につながるかもしれんぞ」

「なんか急に大きな話に……」

「もし、エルフ、獣人、ドワーフの連合軍と人間の国、アンブローシア帝国が争いになったらどうなると思う? 弱い魔物しか相手にしていない人間族が、我々にかなうとでも?」


 クラリス達、皇女と令嬢は冷や汗を流す。

 強い魔物を普段から相手にしているかどうかは置いておいて、その三種族は強い。それは事実かも知れない。


「戦争なんてしないでしょ。そんな脅しは効かないよ。でも、弱い魔物しか相手にしていない、って言うのは気になる。どういうこと?」


 貴博が確認をする。人間族でもホーンベアくらいまでなら対処することはよくある。


「言っただろう。イレギュラーがいると。イレギュラーは普段バラバラに行動する魔物を統率し、獲物を狩らせている。獲物って言うのは野生の動物な。ちなみに、エルフや人間を含む人族も野生動物に入る」


 貴博達は心当たりがある。アンブローシアの前線でホーンラビットが集まって行動していた。ラビというイレギュラーがいたことにより、ホーンラビットは団結するのだ。


「人間達はそんな統率の取れた魔物、魔獣を相手にしたことは無かろう。そういう魔物は手ごわいぞ。我々とも野生動物は取り合うし、魔物も集団で我らを襲ってくる。よって、そういう状況になっている今、食糧事情も魔物からの防衛も今後厳しくなっていくことが予想される。なるべく早くイレギュラーをなんとかして欲しいんだが。それに関係改善につながれば一石二鳥だろう?」

「エルフにも厳しいものを僕らにと?」

「そこのさぼりドラゴンさんのつけだ。そのドラゴンさんはお前達の仲間なんだろ?」


 貴博はずるいと思う。そう言われたら首を横に振れない。


「わかったのです。行くのです」


 というわけで、こういう時は決断の速い我らがリーダー、真央が快諾する。


「さすが、リーダーだな」


 レミールが真央を褒める。持ち上げておけばうまくいきそうだと。


「えへ」


 照れる真央を見て、かわいい、貴博はそう思う。


「だが、どこにいるのかわかっているのか?」


 鼻の下を伸ばしている貴博をよそに、クラリスが聞く。


「娘を道案内につける。レティシア!」


 レミールがそう声をかけると、一人の騎士が部屋に入って来た。

 レミールと瓜二つだ。


「レティシア、この者たちの道案内を頼む」

「かしこまりました。母上」

「女王と呼べと」

「女王陛下」


 レティシアは言い直す。


「そのイレギュラーとやらの前に、キザクラ商会に案内して欲しい」


 セレンがポツリとつぶやく。クラリスもそれに乗っかる。


「キザクラ商会でペチパンツを買わせてくれ」

「……レティシア、連れて行ってやれ」

「は。陛下」



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