エルフの国にも入れてもらえない放課後木剣クラブ(貴博と真央)
「センセ、ご飯食べるのです」
戻って来た貴博を真央が食事に誘う。
しかし、貴博はいなくなった護衛、セレンが気になる。」
「あれ、セレンは?」
「さっき飛び出して行ったっきり、帰って来ないの」
ミーゼルが答える。
「そうなんだ。まぁ、腐ってもドラゴン、死にはしないだろう」
「誰が腐っても?」
ガサガサ!
と、森から出てくるセレン。
「あ、セレンおかえり。ほら、報酬のお昼ご飯が出来ているよ」
「あ、もらおう。だが、これを先に」
ズドン!
セレンがホーンベアをほおり投げた。
ふふん、と、得意顔のセレン。
しかし、
「あー、ちょっと待って、血抜きしてないじゃん。急がなきゃ」
というミーゼルからのクレーム。
「セレン、ちょっとあの木につるしてー」
「……血抜き? なんかごめん」
セレンは、ミーゼルと一緒にホーンベアをつるして、血抜きを行った。
とりあえず、血抜き作業を終えて、お昼の鍋を受けとるセレン。
「ホーンボア、うまいな」
「でしょ。ちゃんと血抜きをして処理をしたボアはおいしいんだよ」
ミーゼルが下処理の重要性を説く。
「と言うか、ちゃんと調理をされている食事はおいしい」
そう言って、セレンは肉をほおばる。
「普段どういう食事をしてたの」
疑問に思ったことを聞くミーゼル。
「まあ、ブレスでこんがりとだな」
「……」
「街のキザクラ商会に行くときは、店に入ったりもしたぞ? ちゃんと一人で店に入れるからな?」
そんなことを自慢しながら鍋を食べるセレン。
一人で飲食店に入るのが苦手な貴博は、ちょっと負けたと思う。
「あれ、このキノコ」
セレンがキノコをフォークで刺して見つめる。
「気づいた? おいしいよね、そのキノコ」
リルが得意げに話す。
「これ、毒とか?」
「ないわよ」
リルが表情を変える。
「だけど……」
「何言っているの。セレンはもう二本も飲んでいるじゃない」
「……もしかして、回復薬?」
「そうよ。よく効いたでしょ?」
「いや、怪我してないから。むしろ、ドラゴン形態になれなくなったから」
「だけど、理想のスタイルにはなったじゃない」
「ま、そうだがな……このキノコのせい?」
怪訝そうにキノコを見るセレン。
「このキノコを回復薬にいれるのはリルのオリジナルだけど、回復薬としては本当によく効くよ。セレンに折られたクラリスの腕も僕も、見ての通りでしょ」
クラリスに大鎌を刺されたマイマイのことはここでは言わない。
もしかしたら、誰がやったのかマイマイは気づいていないかもしれない。
「そ、そうか。いただこう」
そう言って口にキノコを入れるセレン。
「う、うまいな」
「そうでしょ」
リルは得意げだ。
「だけどリル、どうしてこのキノコ、普段食べられてないの? 結構見つかるよね」
「さあ。なんでかな。創薬の本には載っているんだけどね」
今度、料理の本かキノコの本でも見てみよう。
そう思う貴博だった。
「ほらセレン、こっちの焼いた肉も食べていいよ」
ミーゼルが焼いた肉を差し出す。
「うん。ありがとう。肉、食べ放題だな」
「ラビとマイマイが頑張ってくれたからね。それに、晩御飯はセレンのベアをいただこうか」
貴博が晩御飯のメニューを提案する。
「ん」
セレンはちょっとだけ嬉しそうな表情を浮かべた。」
こうして、数日の間、森の中を進む。
ボア時々ベア、いつもキノコ、そういう食事をしながら。
そうして、ようやく森を抜ける。
しかし、そこに見えるのはやっぱり城壁。
その城壁が山脈まで続いている。
「なんだか、エルフの国ってイメージと違うんだけど」
御者台の貴博がそう感想を漏らす。
それに真央が同意する。
「そうなのです。エルフって、森の中に住んでいるってイメージなのですけど」
これにはセレンが答える。
「まあ、エルフにも色々いるってことじゃないのか?」
「そうなのかもしれないけどね。ドワーフの国を見てこられなかったけど、あの城壁の中、どうなっているのか見てみたいな」
「アンブローシアみたいな街なのかも知れないのです」
「なあ、行こう。早く行こう。きっとキザクラ商会があるぞ」
セレンが貴博をせかしてくる。
「そうだね。行ってみよう」
馬車を城門まで進める。
しかし、予想通り。
「お前達は人間族だろう。この国に入れるわけにはいかない。帰れ」
エルフの門兵が貴博達を追い返そうとする。
「えっと、確認だけど、大昔、人間が攻め込んできたってことで?」
「その通りだ。だからお前達は絶対に入れん」
城壁の上に並ぶ弓矢を持ったエルフの兵士達。
ドワーフの国はスルーしてきてしまったが、正直、寄って来たかった。
食料事情、香辛料とかの調味料だったりお茶の葉だったり、いろいろと買い足したいものもある。
それに、たまにはベッドでゆっくり寝たい。
「うーん」
貴博が悩む。
「どうでもいいだろう。目の前にキザクラ商会があるかもしれないんだ。ここは行くしかない。そう言うわけで」
と言って、セレンは息を大きく吸い込む。
「あ、ちょっと待って」
貴博は御者台から飛び降りてセレンの横まで行くと、くいっと、セレンの顔を空に向けた。
ドッゴーーーーン!
「な!」
城壁から大きな声が上がる。
「貴博、何をするんだ」
セレンが、顎をくいっ、っとやられたことに苦情を言う。
「いや、セレン、何しようとした?」
「城壁なんて壊してしまえばいいだろう? そしたら、我らの前に阻むものなど何もない!」
「いやいやいや、また人類がエルフの国に攻め込んだみたいになっちゃうから」
「私はドラゴン族だ。そんなことに興味はない。あるのはただ、ソフィローズだ」
再び城門から声がかかる。
「宣戦布告と取っていいか!?」
「いやいやいや、えっと、あの」
貴博はどうしていいかわからない。
城壁の上に弓を持ったエルフがさらに増えたどころか、城門からエルフの剣士がぞろぞろと出てくる。
「あのですね、この子、人間族じゃないです。ドラゴン族です。この子だけでも、キザクラ商会へ行かせてあげてもらえませんか?」
貴博が何とかセレンの望みだけでもかなえようかと、交渉を試みる。
しかし、これにはセレンが異を唱える。
「ちょっと待て、貴博が一緒に行ってくれなかったら誰がお金を払ってくれるんだ?」
「次の国、つまりエルフの国に到達するまで護衛するのがセレンとの契約。僕ら、入れないから契約未達成と言うことで?」
「それはダメだ。無理やりにでも入ろう」
そう言ってセレンはエルフ達に向き合う。
それに続いてラビとマイマイも前に出る。
「えっと、どうしようか?」
貴博が真央達に問いかける。
「またスルーするのです?」
「センセ、塩と胡椒が欲しいよう」
「ラビとマイマイのペチパンツを買ってやれと」
そう希望を並べるミーゼルとクラリス。
「ラビ、マイマイ、もしかして、ペチパンツのために?」
貴博がエルフ達に対峙しているラビとマイマイに聞くと、二人はこくんとうなずいた。
「いや、平和的に入らないと意味ないだろうに……」
貴博がそう呟いた瞬間、シーナが声を上げる。
「センセ! 後ろから別の部隊が来ます。その数、千!」




