「ふふん」と「んもう」(貴博と真央)
「うーん、どれにしようかな」
シーナが探査魔法を広げつつ、どの獲物を狙うのか悩む。
そんなシーナにクラリスが尋ねる。
「何を悩んでいるんだ?」
「多分ボアなんですけど、いくつかいて」
「一番近いのでいいんじゃないか?」
「なら、二時の方向、ボアで……え?」
バシュン!
ラビが飛び出した。
シーナが指で示した方向とは違う方へ。
マイマイは、シーナの顔を伺う。
「えっと、二時の方向……」
バシュン!
マイマイがシーナの指示した方向へ飛び出した。
「えっと、どうしましょうか」
シーナがクラリスに相談する。
ラビとマイマイが二人を置いて飛び出してしまった。
「うん。どうする?」
「私、マイマイを追いかけますので、クラリスはラビを」
「わかった」
二人はそれぞれを追いかける。
ラビは自分で探知したホーンボアを視野に入れると、大きく飛び上がった。
しかもホーンボアの索敵範囲外から。
ボアは気づかない。上空から降ってくるラビに。
ボアは気づかない。落下中も未だ気配を消しているラビに。
ドゴン!
ラビはホーンボアの脳天に薙刀の柄を叩き込んだ。
ズドン!
ホーンボアが倒れる。
おそらく、ホーンボアは殴られるまでラビに気づかなかったことだろう。
「おーい、ラビ!」
「キュ!」
クラリスが柄を地面に突き立ててホーンボアを見ているラビを見つけて声をかける。
ラビは、得意げに倒れているボアを指さす。
「ラビ、すごいな。ホーンボアを倒してくれてありがとう」
「キュ!」
ラビは得意げだ。
「さ、のどを切って血抜きをして持って帰ろう」
マイマイはホーンボアを見つけると、その前に堂々と立つ。
そして、柄を地面にたたきつけて、自分の存在をアピールする。
ほら、かかってこい!
と。
ホーンボアはマイマイの存在に気づく。
が、ホーンボアは「ピギー!」と鳴いて、逃げて行った。
「……」
マイマイが立ち尽くす。
そこへ追いついてきたシーナ。
「マイマイ、ホーンボアどうだった?」
マイマイは、がっくりとうなだれてホーンボアが逃げて行った方向を指さした。
「そっか。逃げちゃったか。仕方ないよ。マイマイ、存在感が大きいもん」
殺気がとは言わない。
「マイマイはカウンター狙いなのかもしれないけど、魔物相手には積極的に撃って出た方がいいのかもね」
シーナはマイマイにアドバイスをし、もう一度探査する。
「マイマイ。私が後ろから追いやるから、後はお願い」
そう言って、シーナはマイマイの下から離れた。
マイマイがその場でしばらく待っていると、
ドドドドド……
と、ホーンボアの走る音。
ホーンボアを確認したマイマイは、ホーンボアに向かって走り出す。
そして、すれ違いざまにホーンボアの顎を下から殴り上げた。
ガコン!
顎を下から殴られたホーンボアは、その場で一回転すると、
ズササササー
と、倒れたまま地面をすべって止まった。
後ろからやってくるシーナ。
「マイマイやった?」
と聞くと、マイマイは、嬉しそうにうなずいた。
転がっているホーンボアを見て、シーナが褒める。
「マイマイすごいね。一撃?」
マイマイは嬉しそうにうなずく。
「それじゃ、血抜きをして持って帰ろうか」
途中でクラリスとラビに合流する。
「ラビも仕留めたんだね、すごいすごい」
「キュ」
シーナに褒められて嬉しそうに返事をするラビ。
「マイマイも仕留めたんだよ」
と、シーナとマイマイが柄にぶら下げて担いでいるホーンボアを見せる。
「マイマイもすごいな」
クラリスもマイマイを褒める。
「だが、私の存在意義が……」
と、クラリス。
「いいじゃないですか。クラリスの存在意義は、私もだけど獲物を獲ってくることだけじゃないですよ。もちろん、ラビとマイマイもですけど」
と、シーナ。
「そうだな。戻ろう」
クラリスは気を良くして足を馬車に向けた。
「おー、大量だね」
ミーゼルがクラリスとシーナに声をかける。
「うん。二人が張り切ってくれたの」
と、シーナが報告する。
「それじゃ、頑張りついでにみんなでさばこうか」
ルイーズがナイフを取り出す。
「セレンもホーンボア食べるでしょ?」
「あ、ああ」
「じゃあ、働かある者食うべからずね。手伝って」
「う、うむ」
そう言って手伝おうとするセレンに、ラビとマイマイが顎を上げ、「ふふん」という得意げな視線を送った。
「……」
セレンがそれに気づいて立ち止まる。
「いいだろう。ちょっと行ってくる」
それに気づいたミーゼル。
「ちょっと待ってセレン。そんなにお肉いらないから。充分間に合っているから」
しかし、もうそこにはセレンはいない。
「あーあ、行っちゃった」
がっくりするミーゼルに、ルイーズもつぶやく。
「これ以上のお肉、センセに凍らせてもらわないと。それに、何も持って行かなかったけど、どうやって持ってくるのかしら」
「まあいいのです。さばいて調理してしまうのです」
真央がミーゼルとルイーズをなだめ、ホーンボアの解体を再開した。
「真央はこのお肉を鍋に入れて煮込んでおいて」
「はいなのです」
「それと、こっちは焼いておいてね」
「はいなのです」
真央達が肉を煮ながら焼きながら待っていると、
「ただいまー」
と、貴博達が戻ってくる。
「取れたのです?」
「うん。そこそこ。鍋に入れちゃっていい?」
「はい。今、ボアを煮ているところなので、いいですよ」
「リル、お願いね」
「はい」
リルは、野草やキノコを鍋に入れていく。
「リル、そのキノコ……」
かごの中にあるキノコが気になる真央。
「この地域にもありました」
鍋にほおり込まれる白い水玉の赤いキノコ。
「……」
不安げに鍋を混ぜる真央。
「センセー、お肉を凍らせてほしいのと、ごみを燃やす穴を掘って欲しいー」
ルイーズが貴博にお願いをする。
「今やるね」
貴博は解体された肉を見て言う。
「ずいぶんあるね」
「ラビとマイマイが獲ってくれたんですよ」
シーナが説明をする。
ラビとマイマイは得意げだ。
「すごいね、ラビ、マイマイ、ありがとう」
「キュ」
ラビとマイマイは貴博に褒められて嬉しそうだ。
「貴博、ちょっと相談があるんだが」
クラリスが近づいて来て貴博に声をかける。
「なに?」
「こんなところで、しかも貴博にする相談ではないかもしれないが」
「うん?」
「ラビにペチパンツを」
「は?」
疑問に思う貴博にクラリスが説明を加える。
「いやな、ラビは魔法使いスタイルでスカートがミニだろ? 魔法使いは飛び上がらないかと思っていたが、ラビは飛ぶんだ。するとな、下から丸見えなんだ」
「あ、それならマイマイにもお願いします。マイマイ、すごい勢いで突進するから、スカートめくれるんですよ」
シーナもクラリスに乗っかる。
「そうゆうの、引率のクラリス先生に任せますよ」
「な、そう言う時だけ先生か? 今や私は身も心も十六だぞ! 乙女だぞ!」
「申し訳ないんだけど、女性のことは女性でやって欲しいです、先生」
「わかったからその先生呼びはやめろ。今やシーナと同級生のお前の妻だ」
クラリスはシーナの肩を引き寄せ、顔を並べ口をとがらせる。
「ごめんごめんクラリス。そんな顔をしなくても、クラリスはかわいい。それじゃ、お願いね」
「「んもう」」
顔を赤らめるクラリスに対し、口をとがらせるシーナ。
「シーナもありがとう」
と言って、貴博はシーナの頭をポンポンした。
「んもう」
シーナは照れを隠すようにうつむいた。




