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しらんがな!(貴博と真央)

「そのポーション、変なものは入っていないのか?」

「失礼ですね。入っていません……赤い傘に白い斑点のキノコは入れていいのかと、メンバーには聞かれましたが」


 創薬についてはメルシー譲りの技術で少し自信のあるリル。

 疑われてドラゴン相手にほほを膨らませる。


「……」

「そのポーションをラビとマイマイにかけて、二人が人の姿になった後、二人は魔物の姿になっていません」


 そうリルに力説され、ブラックドラゴンはラビとマイマイに命じる。


「お前達、魔物の姿に戻ってみろ」


 ラビとマイマイが視線を合わせて首を傾ける。


「おい、魔物に戻れないのか?」


 ラビとマイマイは、なにやら踏ん張ったり、こぶしに力を入れたりといろいろと試したものの、魔物の姿に戻れなかった。


「な、何が起こって……」


 そう呟いて固まっているブラックドラゴンに何とか答える貴博。


「おそらく、リルが作ったポーションにより、遺伝子が改変された。もしくは、遺伝子の改変や修飾が促進された」

「お前は、何を言っている?」

「リルの薬を使った時に、ラビもマイマイも人の姿になりたいと願った。その意思に従って、体を形作る遺伝子に変化が起き、この姿になった。そう言うことだろう」

「そんなことが起こるのか?」


 ブラックドラゴンは驚愕しっぱなしである。


「起こる。だけど、一番顕著におこるのは人間族で言う一歳まで」

「まさか、その変化が起きやすくなる薬?」

「回復薬だと言っている」


 貴博が修正する。この薬はあくまでも回復薬だ。


「単なる回復薬にそんな効果があるわけないだろう」


 ブラックドラゴンはラビとマイマイを見る。


「お前達はその姿を強く願ったのか?」

「キュ」


 とラビが鳴いて、二人とも頷いた。


「そうか」


 ブラックドラゴンはリルに向かって命じる。


「回復薬を一本よこせ!」

「……はい。ですが、センセを、貴博さんを離してください」

「ん? こいつか?」

「まあいいだろう。いつでも捕まえられるしな」


 そう言ってブラックドラゴンは貴博を開放した。

 貴博はその場で崩れ落ちる。


「これがその回復薬です。センセにもかけていいですか?」


 リルはブラックドラゴンに一本のポーションを渡す。


「ふん。いいぞ」


 そう言ってブラックドラゴンは回復薬を一気に飲み干す。

 リルも貴博の頭から回復薬をかけた。


 ボフッ!


 回復薬を取り込んだブラックドラゴンの体が怪しげな音を発する。


「おい、回復薬を飲んで何でこんな音がするんだ?」


 ブラックドラゴンは疑問を呈する。

 しかし、目の前には、すっかり怪我もなくなった貴博がいて、その変化が気になる。

 自分も何かが変わっただろうか。


 ブラックドラゴンは疑問に思ったことをリルに聞く。


「何か変わったか?」

「……」


 リルの前で、腰に手を当てたブラックドラゴンが体を左右に揺らす。


 リルは首をかしげる。

 先と変わらない、褐色の肌の人型のドラゴンがそこにいる。


「ラビの時は、音がして人型に変化した。マイマイの時はその場では傷がふさがっただけだったが、次に会った時は人型だった。人によって時間差があるのかもしれない。ちなみに僕は音もしなければ変わってもいない。それを望んでもいない」


 何とか回復した貴博が、持論をブラックドラゴンに伝える。


「変わりたいと願った時に変わるということか? それに、お前も変わっているぞ。傷を治すってことは怪我をしている今の自分から元の自分に変わりたい、という意思だと考えられる。治癒というのは過去の自分に戻すのではなく、元の体に変化させる、と言うことなのかもしれんな。その回復薬を使った魔物の変化はそれと似たようなものか。いや、それ以上の変化をもたらしているな」


 そう言って、ブラックドラゴンは自分の顔を触り、体を触って変化の有無を確認していく。


「……」


 ブラックドラゴンが何かを考えているかのように両手を両の胸にあてて固まる。


 その様子を見ている貴博達。

 何か変化が起こったのだろうか。

 どこかが変わったのだろうか。

 それともこれから変化が起こるのだろうか。


 突如、ブラックドラゴンが声を上げる。


「胸が小さくなっている!」

「「「「「しらんがな!」」」」」


 クラリス以下、妻たちの叫びのようなつっこみ。


「センセはじろじろ見ちゃだめです」


 真央は貴博に注意する。

 とはいえ、変わったと言われれば、何が変わったか確認したくなる。

 それが元研究者だ。

 だが、変わる前の胸の大きさなんて覚えていない。見てもいない。いや、記憶にない。

 それが事実であって言い訳する必要がなくても、そう主張させてもらう。


「あのー」


 真央が恐る恐るブラックドラゴンに声をかける。


「胸を小さくしたかったんです?」

「そうだ」

「なんで……」

「人間の街にキザクラ商会と言う店があるだろう。あそこに勤めている店員の服に憧れていてな、何度か試着させてもらっていたんだ。だが、胸がきつくていつも断念していた。これで、着られるようになるかもしれない」


 ブラックドラゴンは胸を押さえながらほほを染める。


「それは、エルフの服を着たいってことなのですか?」

「そうだ、あのスタイリッシュな服、エルフ専用の服が売っているだろう。あれらを着たかったのだ。まあ、お前はそのままでも着られるだろうがな」


 ビシッ!


「大きなお世話なのです」


 真央がブラックドラゴンに手の甲で突っ込みを入れた。


「「「「……」」」」


 真央、すごい。誰もがそう思った。


「それは毎度さま」


 その一方で、貴博が余計なことを言ってしまう。


「毎度?」


 ブラックドラゴンがその一言を聞き逃さずに反応する。

 一瞬しまった、と、貴博は思ったが、真央が答えてしまう。


「キザクラ商会の会長が私とセンセのパパなのです」


 それを聞いたブラックドラゴンは両手をほほにあて、口をあけて驚愕の表情を浮かべ、そのまま固まる。


「ほら見てください」


 と、真央は団服の裏にあるタグを見せる。

 そのタグには「ソフィローズ」と書かれている。


 貴博は今更だがちょっとだけ疑問に思う。

 なぜ団服までソフィローズ? と。


 視線だけでそれを確認したブラックドラゴンは、未だ地面にすわってやれやれとしている貴博の前に両膝をつき、貴博の両肩に手を置いて、そして貴博をこう呼んだ。


「センセ様!」

「「「「「……」」」」」


 すると、貴博の肩に置かれたブラックドラゴンの手をペシペシする怖いもの知らずがもう二人。


「気安いです」

「離してください。会長の御子息です」


 サンタフェとカンタフェだ。


「よ、妖精?」

「そうです。今は貴博様と真央様にお仕えしていますが」

「その前はキザクラ商会会長グレイス様にお仕えしていました」

「な、そ、その小さな服ももしかしてソフィローズ?」

「もちろんです」

「レオタードからパンツまでソフィローズです」

「……」


 ブラックドラゴンはふと立ち上がり、そして貴博に言う。


「センセ様、私達は友達だ。今日からだがな。そう言うことで、これからキザクラ商会へ行ってくる。ありがたく名前を使わせてもらうぞ」


 そう言って、ブラックドラゴンは貴博達から離れていった。


 やれやれ、ようやく災難が去った。

 そう安堵しつつ、貴博達はブラックドラゴンの背中を見送った。


 ブラックドラゴンは、右手を空に向け、左こぶしを腰に当ててジャンプして飛び上がる。

 落ちる。

 飛び上がる。

 落ちる。


 そもそも、ドラゴン形態になれていない。

 よって、飛べるわけもなく。


 ブラックドラゴンは、ひたすらジャンプを繰り返す。


「……」

「「「「「「……」」」」」」


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