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野良の理由(優香と恵理子)

「さあ、決勝戦です。方やシルバーランクの冒険者、方や冒険者のトップ。下剋上があるのか? 皆さん、観戦の準備はいいですか? 賭け終わりましたか? 始めますよ。それでは、決勝戦を始めます。対戦するのは、国内最強と言われたユリア・ランダース騎士団長を破ったジャイアントキリング、タカヒロー! 迎え撃つのは、冒険者最強ランク、プラチナAのギルドマスター、ブレイク・オースティン!」


 観客が皆、かたずをのんで見守る。


「それでは始めます。両者よろしいですね。決勝戦! 始め!」




 ブレイクは初めから突進し、重い攻撃を間髪入れずに撃ちこんで来る。槍の回転を生かしながら、右から左から、上から下から。

 優香はそれを同じく槍でたたき返していく。

 そして、ブレイクがリーシャを倒した時のように、優香に対して下からたたき上げ、さらに、上から強烈な槍をたたきつけた。

 それを優香はなんとか槍で防ぐ。


「やるじゃないか。さっきの嬢ちゃんは、これで倒れたんだがな」

「まあ、初見じゃありませんし。じゃあ、今度は僕から」


 優香は、ブレイク同様に槍に回転を加えて襲い掛かる。それを同じように槍で防ぐブレイク。だが、突然ベクトルが円から線に変わる。突きがブレイクの右肩に刺さる。左ももにも。たたらを踏むブレイクに、優香は無遠慮に胸の真ん中に槍の柄を突きつけた。

 ブレイクは吹っ飛ぶ。


「ぐはっ」


 ブレイクは呼吸困難に陥る。そこへ優香が槍の刃を突きつけた。


「勝者、タカヒロ!」


 優香は、ブレイクのところまで行き、手を差し伸べる。

 その手をブレイクが握り、タカヒロによってブレイクが起こされる。


「お前、最後まで本気じゃなかったってことか?」

「自分の実力が知りたいんですよ。これまでずっとぼこぼこにされてきましたから」

「な、だ、誰に?」

「師匠達にです」

「そうか。今度ギルドに来い。ランクを上げてやる」

「低ランクの方が楽しくないですか?」

「バカいえ、強いやつを遊ばせておくほど暇じゃないんだよ。いいな」


 それだけ言って、ブレイクはステージを下りて行った。




「皆さま、賭けの結果はいかがだったでしょうか。さて、それでは表彰式です。国王様どうぞ」

「うむ。タカヒロとやら、楽しかったぞ。余は満足だ。褒美をとらす、そのリストの中から一つ選ぶがいい」


 横にいたお付きが優香にリストを渡す。

 だが、もらうものはもう決まっている。

 リストをパラパラとめくり、それがあることを確認する。


「それでは、暁の秘石を」

「わかった。宰相。それを届けるように」

「わかりました」


 宰相はわからない程度に顔をしかめる。まさか、魔族の関係者か……と。

 宰相は、優香に伝える。


「明日の昼までに冒険者ギルドに届ける。受け取るように」

「はい。ありがとうございます」




「さあ観客席の皆さま、今年の武闘会はどうだったでしょうか。楽しんでもらえましたでしょうか。タカヒロはいったい何を望んだのか? それは教えられません。それではみなさん、また来年!」




「すごい! すごいです、タカヒロ様! かっこよすぎます!」


 観客席のパーティメンバー達は大興奮だ。しかも、準決勝のリーシャで負けたが、後は、ほぼ大勝だ。賭けの方だが。


「今日は、帰ってパーティです!」

「「「おー」」」


「さあ、みんなで帰りましょう」


 恵理子が声をかける。


「いてててて」

「リーシャ、完全に治すのは帰ってからね。ごめんね。今はできないの」

「大丈夫、骨をくっつけてもらえただけでも助かる」




 その日の夜、恵理子はリーシャにメガヒールをかけ寝てしまう。


「なあ、タカヒロ、優勝の商品として何を望んだんだ?」

「ん? 暁の秘石だけど?」

「な?」

「明日の昼、冒険者ギルドに届けられるそうだから、取りに行ってくるよ」

「タカヒロ、ということは、私がタカヒロを倒したら、それを手に入れられるということか?」

「そんなことしなくても、あげるよ。僕には必要ない」


 武闘会の前日、リーシャは暁の秘石が欲しいと言った。だからって、それを自分のために取ってくれるとは……


「タカヒロ」

「大事なものなんだろう? そのためにここまで来て、武闘会に出たんだろう?」

「ああ、父上と母上の形見なんだ」

「そうか、じゃあ、大事にしなきゃな」

「う、うん」

「明日、一緒に取りに行こう」

「わかった。ありがとう、タカヒロ」


 リーシャが頬を染める。




 翌日の昼過ぎ、優香と恵理子、そしてリーシャは三人で冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドでは、武闘会優勝者とベスト四が来たこともあり、大騒ぎとなった。特に、リーシャは皆からギルドマスターになってくれと、懇願され、ギルドマスター、ブレイクがそれに対して爆発する、という状況となった。


 ギルドマスターの執務室。


「優勝おめでとう。これが優勝賞品だ。確認してくれ」


 優香は箱のふたを開け、中身を見る。濃いオレンジ色の、しかも透き通った、手のひらで握れるサイズの美しい石だった。


「リーシャ、どう?」

「タカヒロ、これ、本物だよ。よかった。よかったよ」

「そうか。本物だったか。それはよかったな」


 ブレイクがため息をつく。


「おい、ということらしいぞ」


 と、ブレイクが言うと、隣の部屋から人が入って来る。

 宰相だ。その後ろから騎士が数名。


「ギルドマスター、どういうことだ?」


 優香が聞く。


「それが本物であることを確認できる奴がいたら教えて欲しいってさ」

「そういうことだ」


 宰相が口を開く。


「お前達、魔族の関係者だな?」

「何を言っているんだ?」


 優香がとぼける。心当たり、ありすぎだ。


「僕はリストを見て、これが気になったからもらった。それだけのことだ」

「それは渡さんし、お前らも捕らえる、と言ったら?」

「は? 武闘会優勝者の僕をかい?」

「はっはっは。あんな魔法も使わない素人のような戦いでか?」

「なっ!」


 ギルドマスターが声を上げる。ギルドマスターは魔法が使えないのだろうか。


「魔法を使った攻撃が高度だってことは僕も認める。だけどね、自分達が最強だと思っているのは間違いだと思うよ」


 優香と宰相がにらみ合う。


 バンッ!


 そこへ一人の女性が飛び込んでくる。ユリアだ。


「宰相。何をしている」

「見てわかりませんか。魔族の関係者を捕らえようとしているのですぞ」

「何を言っているんだ。そんなことを国王様が命じたとでも?」

「いえいえ、危険を事前に排除するのも私の役目でありますから」

「まさか、あんたが、あんたが魔族の里を……」


 リーシャが殺気をまき散らす。


「リーシャ、ダメ」


 恵理子がリーシャをなだめる。


「ほらほらほら、危険分子が見つかりましたぞ、騎士団長、いいのですか?」

「答えろ、宰相。お前が魔族の里に侵攻を命じたのか? 国王ではなく?」


 ユリアが宰相に尋ねる。


「そうですよ。おかげで平和でしょう?」

「このことを知っているのは?」

「ここにいる面々でしょうな」

「そうか」


 ザシュ、ザシュ、ザシュ……


「ゆ、ユリア?」


 ブレイクが騎士団長ユリアに呼びかける。

 ユリアは、宰相と付き添ってきていた騎士をためらいなく切り捨ててしまった。


「ギルマス、すまん。処理しておいてくれ」

「はぁ。わかったよ。宰相はここに褒美を持って来て帰ったってことにしておく」

「それから」


 ユリアは、リーシャの前に立ち、頭を下げた。


「すまなかった。私は、侵攻を止められなかった。ちょうど国を離れていたんだ。それすら、仕組まれていたことかもしれん。私が謝っても仕方ないことかもしれん。だが、頭を下げさせてくれ」

「う、うう、うわーん」


 ユリアの謝罪を受け、リーシャが泣き崩れた。




 リーシャが落ち着いた後、三人は、家へと向かった。

 家に着いた後、リーシャは暁の秘石をもって部屋にこもり、夕食にも出てこなかった。



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