親子の会話は必要なのです(貴博と真央)
「だが、かなり軽く作り、鳥のようにするのにかなり高度な技術が必要なんだぞ?」
フライが技術的に力説する。
「それはそうですけどね。鳥のあの羽の動きを再現するのは、ちょっとというか、まず無理ですね。そもそも、鳥と人では体の重さが全然違います」
言い切る貴博に、フライは愕然とする。
体の重さ……。
ドワーフはどちらかと言えば……。
「そ、そんな」
貴博は、地球のテレビで見た、日本の琵琶湖で鳥になる番組を思い出し、人力飛行機の絵を描いて行く。
「このプロペラを回すのがこの足のペダルとそこからつながるチェーンで……」
貴博はふと気づいたことを聞く。
「自転車って知っています?」
フライとライカは首を横に振る。
貴博はミーゼル達にも視線を送るが、同じように首を振られる。
「えっと、こういう風に二つの車輪をつなげて、ペダルをこぐと走る乗り物なんですけど」
「ライカ、このチェーンの部分、お前の細工師としての技術が必要じゃないか?」
「この枠組みの部分。そういうあなたの金属と木の加工技術が生きるんじゃないかしら。軽い方がいいなら木がいいわよね」
「「むむむむむ」」
フライとライカが貴博の絵を見ながらうなりだした。
そして、紙を持って来て図面を描き出した。
「お兄ちゃん」
ホップとテップがやって来た。
「ん、なんだい?」
「もう一つ、これを作ってよ。お父さんとお母さん、ああなるともう話を聞いてくれないんだよ」
「そうなんだね。じゃあ見ていて、作るから」
貴博は、木の端材を手に取り、ナイフで削りだした。
「ねえセンセ」
ミーゼルが声をかけてくる。
「なに、ミーゼル」
「何でこのおもちゃのことやあんなこと知っているの?」
「え? このおもちゃは子供のころ作って遊んでいたからなんだよね。ね、真央」
「あ、え、そ、そうそう。センセに作ってもらって」
「ふ、ふーん。で、その変な乗り物の方は?」
「……夢かな? 真央、知ってる?」
ブンブンと、わざとらしく首を振る真央。
「真央が知らないなら夢かも」
「……」
ミーゼルがジト目だ。
ミーゼルはそのジト目をすっとサンタフェとカンタフェに向ける。
「私達、眠くなっちゃいました」
「そうです。眠いです。寝ます」
サンタフェとカンタフェはわざとらしくあくびをして、貴博の団服のポケットに入って行った。
ミーゼルは貴博の耳に口を近づけ、そっとつぶやく。
「あのキザクラ商会の船、あれも怪しいんだけど。誰も漕いでないし、帆もはってなかった」
「そういえば。僕、ミーゼル達を助けることで頭一杯だった」
「んもう」
ミーゼルは口を尖らせた。
「あっ!」
真央が突然声を上げる。
「もっと簡単に空を飛べる方法があったのです」
その一言に、ライカとフライも真央の方に振り向いた。
「なに? 真央」
貴博が真央に聞く。
「気球です。気球」
「あー」
「あー、って、何ですか」
貴博の反応に、真央が聞く。
「僕、あれ、どうやって進む方向を決めているのかわからないんだけど」
「え、風の向くまま気の向くままじゃないんですか?」
「だよね」
「おい、その気球というのは?」
フライが興味を持って聞いてくる。
「えっと」
と、貴博はまた図示する。
「火を燃やすことで温かい空気を袋にためて」
「何で温かい空気を入れるんだ」
「温かい方が空気は軽いんです。だから、大きな大きな袋を用意して、その中に温かい空気を入れると、周りの空気より軽くなるから、浮くんですよ」
「それで、その場合進む方向がって話だが」
「ただ浮くだけなので、風に運ばれちゃうんですよ。だから、風下にしか進めないと思います」
「それにこのプロペラをつければいいんじゃないのか?」
「まあ、そうなんですけど。最初の図面と同じです。回転しないように、行きたい方を向けるように、工夫が必要だと思います」
そう言って、貴博は飛行船の絵を紙に書く。
「なるほど」
フライとライカは再び図面に向かってしまった。
「サンタフェとカンタフェも寝ちゃったし、僕らも寝ようか」
と、貴博が真央達に声をかけると、
「あ、そっちの部屋で寝てー」
と、ライカが声をかけてきた。
「ありがとう。それじゃ、おやすみなさい」
「お母さん、僕達は?」
「ホップとテップも寝ましょう」
そうライカが子供達を連れて部屋へと向かった。
だが、フライは図面に向き続けた。
その後、ライカも再び合流していたが。
翌朝。
「おはようございます」
貴博達が起きてくると、フライとライカはまだうなっていた。
「えっと、おはようございます?」
と、もう一度貴博が声をかける。
「え、今、あれ? 朝?」
ライカが我に返り、立ち上がる。
「あ、ごめんなさい。今、朝ご飯を」
「ライカさん、いいですよ。僕らで朝ご飯を用意します。お二人の分と子供達の分も含めて」
「あら、悪いわね。お願いするわ」
貴博達が朝食の準備をしていると、ホップとテップが起きてきた。
「お母さん、いなかった」
そう、目をこすりながら。
「あ、おはよう、ホップにテップ、ご飯できたから食べよう。お父さんとお母さん、夜中もずっとあんな感じだったみたいだよ」
「お母さん、一緒に寝てくれなかった」
ホップはほほを膨らませる。
「あはは。そうだね。でも、お母さんも楽しそうじゃない?」
「僕は楽しくない」
「そっか。でも、ああやって一生懸命になっちゃってるお父さんもお母さんもかっこいいと思うな」
「かっこいい?」
ホップは首をかしげる。
「うん。一生懸命何かをしている人って、かっこいいよ」
「んー。そうなんだ。よくわからないけど」
「ホップも大きくなったら、きっと夢中になれるものが見つかるよ」
「ふーん」
「さ、食べよう」
朝食を食べ終わり、食器の後のかたづけも終える。
ただし、フライとライカの朝食はそのままで。
それでも、二人は未だに図面にいろいろと書き込みを繰り返している。
「うーん」
貴博は首をかしげる。
貴博達は出発の準備を終えている。
しかし、二人をこのままにしておくと、子供達が放置される。
ネグレクトはよくない。
貴博は、布団のシーツを持ってくると、図面の並んだテーブルに上からふわっとかけた。
「え?」
「あ!」
フライとライカがそれに気づく。
「な、何を?」
「えっと、僕ら、そろそろ行きます。今日は泊めてくださり、ありがとうございました」
「あ、ああ。こっちこそ、様々な貴重な知識を教えてくださり、子供達の相手や朝食まで」
ライカが答える。
「いえいえ。ですが、お二人とも、ほどほどにして、朝食を食べて、それから、子供達に向き合ってあげてくださいね」
「う。うん」
「そうね。わかったわ」
「ホップ、テップ、ごめんな」
「ごめんね」
フライトライカが子供達に謝る。
頭をさすりながら。
「ううん。僕が大きくなったら、教えてね」
「わかってる。それまでに実現して見せる」
「お父さん、なんだか今までより目がキラキラしてる」
「そうか?」
「お母さんもー」
「そう?」
「寝てないのに、おかしいね」
「おかしいね」
そういった親子の会話を聞きながら、
「それじゃ、ありがとうございましたー」
と、そろりそろりとお暇する貴博達だった。




