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うちの夫がなにやらやらかしまして、大変申し訳なく……(貴博と真央)

 山脈からまっすぐ南の森へ向かって伸びる城壁のさらにその先。

 その森の中。

 そこに木工職人のドワーフが集まる村があった。

 木工を仕事にしているので、森の中にあった方が都合がいい。そういうことだろう。


「ただいまー」


 その村にある、と言っていいのだろうか。

 村はずれの一軒の家、いや、工房に一人のドワーフの女性が帰宅する。


「あ、おかえり、ライカ。いい金属は手に入った?」

「うーん。屑鉄だけどね。まあ、精製すれば使えるんじゃないかしら」

「屑鉄くらい、安く譲ってくれればいいのに」

「で、フライ、そっちの方はどうなの?」

「仕事の方はもちろん順調だよ。注文された階段の手すりもほら、この通り」


 フライと呼ばれたドワーフは妻のライカに螺旋階段用の手すりパーツの山を見せる。


「相変わらずきれいに作るわよね。専門じゃないのに」

「そう言うなって。この国の鍛冶師が許可制なんだから」

「そうよね。空を飛びたいって崖から飛んだのはいいけど、落ちた先がこの国。本当にここはどこなのかしら。ライトは元気にしているかな」

「言っても仕方ないさ。また空を飛ぶことを考えよう。飛べるようになったら捜しに行けるだろうさ」

「そう言うのは、一度でも飛んでからよね」

「……」


 残念なことだが、飛行実験をしてフライとライカが落ちた先に転移陣があった。

 その転移陣を通っている間に、時間軸が大きくずれてしまい、二人ははるか未来の第七階層に落ちてしまった。

 そのため、グレイスが元々いた世界、第三階層ではとうの昔にライトは亡くなっている。

 そんなことは、フライもライカも知らないし、知りえない。

 もちろん、貴博達も知らなければ、グレイスだってそんなことがあったなんて知りはしない。


「お母さん、おかえりー」

「おかえりー」

「ホップ、テップ、ただいま」


 ライカは二人の子供を抱きしめる。


「いい子にしてた?」

「もちろん」

「ろん」

「ふふふ、いい子ね」

「ねえ、お母さん、遊んでー」

「ごめんね。これからお母さん、ご飯作らなきゃ。食べるでしょ?」

「「うん」」

「じゃあ、ちょっとの間、我慢していてね」

「「はーい」」

「じゃあもうちょっとだけ外に行ってくる」

「ダメよ。もう暗くなるんだから」

「すぐそこで遊ぶだけだから」

「すぐに帰ってきなさいよ」

「「はーい」」


 そう言って家を出て行く フライとライカの子供達。




「お、森に入れる道があるよ」


 貴博は、城壁近くにまでやってくると、森の中へと続く道を見つけた。

 道はどうやらまっすぐ森の中を南へ向かって走っているようだ。


「ここ入っていいのかな?」

「さっきの兵士たちも来るわけじゃないし、よさそうだけど?」


 貴博と一緒に道の奥を覗き込むミーゼルが答える。


「真央ー、じゃあ、馬車を出して!」

「はいなのです」


 御者台の真央が馬車を森の中へと進める。


「ミーゼル達は周りを。クラリスは後ろで」

「「「はーい」」」




 再びフライとライカの家の前。


「わー!」


 というホップの悲鳴に驚き、ライカが家を飛び出す。


 グルルルル


 そこにいたのは、ホーンウルフ。


「ホップ、テップ!」


 ライカは慌てて子供達を抱きしめ、背をホーンウルフに向ける。


「あなた!」


 ライカは家に向かってフライに呼びかける。


「どうした!」


 玄関を飛び出してフライがそう叫んだ時には、もう、ホーンウルフがライカに向かって飛びかかっていた。




「あ、やばい!」


 貴博が探査魔法を広げていたその先に、ホーンウルフが引っ掛かる。

 しかもそのすぐそばに、三つの人の気配。


「ちょっと行ってくる」


 と、貴博は風のようなダッシュで、ホーンウルフに迫る。

 だが、そのホーンウルフは三人のドワーフに向かってすでに飛びかかっていた。


 間に合わない。

 ならば、


「フリーズ!」


 貴博はマイナス魔法を使ってホーンウルフを凍らせる。

 しかし、それが失敗だった。


 ホーンウルフはすでにライカに向かって飛びかかった後。

 そのホーンウルフを凍らせたらどうなるか。


 ゴチン!


「いったーい!」


 ライカの頭に冷凍ホーンウルフが落ちた。


「ら、ライカ?」


 フライがライカを心配して寄り添う。


「お母さん、大丈夫?」


 ホップもライカを心配する。

 ライカは、涙目で頭をさすっている。

 だが、我に返るライカ。


「ホーンウルフは?」


 ライカが頭をさすりながら後ろを振り返ると、そこに、凍ったホーンウルフが落ちていた。


「えっと、一体これは?」


 そこへ駆けこんで来る貴博。


「ごめんなさい。大丈夫ですか? 失敗しちゃいました。今、治癒魔法をかけますから」


 そう言って、貴博はライカの正面に立ち、右手をライカの左肩に置き、左手でライカの後頭部を押さえて、貴博の胸にライカの顔を押し付け、


「ヒール!」


 と、治癒魔法をかけた。


 ところで、そんなことをすればどうなるかというと。

 ライカは、貴博に抱かれるように顔を胸に押し付けられ、顔を赤らめている。


「ちょっとちょっと、うちの奥さんに何をするんだ!」


 慌ててフライが貴博からライカを引き離す。

 あっ、と、貴博はフライの取り乱し方を見て、自分が何をやったか気づく。

 そう。

 夢中になると周りが見えなくなる病が発症した。


「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。そんなつもりじゃなくて、あの、治癒魔法をかけようと夢中になって……」


 と、ライカを見ると、ライカは顔を赤くしたままきょろきょろと動揺して、視線を動かしている。


 貴博はとにかくフライに対して平謝りだ。

 そこへ真央達、馬車が到着する。


「えっと、センセ、なにしたんですか?」

「飛びかかったホーンウルフを凍らせたら、凍ったままあの女性の頭に落ちちゃって」

「あちゃー、痛そうなのです」


 真央は、貴博の横に立ち、お冠のフライに対して、


「うちの夫が大変申し訳ないことをいたしました」


 と、頭を下げた。


「あのな、そう言うことじゃなくってだな」


 と、まだ怒りの収まらないフライに対して、今度は、クラリスとミーゼル、ルイーズとリル、そしてシーナまでもが一緒に頭を下げた。


「「「「「うちの夫がなにやらやらかしたようで、申し訳ありません」」」」」


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