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ドワーフの国には入れてもらえないらしい(貴博と真央)

 翌朝から貴博達、放課後木剣クラブは北を目指して移動を始める。

 右は森、左は海だ。しかも、少しずつ上り坂になっており、左側の海は切り立った崖の下へと降りていく。




 そうして、何日かを山脈に向かって歩いていたところ、急に森が開けてくる。


 森に沿って東を向くと、そこは荒野のような赤茶けた土の地面が広がっていた。


「センセ、遠くに城壁っぽいのが見えるのです」


 真央が御者台から手のひらをおでこに当てて貴博に報告する。


「向かってみようか。あれがドワーフの国かも知れないし」


 貴博達は、城壁らしき構造物へ向かって馬車を進める。


 少しずつ城壁に近づいて行くと、街の感じが見て取れる。

 街は山際に沿って存在し、その周りを城壁で囲われている。

 街が山際にあるため、その城壁の縁側は、山を駆け上がるかのように、山脈へと伸びている。

 一方の麓側は、比較的森の近くまで城壁がはりだしている。


 貴博達の位置からはその城壁が街を囲うように閉じているのか、それとも、森に向かって伸びているだけなのかはわかりづらい。




 貴博達が近づいて行くと、城壁の真ん中に見えてきた門から何人もの兵士が飛び出してくるのが見えた。


「あ、誰か来るっぽい」


 そう、貴博がつぶやくと、真央をはじめ、全妻、ラビとマイマイが馬車から出て来て、馬車の前に陣取る。


 貴博達の前にやってきたのは武装したドワーフだった。

 それが十人。


「お前達、人間だな。ここへ何しに来た」

「えっと、僕たちは人間です。それで、仲間を探しに来ました」


 ドワーフの問いに貴博が答える。


「仲間? ドワーフを仲間に引き入れたいということか?」

「いえ、違います。離れ離れになってしまった仲間なんです」

「ドワーフなのか?」

「いえ、わかりません」

「わからないわけないだろう。仲間なんだろ?」

「はい。まあ、神のお告げみたいなものなんです」


 貴博は、何とかごまかそうと努力する。


「どうやって仲間だと判断するんだ?」

「######(あなたは転生者ですか)」


 貴博は日本語で聞いてみる。

 ドワーフたちは首をかしげるだけだ。


「今の暗号がわかる人が仲間なんです」

「そうか。少なくとも我々がお前達の探している仲間じゃないってことがわかった。そんな言葉を使う者は、ドワーフにはいない」


 ドワーフの兵士は一拍置いて、


「というわけで、帰ってくれるか?」


 そう、聞いてきた。


「え? 入れてくれないの?」

「我が国は、この数百年、この街に人間を入れていない。少なくとも俺が生きているこの百年は見てすらいない」

「じゃあ、僕らは初人間なんだ」

「そう言うことだ」

「で、入れてくれない理由は?」

「記録上、前回この街に人間が入ったのは、人間達が攻め込んできた時だ。あの城壁はその時の名残。今は使われていないがな。いや、これから使われるかもしれん」

「人間達が攻め込んでくるかもってこと?」

「お前達がその先駆けではないという証拠はどこにある」


 貴博は悩む。

 自分達がドワーフの国に攻め入ろうとか考えていない。

 それを証明するにはどうしたらいいか。

 証明のしようなんてない。


「それにだ。その後ろの魔女二人、怪しいにおいがする。何者だ」


 ドワーフにそう言われたラビとマイマイは、クンクンと自分の腕のにおいを嗅いでみる。

 ドワーフの兵士が二人のその行為に警戒心をあらわにしたのがわかったため、シーナが、「そういう意味じゃないよ」と、二人に教えてやめさせる。


「みんな僕の家族だ。怪しくもなければ危険でもない」

「スパイだろうが斥候だろうがそう言うに決まっている。俺でもお前の立場ならそう言う」

「ドワーフの国って、人間の国と全く交易がないの?」

「ドワーフの国としてはない」

「ドワーフの国として?」

「ドワーフの国、エルフの国、獣人の国の三国はつながりがある。その中で獣人の国だけは人間達とやり取りをしているからな。間接的に人間達の物が流れてくることはある」

「そっか。ダメっぽいね。じゃあ、ここから東に向かうにはどうしたらいいの?」

「森を抜けるしかないな」

「森に近づいて道を探してもいい?」

「いいが、城壁に近づいてほしくない。近づいたらまた我々がこうして出張る必要が出てくる。あまりにしつこかったり、敵意を感じたら捕らえるからな」

「わかったよ」


 貴博は、ちょっと詰みに近い現状を妻達と相談しようと、妻達の方を振り向き、近づいて行く。

 それを眺めていたドワーフが気づいた。


「おい、その腰の武器はなんだ。よく見ると、魔女の二人以外は腰に差しているな」

「これか? 両手剣だけど」

「いやいや、両手剣はそんなに細くないだろう」

「両手で扱うから両手剣だろう? それとも、この形のことを言っているのか?」

「……」


 ドワーフは無言でうなずく。

 貴博は刀を腰から外し、ほんの少しだけさやから抜いてドワーフに見せる。


「これは両手剣だが、形としては刀と呼んでいる」

「な、その輝き、刃紋、なんだその武器は? そんなに細くて武器として大丈夫なのか?」

「だから、刀だと。それに耐久力? 切ってしまえば折れはしない」

「お前がそれを作ったのか?」

「いや、もらった。親にな」

「お前の親はドワーフなのか?」

「……正しく言うと、僕は養子で拾われた。だから親が誰かどの種族なのか知らない。ただし、育ての親は人間だ」


 サンタフェとカンタフェだけはわからないように視線を逸らせる。

 育ての親は神である。


「その刀とやらを貸して、いや、見せて、いや……いい。それじゃな。近づくなよ」


 そう言って、ドワーフの兵士たちは城壁へと戻って行った。




 貴博は、改めて真央や妻達と向き合う。


「どうする? ここまで来て戻るってのもどうかと思うんだけど」

「森の際を調べて、馬車の通れそうなところを探すしかないだろう」


 クラリスが答える。


「そうだよね。食料を探しに森にも入りたいし、馬が食べる草も、この荒野にはないし」


 貴博達は周りを眺める。

 北側は切り立った山脈が東へと続いている。南は、草木の生えない大地が森を南へと後退させている。


「そうだね、森の方まで南に行って、道を探そうか」


 貴博達は、南に広がっている森へと馬車を向けた。


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