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長持ちさせたい? 狙われるマイマイの血(貴博と真央)

 ある日、帝城にて。


「ネビュラス公爵、勤め、ご苦労だったな」

「スノーホワイト公爵か。まあ、大変だったと言えば大変だった」

「噂では数千のホーンラビットに押し寄せられたと」

「ふ。どこまで知っているんだ?」

「そこまでしか知らん。そのホーンラビットの群れ、どうしたんだ?」

「どちらも損害無し。ホーンラビットの群れは何もせずに森へ帰っていったよ」

「なぜ?」

「なぜ来たのか、なぜ帰ったのかはわからん。ただし、ホーンラビットを森へ返した冒険者がいる」

「ほう。その冒険者は?」

「放課後木剣クラブ」

「は? ミーゼル?」

「そうだ。娘達だ」

「どうやって?」

「貴博が我々とホーンラビットの群れとの間にバカでかいファイアウォールを立ち上げて、それが鎮火した後には、そこにホーンラビットはいなかった。娘達もだ」

「娘達もいなかった? どこへ?」

「そのまま旅に出たよ」

「どっちへ? まさか?」

「そうだ。北の森へと入って行った」

「なぜ?」

「それもわからん。ただ、一つ言えるのは、いい家族だった」

「そ、そうか。なら安心だ。いい知らせをありがとう」




「馬車が帰って来たのはいいんですけど、森に道がないのです」


 真央がこれからの進路について悩む。


「そうだね。どうしようか」


 それに答えたのがミーゼルとルイーズ。


「センセが魔法で馬車を浮かべる」

「センセが魔法でドーンと道を作る」

「どっちも嫌だよ」

「えー、馬車を浮かして運んでくれれば、歩かずにすむのに」

「魔法でドーンはダメなのですか?」

「この先にいるの、エルフだったよね。森を破壊したら怒るんじゃない? それに、僕も森林破壊はちょっと」

「なら、回るしかないだろう」


 クラリスが提案する。


「ここから森沿いに再び西へと移動する。そこから北上すると、たぶんドワーフの国。そこから東に向かえばエルフの国だ」

「そっちの方は道があるのです?」


 真央がクラリスの提案の根拠を尋ねる。


「すまん。実は知らない。ドワーフの国やエルフの国もあるとは言われているが、どんな国なのかすら知らない」

「ん。それはそれでワクワクするのです」


 真央が目を輝かせる。


「しばらく町はないだろうから、自給自足だからね」


 貴博が食事についてくぎを刺す。

 街が無ければレストランもないし、甘いお菓子も食べられない。


「「「はーい」」」




 貴博達、放課後木剣クラブは、森沿いの草原を進んでいく。

 何日も何日も。


「本当に何もないね。誰もいないね。これだけ何もないと、盗賊とかもいないんだろうね」


 貴博のそのつぶやきに、ミーゼルが反応する。


「センセ、誰もいないところで盗賊が誰を襲うの?」

「そりゃそうか。襲う相手もいなければ、奪ったものを売る相手もいないもんね」

「そうよ。だからフラグになんてならないから」

「だが、高位冒険者はいるぞ」


 二人の会話を聞いていたクラリスが口を挟む。


「高位冒険者?」

「森には強くて貴重な魔物も魔獣もいるだろう。そういう魔物を狩ってくる冒険者がいるな。国の中や周辺じゃそこそこの魔物しか狩れないからな」

「そうなんだね。じゃあ、突然会うこともあるのかもね。どれくらい強いのかな」


 ふと、貴博が気になったことを口にする。


「真央、千里さんって自由人だから冒険者とかやってそうじゃない?」

「ふふふ、そうですね。千里さんなら似合うかもです。たくさん仲間を集めて「かかれー」って」

「真央、それ、盗賊だから」

「あはは。でも、千里さんなら、義賊? も似合うのです」

「そうだね。悪代官とか倒しちゃうやつでしょ。あー、桃ちゃんが振り回されて苦労しているのが目に浮かぶよ」

「一緒にいるといいのです」




「ヘブシッ!」

「クシュン!」


 遠い西の空でくしゃみが響く。




 ガサガサ


 森から音が聞こえる。

 馬車を止めて警戒態勢をとる貴博達。

 クラリスを先頭にして、馬車を中心に森に体を向ける。


 ガサガサ


「ぷはー!」


 森から飛び出してくる冒険者。一人、二人、合計で六人。


「フラグだったのです」


 真央が貴博につぶやく。

 冒険者たちは膝に手を当て、呼吸を整えようと大きく息を吸い込む。

 中には、座り込んでいる者もいる。

 そして、先頭にいた冒険者が貴博達に気づく。


「あ、あれ? こんなところに冒険者?」

「えっと、こっちのセリフだけど?」

「あ、ああ悪い。俺はニック。このパーティのリーダーをしている」

「僕は貴博。こっちがこのパーティのリーダー、真央」

「「それで」」


 貴博とニックの発言がかぶる。


「それで」


 急を要するのか、ニックが間髪入れずにもう一度声を発する。

 貴博は視線で続きを促す。


「悪いが、水をくれないか?」

「そんなことならいくらでも。コップか器か持ってる?」

「おい!」


 と、ニックは荷物を背負っているメンバーに声をかけて水筒を受け取る。


「これでいいか?」


 口の細い水筒にどうやって入れればいいのか、一般の人ならどうする?

 そう貴博は悩むがめんどくさくなり、水筒を受け取る。

 貴博が受け取った水筒の中に魔法で水を出すと、その水筒が膨らむ。

 貴博はそれをニックに渡した。


「お、おお。魔法か? 魔法なのか? しかも、水筒に直接とは器用なやつだな。そもそも詠唱していないだろう」

「ま、そう言うところは詮索しないでくれ」

「そうか。わかった。ありがとうよ」


 そう言って、ニックは水筒に口をつける。

 その水筒を回し飲む冒険者たち。


「それで、何か言いかけなかったか?」

「いや、やっぱり何でもない」


 貴博は、なぜこんなところにいるのかと聞こうとしたが、正直どうでもよいことに気づいた。


「そうか。じゃあ、俺からもう一つ聞いていいか? でかいカメの魔物を見なかったか?」


 貴博がいいとも悪いとも答える前に聞いてくるニック。

 しかも、心当たりのある質問を。

 貴博達は視線を動かさず、何も知らないふりをする。


「知らない。というか、カメの魔物? ラビットとウルフ、ボア、ベアまではわかるが、カメもいるのか?」

「お前達、新人だな? こんなところに来ていいもんじゃないだろう」

「まあ、今年から本格始動だけど」

「そっか。じゃあいいや」

「いいのかよ。で、カメの魔物が何なんだ?」

「ん? 商売敵になると嫌だから教えてやらん」

「なるほどね。ニックが受けた依頼なんだから、それでいいよ。それじゃね」


 貴博は、ニックの話を遮り、背を向ける。


「ちょっと待てよ。俺達の邪魔をしないって言うなら、愚痴がてら聞いてくれよ」

「……あんまり興味ないんだよ」

「そう言うなって。愛の飴って知ってるか?」


 ニックは貴博達が聞く状況を作り出す。


「愛の飴?」


 当然心当たりがありすぎだ。


「そうだ。どこの誰だかわからんが、そんなものを作りやがったもんだから、貴族中で愛用されてな。それはいいさ。夫婦間の愛情を確かめ合ってくれれば平和で何より。そんなことより、その貴族の、特にジジイどもが次に何を言いだしたと思う?」


 貴博は嫌な予感しかしない。

 しかし、ニックはストレートに言う。


「長持ちさせたいだ」


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