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家族の絆は……(貴博と真央)

 貴博は、クラリスからもらった物理的にも精神的にも重たい一撃から回復して立ち上がる。

 そして、公爵軍と向かい合って手を広げる妻達の姿を城壁の上から見下ろす。


 ああ、なんて僕はバカだったんだ。

 それにくらべ、妻達のなんてかっこいいこと。


 何が一番大事か心に決めていた妻。それを裏切った自分。


「くそ!」


 貴博は城壁にこぶしを撃ちつけ、そして、城壁から飛び降りだ。


 貴博は走る。公爵軍の騎士と兵士の間を。

 貴博は公爵軍の間を抜け、そして、真央達の前に立ち、同じように公爵軍に向く。

 そして、


「お義父さん、ごめんなさい。僕達は行きます」

「な、何を言っているんだ」

「僕は改めて誓う。僕は妻達を、誰一人として離さない。悲しませない。もう二度と。だから、ネビュラス公爵、リルを連れて行きます。絶対に家族を守り通し、幸せにして見せますから!」


 そう一方的な宣言をし、貴博は公爵軍に手を向け、


「ファイアウォール!」


 と魔法を発動させた。


 ホーンラビットの群れを囲むために左右に大きく広がっている公爵軍と、囲まれているホーンラビットの間に何メートルもの高さの炎の壁を走らせる。


 貴博は、後ろを振り向く。

 妻達一人一人の目を見る。

 涙を流している妻たちの目を。


「今は行こう」


 貴博は北へと走り出す。

 真央が続く。

 ミーゼルが、ルイーズが、リルが、シーナが、クラリスが二人を追いかける。

 ラビとマイマイも続く。そして、ホーンラビットの群れも北を向き、貴博達を追う。




「リル!」


 ネビュラス公爵がファイアウォール越しに叫ぶ。

 しかし、リルの返事は帰って来ない。

 リルは行ってしまったのだろう。


 公爵は考え込む。

 リルに守りたいと思えるような家族が出来たことを喜ぶべきか、リルが魔物を守るために公爵軍と対峙したことを憂うべきか。

 この話を帝都に持って帰ったら、リルは責められるだろう。

 そして、その魔物と戦わずに逃がしてしまった自分も責任を問われるだろう。




 貴博達は、何分も走り、一番近い森へと飛び込む。

 何千のホーンラビットも一緒に。

 そして、公爵軍の出方を見る。


 すでに、ファイアウォールは鎮火している。

 しかし、公爵軍が動く様子はない。


 公爵軍から追われなかったことに安堵する貴博。

 だが、ミーゼル達がまだ涙を流している。


「ミーゼル、どうしたのですか?」

「う、うう、センセが、貴博が、私達を……私達を置いて行こうと……うわー」


 ミーゼルが城壁でのことを思い出して、泣いてしまう。


 バシン!


 真央が貴博のほほを平手打ちした。しかも思いっきり。そして、真央も涙を流す。


「センセ! なんで、何でそんなことをしようとしたの!」


 真央が貴博に向かって憤る。

 貴博は、なかなか言葉を発することが出来ない。


「センセ! なんで!」


 そう、声を上げる真央に、クラリスが語る。


「真央、いい。貴博の気持ちもわからないでもない。私達をアンブローシア帝国と敵対させたくない、そう思ったのだろう。真央、お前のしたことは正しい。家族であるラビとマイマイを守ろうとしたのだろう? だが、それは帝国と敵対することにつながる可能性があった。それは事実だ。だから、貴博は、皇女である私を、貴族令嬢であるミーゼル達を、帝国と、親と、敵対させないようにと考えたのだろう」


 真央もハッとする。自分がきっかけを作ったのだと。


「だがな、あえて貴博に言わせてもらう」


 クラリスは貴博の目を見て言う。


「私達を見くびってもらっては困る。私達は、貴博、お前について行くと心に決めた。これは何があっても優先される。私達は夫婦だ。どの絆より強い。私達の決意を無碍にしないでくれ」


 そう言って、クラリスは握ったこぶしを貴博の胸に、コツンと当てた。


「みんな、ごめん。僕が浅はかだった。みんなの気持ちも考えず、あんなことを勝手に言ってしまった。本当にごめん。僕も皆と一緒にいる。いつまでも。それをあの日、結婚した日に心に誓ったはずだった。それを改めて誓わせてほしい。これからは、自分で勝手な解釈をしない。家族のことは相談して決める。だから、これからもそばにいてほしい」

「う、うわーん」


 ミーゼルが泣きながら貴博に抱き着く。

 同じようにルイーズが、リルがシーナが抱き着く。


「クラリス、私もごめんなさいなのです。何も考えずに飛び出して。相談……」

「いい。あれが真央だ。あの時飛び出さなかったらそれは真央じゃない。家族を守りたかったんだろ。そういうストレートなところにみんな惹かれているんだ。私も真央のことが大好きだぞ」


 クラリスは真央をそっと抱きしめた。




「公爵閣下」

「なんだ」

「城壁の内側に、リル様達の馬車が乗り捨てられておりますが」

「……捨ててこい」

「は?」

「聞こえなかったか? 城門から出て、森の近くに捨ててこい」

「はい! それでは、壊れないよう、壊さないよう、丁寧に捨ててまいります」

「頼む」




 皆が落ち着いてきたころ。


「センセ、馬車を置いてきてしまったのです」

「そうだね。これからは歩きなのかな」

「だが、貴博、着替えも武器もお金すら馬車の中だぞ?」

「……」

「私のソフィローズ……」

「私の創薬器具……」


 仕方ない、ここから先は無一文だし、あきらめて歩くか、と考えていたところに、


「馬車が来る!」


 クラリスが森に向かって進んでくる馬車を見つける。

 その御者台には一人の騎士が乗っている。

 その騎士は、森の入口に馬車を止めると、御者台から降り、そして、独り言をつぶやいた。


「なんだっけっかな。えっと、家族の絆は強い。たとえどんなに離れていてもつながっている。だから、いつでも会いに来い。って、誰もいないじゃないか。こんなこと、手紙を馬車の中に入れておけばいいのに、公爵閣下は」


 そう言って、頭をかく騎士。


「あーあ、歩いて帰らなきゃいけないじゃん。貧乏くじだ」


 騎士は砦へと歩き出した。


「お父さん……」


 リルは思わず声を出してしまう。

 立ち去る騎士にそれが聞こえたか聞こえなかったかわからないが、騎士は一瞬立ち止まって空を見上げ、そしてまた歩き始めた。




「キュイ」


 ラビが声を上げる。


「ラビ、無事でよかった」


 貴博がラビに言う。


「キュイ」


 ラビが耳をしおらせる。


「ラビが気にすることじゃない。僕らは家族なんだから、気を遣ってもいけない。だから、いいんだ」

「キュイ」


 ラビが貴博に近づいて、ほほをすりすりする。


「ラビ、くすぐったい」


 そう言って、ラビを引きはがすと、貴博はラビに聞く。


「ねえ、あのホーンラビットたちはどうしたの?」

「キュイ」


 ラビが首をかしげる。

 貴博は念のために探査魔法を広げるが、近くにホーンラビットはいない。


「森に分散したの?」

「キュイ」


 ラビは肯定の意を示すようにうなずく。


「そっか。じゃあ、ラビとマイマイはこれから……も、一緒に来てくれるの?」

「キュイ」


 ラビもマイマイも首を縦に振った。



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