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前線におけるホーンラビットの大量発生。対応はリルのパパ(貴博と真央)

 馬車の中にヴィータを招き入れ、ラビとマイマイに会わせる貴博と真央。

 ヴィータはラビとマイマイを見て、口を手で押さえ、驚きを表す。

 一体ここに何がいるのか。

 街の中にいていいものではない。

 かといって、冒険者パーティと一緒にいるものでもない。

 日々生息域や食料のため、争っている相手だ。

 言葉も通じず、剣を交えるしかない。

 姿は違えどそれが会長の息子、娘と一緒にいる。

 ヴィータは、接客のプロとして、何とか復帰し、貴博に言う。


「えっと、まずはこの方々の服を用意ですね。それと、その角を隠すための……帽子でしょうか」

「うん。多分だけど、つばのある帽子で、角と一体化できるようにして欲しい」

「それでいて、メイド服に合うものと」

「……メイド服?」

「もちろん、セーラーも作らせていただきますとも。特にそちらの緑色の髪の方は背中が膨らんでいる様子。団服のようなコートで覆う必要があるかと。しかもぴったりとしたものではなくふんわりとさせた方がよろしいかと思います……いえ、いっそのことセーラーもメイド服も止めてお似合いになりそうな服にします? 例えば、マントタイプとか」

「うーん。任せるよ」


 そこへ、クラリスが顔を出す。


「申し訳ないのだが、私も体型が代わってしまった。作り直しをお願いしたい」

「承知しました。あとで こちらの方たちと一緒に採寸をお願いします」


 貴博が聞く。

 宿の手配や出発の都合もある。


「それで出来上がりまで何日?」

「はい。三日ほどお時間をください。それで、その間、街の中をこのお二方を歩かせるわけにはいかないですよね。どうぞ、商会にお泊りください」

「いいの?」

「構いません。どうぞ、おあがりください」

「ありがとう」


 こうして、この三日間はキザクラ商会で過ごすことになった。




「ラビ、マイマイ、出かけてくるからおとなしく待っていてね」

「キュ」


 貴博は、ギルドの客室に通された後、出かける用意をする。

 マイマイは無言でうなずく。




 貴博達はいつものように冒険者ギルドへと行く。


「すみませーん。買取をお願いします」

「はいはい。そっちの買取カウンターへお願いします」


 受付嬢がやって来て対応をしてくれる。


「えっと、ホーンベアにボア、ウルフですね。うーん」

「どうしたんです?」

「こういう時って、ホーンラビットが混ざっていると思うんですけどないですね。食べちゃっても角だけでもあるんじゃないかと」


 この移動期間中、食料調達のため森に入った。

 ギルドで買い取りをお願いするため、ホーンベアも探した。

 だけど、なぜかホーンラビットには出会わなかった。

 出会っても倒せたかどうかは今は謎だが。


「そういえばそうですね。気づきませんでした」


 と、貴博は適当にごまかしておく。


「まあいいです。それじゃ、えっと、大まけにまけて金貨一枚でどうでしょう」

「ありがとうございます。でも、大まけにまけて?」

「ええ、見てわかりません? 冒険者があんまりいないですよね」

「そういえば」

「おかげで魔物を狩って来てくれる冒険者がいないんですよ」

「どうしたんです?」

「あれ、聞いていません? 前線の砦で魔物が、特にホーンラビットが大量に発生して王国軍が対応に苦戦しているって。おかげで冒険者が駆り出されているんです」

「えっと、今年の担当は……」


 と、後ろを向くと、リルが青い顔をしている。

 ネビュラス家か。


「とは言ってもですね、しょせんホーンラビット。数が多くて大変なだけで、あまり心配はしていないんです。ただ、長引くとそれだけ食料やらなんやらでお金がかかりますから」


 と言って、清算をするため冒険者カードを一枚一枚確認する受付嬢。

 だが、受付嬢は三大公爵家令嬢がここにいることに気が付かない。

 なぜなら、ミーセルもルイーズもリルも、家名がローゼンシュタインになっているからである。

 もちろん、シーナもクラリスも。

 よって、反応が異なる。


「えっと、全員がローゼンシュタインなんですけど、まさか全員奥さんです? 髪の色のバリエーションから兄妹じゃないですよね」

「あはははは。妻です」


 ジト目になる受付嬢。


「まさか、今話題のキザクラ商会の飴を……」

「使ってません。使っていませんから」

「そうです。私達はあれを作る前から夫婦ですから」


 リルが訴えるが、余計な情報が混ざる。


「あれを作る!?」


 受付嬢がきょとんとする。

 それを聞き逃す貴博ではない。


「それじゃ、お世話になりましたー」


 と、速攻でギルドを後にした。




「リル、口は災いのもとだよ」

「えへ。ごめん」

「その口を甘いものでふさぎに行こうか」

「やったのです」


 リルより先に真央が喜ぶ。


「真央は本当に甘いものも好きよね」


 ミーゼルが真央に言う。


「ミーゼルは好きじゃないのです?」

「もちろん好きだけど。真央の喜びようを見るとね、こっちまで嬉しくなっちゃうのよ」

「えへへへへ」


 真央は、前世ではあまり甘いものを食べられなかった。

 今世ではいつでも食べられるし、グレイス達にも食べさせてもらっていたが、それでも甘いものには目がない。




 カフェに入り、それぞれ焼き菓子と紅茶を頼む。


「うーん、おいしい」


 ミーゼルが頬に手を当て満足げな声を上げる。


「ほんと、おいしいのです」


 真央も焼き菓子をフォークで刺しては口に運ぶ。


「みんな貴族や王族だったんだから、甘いものは食べ放題だったんじゃないの?」

「この話、何度もするけどさ、甘いものはいつ食べてもおいしいの」


 ミーゼルが言う。

 実際に、甘いものを食べるたびに貴博はそのように聞いてくる。

 だが、貴博も嫌味で聞いているわけではない。

 その満足げな顔を見られるのが嬉しいだけだ。

 だから、何度も一緒に甘いものを食べに行きたくなる。


「これも、リルの稼ぎのおかげだね」

「んー、メルシーのおかげじゃないかな」


 そういえば、メルシーはどうなったかな。

 惚れ薬を使うと言っていた日に街を出てしまった。

 気になると言えば気になる。

 放課後木剣クラブのジェイドの兄の話でもあるし。


「そういえばだけど、メルシーの話って聞いている?」


 全員が首を振る。


「もうすぐ前線だし、そこでネビュラス公爵に聞けばいいんじゃないかしら?」


 ミーゼルが答える。


「今年はネビュラス家だっけ」


 と、ルイーズがリルに聞く。


「うん。確かそう。お父さまが前線に出ているはず」

「ねえリル、前線って、横長だよね、西の海際から東の山際まで」

「うん。そう」

「リルのお父さんはどこにいるの?」

「リルのお父さんじゃない。センセの義理のお父さん」


 リルが貴博の言葉を訂正する。


「そうだった。お義父さん。どの辺にいるのかな」

「おそらく、真ん中。ちょっと帝都側へへこんだ前線だけど、その真ん中にいると思う」

「そっか。じゃあ、このまま海際を北上して、前線についたら、真ん中方面に行ってみようか。それとも、ここから帝都へ戻って、そこから北に行く?」

「ここから北でいいんじゃないかしら。帝都に行ったら全部わかっちゃうよ」

「そうだね。じゃあ、北に行ってから前線の中央。そうしよう」


 全員が焼き菓子を食べ終わったのを確認して、貴博は店員さんに声をかける。


「すみませーん。プレーンのクッキー、二人分つつんでください」

「二人分です?」


 真央が確認する。


「うん。ラビとマイマイ。二人とも草食だから、小麦粉は食べるんじゃないかと」

「なるほど」


 ミーゼル達も納得する。


「ラビもマイマイも喜ぶのです」


 結果として、ラビもマイマイもクッキーをいたく喜んだ。


「ラビもマイマイもお留守番してくれてありがとう。また明日も買ってくるね」


 そう約束する貴博だった。



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