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リルのポーションと謎の効果(貴博と真央)

 女性が傷を治せと言う。

 しかし、その相手はホーンラビット。

 しかも巨大な魔物。むしろ魔獣と言った方がいい。

 普段相手にしているホーンラビットとはわけが違う。

 女性は無言でこちらを見ているだけだし、ホーンラビットにいたっては、前足を投げ出して寝転がってしまった。

 よく見ると、後ろ足が特に深く傷ついており、血だまりの痕が見える。


「はぁ」


 貴博はため息をついてホーンラビットへ向かって歩き出す。


「僕が治していいんだね」


 そう言って、ホーンラビットに手を触れようとしたところ、女性が貴博の手を取って顔をフリフリした。


「あれ? 違うの?」


 女性がうなずく。


「治してほしいんだよね」


 女性がうなずく。


「うーん」


 貴博はリルに視線を送り、


「ポーション頂戴」


 と、リルに向けて手を差し出した。


 リルはポーションをカバンから取り出し、貴博の下へと近づいて行ってポーションを渡した。


「これでいいかい?」


 女性に聞くと、女性はうなずいた。


 貴博はポーションの蓋を開け、大きく怪我をしている後ろ足へとかけた。

 すると、その少しずつ傷口がふさがっていく。

 そして、傷が完全にふさがった瞬間、


 ボフン!


 と、煙が舞った。


「「「「「えっ?」」」」」


 貴博が、ケホケホと、煙を手で払うと、そこに立っていたのは、全裸の兎人族だった。


 バチン!


「いったーい」


 貴博の目が思いっきりふさがれる。クラリスによって。


「クラリス、ひどいじゃん」


 目を塞がれたまま、貴博は不満を漏らす。


「ひどいって何が? 視線を塞がれたことか? 私が塞いだことか?」

「どっちも。おもいっきり目を塞がれて痛いし、何も見えないし」

「えっと、貴博のために説明すると、そこに全裸の兎人族が立っている。見たいか? 見たいんだな?」

「え? どういうこと?」

「言ったままだ。そんなに裸が見たいなら、今晩、私で堪能していいから……もごもごもご」


 クラリスの口を真央が塞ぐ。


「もう。ちょっと冷静になって欲しいのです」


 真央は、そこに立っている兎人族の体をちらっと見て、


「クラリス、その団服を貸してください」

「いいぞ。若返ったせいで団服が大きくなってしまった。少しサイズに合った新しいものを所望する」

「真央、ちょっと待って」


 クレームを言うのはミーゼル。


「今、胸の大きさで誰の団服を使うか決めたでしょう。私を素通りしたのどうして?」

「ミーゼルはすでにそっちの女性に貸しているし、その女性も、胸の部分が横にしわが寄ってて、小さそうです」

「えっと、私が貸したその団服、胸の部分がその人に対して小さいって言ってる? サイズを合わせて作ってもらったってことは、私が小さいって言ってる?」

「いやいやいや。そんなこと言ってるわけじゃないです。ほら、センセも言ってます。多様性が大事だと」

「真央、どうでもいいから早く問題を解決してくれないかな。僕、後ろを向いているから」

「まあ、センセ、どうでもいいって言った?」


 ミーゼルがプンプンする。

 貴博は悟った。こういうことに口を出してはいけないと。


 ルイーズもシーナも真央に貸してと言われていない。と言っても、真央自身が自分の団服を貸そうと思っていない。

 それはそういうことだろう。


 貴博が後ろを向いたところでクラリスが手を離し、自分の団服を脱いだ。

 真央はそれを受け取ると、兎人族に団服を着せて、前のボタンを閉じた。


「センセ、いいですよ」


 真央の合図に貴博が前を向く。


「本当に兎人族だ」


 白髪。頭から伸びる白い耳。しっぽは団服に隠れて見えていない。


「センセ、何? 兎人族に興味があるわけ?」


 ミーゼルが貴博に詰め寄る。


「いやいやいや、どうしてすぐにそういう風に持っていくの」


 貴博はちょこっとぷんすかしてみせる。

 そうしてみせないと、後で何を言われるか分かったものじゃない。


「えっと、そっちの女性の方……」


 貴博は、自分達をここまで連れてきた方の女性に声をかける。

 声をかけられた女性は貴博の方を向く。


「これで依頼完了でいいかな」


 コクリ


「じゃあ、僕らは帰っていい? できれば団服を……」


 そういうと、最初の女性も、兎人族の女性も貴博の方へと歩いて近づいてきた。


「あの、えっと」


 と、貴博が言いよどむと、二人は貴博の横をスルーして、リルの前に立った。


「センセ、振られたね」


 ミーゼルが貴博に言う。


「えっと、告白もしてないのに振られたっていう感じにするのやめてくれる?」


 貴博は肩を落とす。


 一方のリルは、


「えっと……」


 と、戸惑っている。


「あの、治ってよかったね」


 リルがそれだけを何とか言うと、緑色の髪の女性はうなずき、兎人族の女性は「キュ!」と鳴いた。


「私、兎人族がホーンラビットから進化するって知らなかったのです」

「私もです」


 真央のつぶやきにシーナが同意する。

 だが、ルイーズが冷静に言う。


「真央、よく見て。兎人族には角はないわ」

「え?」


 真央が兎人族の女性を見ると、確かにおでこから角が生えていた。


「あ、これ、ホーンラビットの?」


 真央が疑問に思っていると、ルイーズが推論を述べる。


「そうだと思う。魔物が擬人化したんじゃないかしら」

「えっと、それって」


 真央にはよくわからない。


「新発見よ」


 ルイーズが断言する。


「すごいじゃないですか。でも、どういうことなのです?」


 結局よくわからない真央。


「何でかわからないわ。でもきっと、リルの作った回復薬に秘密があると思う」

「リル、すごい。大発見!」


 真央がリルに寄りそって、ぴょんぴょんと喜びを表現する。


「そう単純に喜んでいいわけじゃないわ」


 だが、ルイーズは真央を諭す。


「なぜなのです?」


 真央はルイーズに振り返って、首をコテンと傾ける。


「その女性達、二人とも角がある。つまり、魔物なの」

「それが何か問題なのです?」

「真央、その人達を倒せる?」

「え?」


 真央は女性二人に目を向ける。


「悪い人だったり、人を襲うような人だったら私は剣を向けることが出来る。でも、その人達、人達って言っていいのかしら、その魔物達、私には悪意が感じられないの。つまり、倒せない」

「倒す必要ないんじゃ?」

「じゃあ、他の人がその魔物たちを倒そうとしたら?」

「……かばったら私達が責められるってこと?」

「そういうこと」


 ルイーズと真央のその話を聞いて貴博が二人に話しかける。


「君達、森の奥で暮らしていける?」


 二人は顔を見合わせて


「キュ」


 と、兎人族の女性は鳴いて首を振った。


「まさか、ついてくるって言うのかしら」


 ミーゼルがつぶやくと、


「キュ」


 と、頷く。


「「「「「……」」」」」


 貴博以下、皆がどうしていいのかわからない。


「だけど、その角が目立つのです」


 真央が悩み始める。


「うーん。隠すしかないよね。例えばゴスロリのボンネット帽子みたいなのでごまかすとか」

「センセ、ゴスロリ好きなのですか? センセの好みなのですか?」


 真央が余計な単語に引っかかる。


「え? 真央、何を言いだすの?」

「ねえねえ、ゴスロリって何? センセの好きな恰好なの?」


 それを聞いたミーゼルまでもが興味を持つ。


「いやいや、隠すならいっそのことデコった方がって思っただけだよ」


 貴博の言い訳にも、真央はジト目だ。


「普通にキャップとかつばのある帽子で一体化させたらいいのは?」


 真央が正論を言い放って貴博にすごむ。


「そ、そうだね、真央。その通りだと思うよ」

「センセ……」


 真央は変わらずジト目だ。

 ただ、話は二人を連れて行く方向で進んでいく。

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