甲羅を背負った謎の女性と巨大なホーンラビット(貴博と真央)
ガサガサ
「ミーゼル! ルイーズ! 起きて!」
シーナが椅子から飛び出して、そばに置いておいた両手剣を手に構える。
そのシーナの様子に、ミーゼルとルイーズも焦りつつ立ち上がって両手剣をかまえた。
ガサガサ
そう音を立てて森から出てきたもの……。
いや、人か?
ミーゼル達は目を疑う。
よって、剣を振るどころではない。
ただし、構えはとかない。
森から出てきたのは、額から角を生やした緑色の髪をした女性。
しかも素っ裸だ。
背中に何かを背負っているようではあるが、ミーゼル達からは見ることができない。
その女性は、よたよたと森から出て来て、ミーゼル達に向かって歩いてくる。
その様子から敵意はなさそう。
そして、女性の視線は、ミーゼル達のその先、木剣を合わせている貴博達に向いている。
「えっとー」
ミーゼルが声を発するが、女性はミーゼル達を全く気にしていない。
変わらずよたよたと歩いてくる。
そして、ミーゼル達の脇を通り過ぎ、未だにかまどにかかっている鍋の中をチラ見して、また貴博たちの方へと向かって歩いて行った。
ハッ!
と、ミーゼル達が振り返って女性の後ろ姿を視線で追う。
甲羅?
女性は甲羅を背負っていた。
なぜに甲羅?
と、ミーゼル達は頭にクエスチョンマークを浮かべて首をかしげる。
そんなミーゼル達の疑問のことは気にする様子もなく、女性は歩いて行く。
そして、ミーゼル達の異変に貴博達も気づいた。
貴博がミーゼル達の方を向く。
全裸の女性が歩いてくる。
バチン!
クラリスが平手で貴博の目を隠した。
と言うより叩いてふさいだ。
「いったーい!」
貴博がクラリスの手を目から離そうとクラリスの手を握ってバタバタするが、
「貴博、見ちゃだめだ」
クラリスはそれしか言わない。
真央とリルも固まっている。
ミーゼルがクラリスの行動に気が付いた。
「ちょっと待って、待ってってば」
ミーゼルは馬車に飛び込み、自分の団服を持つと、女性の下へと走って行った。
そのミーゼルの行動に気づいたルイーズとシーナも続く。
ミーゼルが女性に追いついて、団服を背中からかける。
さすがに女性もそれに気が付いて、不思議そうな顔でミーゼルを見た。
ミーゼルはその視線を気にすることなく、女性の右腕を袖に通す。
左腕はルイーズが通した。
そして、団服のボタンをシーナがとめると、ミーゼルとシーナは満足したかのように額の汗をぬぐった。
女性は、再び貴博たちの方へと歩き出す。
ミーゼル達が女性に団服を着せたのでクラリスが貴博の目を開放する。
「一体何なの」
と、貴博がクラリスに不満をもらすと、クラリスが女性に指を向けた。
貴博がそのクラリスの指の先を見ると、団服を着た女性がよたよたと歩いてくる。
その額には角。
団服の背中が膨らんでいるのは気になるが、そんなことより、女性が何を求めてやってくるのかの方が気になる。
クラリスが、一歩前に出て貴博の前に立つ。
女性は、クラリスの前まで来ると、クラリスをよけるように手を伸ばし、貴博の服をつまもうとした。
べチン!
クラリスがその手をはたく。
女性はクラリスをちらっと見て、視線を貴博に戻し、再び手を伸ばす。
べチン!
女性はめげずに手を伸ばしてくる。
べチン、べチン、べチン!
女性がクラリスを恨めし気に見つめる。
「クラリス、ちょっとやめてあげて」
貴博がクラリスにそう言って、バチンをやめさせると、クラリスはすっとよけて女性を通した。
女性は、それを見て、貴博に再び手を伸ばすと、貴博の袖を指でつかみ、そして、引っ張った。
女性は、袖をつまんだまま、くるっと、森へと体を向ける。そして再び歩き出した。
「えっと、どこかへ連れて行きたいのかな?」
貴博が女性の背中越しに聞くと、女性は、こくんとうなずいただけで貴博を引っ張って歩こうとする。
「わかった。袖を離してもらっていい? ついて行くから」
そう言うと、女性は袖を離し、森へと向かった。よたよたと。
貴博は、クラリス達に視線で指示を出す。
戦闘準備と。
何が起こるかわからないのだ。
クラリス達はいったん馬車に戻り、団服を着て出てきた。
女性は、後ろを気にすることなく森に入っていく。
その歩みは速くはない。
遅いかと言うと、普段のだらだらと歩くスピードに近い。
魔物もでてこないことだし、女性について行くメンバー達にも余裕が生まれてしまう。
リルは、きょろきょろと周りを見回しては、時々道からそれようとする。
それをルイーズが襟をつかんで止める。
「うーん。だってー」
「今はダメ」
「はーい」
リルはあきらめてまっすぐ皆について行く。
一番後ろはクラリスだ。取り戻した大鎌を担いでいる。
だが、やっぱり余裕ができてしまっているのか、時々大鎌を振り回して型の確認をしている。
「クラリス、危ないから」
ルイーズが注意する。
「すまんすまん」
と、大鎌を担ぎなおすクラリス。
女性は、カメがいた大きな池を左に見ながらさらに森の奥へと歩いて行く。
さすがに昼を過ぎてから数時間も歩くと、夕方が近くなる。
森の外に留めた馬車も心配になってくる。
馬車はサンタフェとカンタフェに見てもらってはいるが、万が一にも襲われた時に二人でどこまで対処できるか不安でもある。
「ねえ、どこまで行くの?」
と、貴博が女性に声をかけると、女性は、もうちょっと、と言うかのように、指を前方に向けた。
そうしてさらに数十分も歩くと、崖が前方に見えてきた。
そして、その崖には穴が。
「洞窟?」
貴博が疑問を口にするが、女性は気にせず中に入っていく。
貴博は、入る前に探査魔法を穴の中に向ける。
洞窟ではなく、単なる穴。
奥行は数十メートルしかない。
しかし、中が広がっていて、そして、ついて来た女性の他に魔物が一体。
ほら魔物じゃん。
と、貴博はどうしようか悩む。
とりあえず、ミーゼル達に視線を送り、注意を促す。
そうして、貴博は女性について穴に入った。
穴に入ると、まあ当然だが、
「ぐるるるるるる」
と、うなり声が聞こえてくる。
貴博が探査魔法を使ったために、魔物に気づかれて警戒されているのだ。
「イグニッション」
貴博が火をともすと、見えたのは、巨大なホーンラビット。
五メートル以上はありそうだ。
ミーゼル以下全員が警戒し、剣を抜いてかまえる。
クラリスも剣に持ち替えている。洞窟は狭い。
「ちょっと待って」
と、貴博がミーゼル達に剣をおろすように言う。
しかし、ホーンラビットの方が警戒を解いてくれない。
貴博達を警戒して視線を向け、そして、ぐるるるるる、と、うなり声をあげ続けている。
女性がホーンラビットの脇まで歩いて行き、そして、その頬をなでる。
すると、ホーンラビットはうなり声を上げることをやめた。
「怪我をしているのか?」
貴博がホーンラビットに声をかける。
ホーンラビットは答えない。
しかし、あちらこちらに傷があることは目に見えて明らかだ。
ホーンラビットの毛のあちらこちらに血がついている。
地面にも血が。
うーん。
貴博はどうしようか悩む。
そして、わからないことは女性に聞く。
「このホーンラビットを治せと言うことか?」
女性は無言でうなずいた。
わんも「突然出てきたサンタフェとカンタフェですが、もともとグレイスのお付きの妖精です。今は貴博に付き従っています。普段は貴博の団服のポケットの中とかです」
千里「わんも、大事なことを忘れているよ!?」
桃香「そうです。大事ですよ」
わんも「……?」
貴&真&千&桃&優&恵「「「「「「100万字、おめでとう!」」」」」」
わ「……あ、ありがとうございます! これも読んでくださる皆様のおかげです。皆様がいてくださるからこそ、楽しく書き続けられています。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします」
皆「ぺこり」




