再出発とキノコとカメとクラリスの大鎌(貴博と真央)
「北へ行くのはいいけど、どうする? もと来た道を戻るのは芸がないよね」
ここはナッカンドラ大陸のマリンスノー。
貴博と真央達、放課後木剣クラブは奴隷商会との争いの後、しばらく休み、ようやく旅を再開することにする。
その旅の目的はもちろん、千里や桃香、優香や恵理子を探すこと。
そのためにどちらへ行くかの相談をする。
「そうね。違う道を通るのもいいわよね」
貴博の問いかけにミーゼルが提案する。
放課後木剣クラブは大陸中央付近にあるアンブローシアからまっすぐ南に進んできた。
このマリンスノーはこの大陸の南端だ。
「通る街を変えた方が訪れる街も変わるし、情報もたくさん集まるんじゃない?」
ミーゼルのもっともな提案。
「私、海風を浴びて行きたいです」
結局、この真央の一言で道が決まる。
真央は海の街函館市の出身だ。
「じゃあ、西海岸を沿って北上しようか」
貴博がそう決める。
「「「はーい」」」
馬車はのんびり進む。
千里達を探すのに急ぎたいことは急ぎたい。
でもやりたいこともやりたい。
「はい休憩するよ」
「じゃあ、私達お昼の準備をするね」
ミーゼルとルイーズ、シーナが昼食の準備をする。
「僕らは森に入って来るよ」
貴博と真央、クラリスとリルは近くの森に入ることにする。
「おいしい奴を願いね」
ミーゼルが貴博達、食材調達グループへと要求する。
「リルは薬草取りに行くんだよね?」
貴博は、リルに確認する。
リルの趣味は創薬だ。
「はーい、そうです」
森に入るグループは、基本的に食材確保。
ただし、リルは創薬の薬草を探しに行く。
ちなみに、ホーンラビットやホーンウルフを狩ってギルドに持って行っても、「プラチナランクがシルバーやカッパーの仕事を奪うな」と、お小言を言われるので、それら低級な魔物は食用にし、討伐証明だけは大物と一緒に出すため保存しておく。
このメンバーでは、狩りをするのはクラリスと真央。
貴博は、薬草を探すため地面に集中するリルの護衛だ。
リルは、じっと地面を見ながら、歩いて行く。
時々、「あっ」と言いながら、薬草を見つけては摘んでいく。
そんなリルが、
「あっ、これ!」
と言ってつまんだのは、真っ赤な傘に白い水玉のキノコ。
「リル、それ、ダメなやつだよね?」
「え、違うよ。これも回復薬に使えるんだよ」
「そ、そうなんだ。一応本で確認してからにしようね」
「もう」
リルは口をとがらせ、キノコをかごに入れる。
実はリルはすでに実験済みだ。実験の検体はもちろん……。
「あ、こっちのキノコはスープになるやつ」
そう言ってキノコを集めていくリル。
貴博は、前世からキノコは店で売っているもの以外は信用しない。
しかし、リルは自信ありげなのだ。
出されたら食べなきゃダメだろうなー、と、思っている貴博の下へ、真央とクラリスがやってくる。
ちなみに貴博はすでにリルの手によってキノコを口にしているが。
「リル、薬草取れたのです?」
真央がリルに声をかける。
「うん。見てみて。キノコも取れたよ」
「ほんとなのです。でも、この毒々しいのは何です?」
「え? 薬の材料になるんだよ」
「なんのです?」
「回復薬?」
「何で疑問形なのです?」
「オプションだから」
「……」
真央は思う、オプションってなんだ、と。
それに前世では世情に疎かった真央であっても知っている。
このキノコ、食べると体が大きくなる奴だ。
言えないけど。
「そう言う真央とクラリスはどうだったの?」
貴博が二人に成果を尋ねる。
「それがな。ちょっと一緒に来てほしいんだ」
クラリスが真央に代わって言う。
「どういうことなの?」
「来てもらえばわかる」
「リル、薬草摘みはここまでにして、クラリスと一緒に行ってみよう」
「はーい」
四人は、さらに森の奥へと歩いて行く。
森を進んでいくと、小さな湖。
いや、大きめの池があった。
で、貴博は見つける。
「あ、カメの背中……」
そう。池の真ん中にある岩に乗って日向ぼっこをしている大きなカメの甲羅に、クラリスの大鎌が刺さっていた。
「そうなんだ。刺さったのはいいのだが、そのまま池に入られてしまって」
「で、どうしようか。近づいたら水に入られちゃうよね」
クラリスの言い訳に貴博が相談する。
「気づかれないように近づかないと」
「うーん」
貴博は、きょろきょろと周りを見回す。
ついでにカメを避けるように、気づかれないように探査魔法を広げる。
「誰もいないようだから、と」
貴博は、池の水面に手を向けると、
「フリーズ」
と言って、池を全面凍らせてしまった。
「お、おう」
クラリスはその魔法にドン引きだ。
「さあ、クラリス、取りに行こうか」
「え、大丈夫なんだろうな?」
もちろん、氷が割れないかの心配だ。
「大丈夫だよ。あのカメが乗っても割れないって」
「わかった。取に行ってくる」
クラリスは、意を決して池の氷の上に足を踏み出した。
ツルッ!
ベチッ!
クラリスは顔から氷に落ちる。
「クラリス、若返ったと思ったらやることまでかわいくなって」
リルがつぶやく。
「いたたたた。リル、ポーション」
「はいはい」
リルはクラリスにポーションを渡す。
クラリスがポーションを飲み干すと、顔にういた赤みが引いて行く。
この程度の怪我であっても、貴博が治癒魔法をかければいいだけなのだが、リルが趣味でポーションを作っていてそれをいつも余らせている。
よって、パーティとしてポーション優先の回復となっている。
こうして、リルの実験は進んでいく。
「リルのポーションは本当によく効くよ。痛みも取れるし」
「ほめてくれてありがとう。でも、カメ、逃げたよ?」
クラリスがカメを見ると、岩からカメが降りていた。
しかし、そこから先が滑って進めていない。
「リル、もう一本ポーションくれる?」
「はい、どうぞ。センセ」
リルは貴博にポーションを渡す。
「ありがとう」
貴博は、ポーション片手にカメに近づいて行く。
カメは滑って逃げることができない。
貴博は、カメに近づき、その甲羅の上に飛び乗ると、大鎌を引き抜いた。
そのついでにと、大鎌が刺さってできた穴にポーションを流し込んだ。
すると、亀の甲羅の穴が少しずつ閉じていった。
「これで、水が入ったりしないだろう。それじゃな」
と言って貴博は甲羅から飛び降り、大鎌をもってクラリス達の下へと戻った。
「えっと、ポーションって、カメにも効くんだね」
リルが感心する。
「自分で作ったんじゃん」
「そうだけどさ。ちょっとびっくり」
「で、お肉どうする?」
と言いつつ、池にはった氷を溶かす貴博。
バッシャーン!
と、カメが水に落ちた。
決してカメを食べたいわけではない。
「戻りながら魔物や野生動物を探して、見つからなかったらキノコ汁じゃないか?」
クラリスが提案する。
「何とか見つけよう」
「そうなのです」
あやしいキノコより肉が食べたい貴博と真央。
貴博は探査魔法を大きく広げた。
結局、野生の鳥を何羽か捕まえてミーゼルたちの待つ馬車まで戻る。
「センセー、遅いー」
ミーゼルから苦情が入る。
ミーゼルとルイーズとシーナはと言うと、昼食の用意をしていたものの、材料となる肉が届かないためにそれを中断し、暇を持て余したために木剣を手にして訓練をしていた。
「ごめんごめん。クラリスが大鎌を無くしそうだったから取りに行ってきたんだ」
クラリスはすまんすまんと謝っている。
「まあいいわ。じゃ、お肉をさばいて鍋に入れてよ」
ミーゼルはそう言うと、再び薪に火をつけた。
「ふー、お腹いっぱい」
ミーゼルが椅子の上で伸びをする。
「よーし、腹ごなしなのです」
真央は木剣を取り出し、
「リルー、やろう」
「うん」
と、二人で草原へと走っていく。
「貴博もやるだろ?」
そう問いかけるクラリスに。
「うん。ちょっと待っていて、ごみを処分しちゃうから」
と、貴博は土魔法で穴を掘り、ごみをほおりこんで火をつけた。
それが燃え終ると再び土魔法で埋める。
「よしクラリス、やろう」
貴博とクラリスも木剣をもって行く。
ミーゼルも、ルイーズとシーナも、食事前に木剣をさんざん振ったので、休憩だ。
カンカンカン、カンカンカン
木剣が打ち合わさる音が響く。
その心地よい響きを聞きながら、ミーゼルはすっと目を閉じた。
わんも「貴博と真央編、ものすごい久しぶりです。ep.103の続きとなります。なので、少し補足を。まず、貴博=センセ、です。貴博達、冒険者パーティ放課後木剣クラブは、アンブローシア帝国帝都からまっすぐに南に下り、マリンスノーに到着。そこでいろいろあったところです。今はそのマリンスノーから旅に再開したところ。マリンスノーは最南端なので、そこから西海岸を北上しているところになります」
貴博「八か月以上ぶりってこと?」
真央「私達のこと、忘れられているかもです」
千里「センセのこと、忘れるわけがないじゃない!」
真央&桃香「「……」」
優香&恵理子「「違うお話じゃありませんからね。センセと真央ちゃん編も楽しんでください」」
貴&真「「よろしくお願いします」」




