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自由人、ドラゴンを拾う(千里と桃香)

「おい、汚いな。まあいいか。酔っぱらいなんて、そんなもんだ」

「もう。そうじゃなくて、それで?」

「俺らはタカヒロに負けた腹いせに、そんな悪評を広めないようにと、壁を粉々にしてやった」


 ブフッ!


「あんた達も共犯じゃない」

「いいんだよ。こっちは妹を攫われたんだぞ。それくらいやっても許されるって」

「今やったら許さないけどね」

「何でだよ」

「あそこ、私らの家になったから」

「な、何で? そういえば、戦争はどうなった? 公爵、軍を率いて出て行ったろ? あれ、勝ったのか? 負けたのか?」

「どっちでもいいの?」

「俺らは冒険者だからな。政治のことはわからん。トップが誰でもまあいいかなって。でだ。何であそこがお前らの家になった?」

「この国の国王様が報酬としてくれたわ」

「じゃ、ヘブンリー公爵は?」

「死んだわ。国王軍を裏切って、国王軍の後ろから攻め込んだのよ」

「……マジか。じゃあ、もしかしてお前らが公爵様?」

「違うわ。この街は自治領になったの」

「治めるのがお前たち?」

「違うわ。スミスよ」

「代官を呼び捨てかよ。代官を立てているってことは、やっぱりお前らじゃんか」


 グスタフがぶつぶつ言っているところへ、


「千里様、桃香様、宿が確保できました」


 ヨンがギルドに入って来て千里に報告する。

 しかし、ヨンはそれだけ言って固まる。

 何でみんなで飲んでいるんだと。


「ヨン、みんな呼んで。こちら、プラチナランクAの冒険者グスタフ様。今日はおごってくれるって。みんなでよばれよう」

「お、おい」

「プラチナランクA様だもん。持ってるよね」

「くそっ。マウラ、酒もってこい!」

「はーい!」


 すでに飲んでいたマウラが酒を取りに立ち上がった。

 結局、クサナギゼットの宴会になった。

 途中、ミーとキーがグスタフを連れて行った。

 あれはむしり取られるな。

 誰もがそう思った。




 そこへギルマスが外から帰ってくる。


「誰だよ。ギルドで宴会している奴は」

「はーい、グスタフさんでーす」


 千里が手を上げて報告する。


「お、おい、俺だけのせいにするな」


 グスタフがミーとキーから逃げてきた。


「今日はグスタフさんのおごりでーす」

「なんだと?」


 ギルマスはグスタフに確認することなく、マウラに命じる。


「マウラ、俺にも持ってこい」


 あはははは。


 宴会は盛り上がる。


「ところで、ケルベロスって」


 千里が気になっていたことを聞く。


「俺らも知らないよ。はじめから連れていたぞ。しかも、ケルベロスはおとぎ話の中だけで出てくる生き物だし、悪魔の従者って呼ばれている。それで、クサナギは悪魔扱いされたんだ。そのせいでな、この国を追われちまった」


 グスタフは続ける。


「本人達がどう思っているかわからんけど、逃げるって選択をしてくれたおかげでこの国の騎士や兵士達が死ななくて済んだんだよ。あいつらが本気を出したらすべてが灰燼に帰すからな。なにせ」

「「ドラゴン族を従えし勇者」だからな」


 ギルマスとグスタフがはもる。


「ギルマス、ギルマス」


 グスタフがギルマスに声をかける。


「このクサナギゼットにもドラゴン族がいるらしいぞ?」

「マジか。クサナギと言い、クサナギゼットと言い、どうなってんだか」


 ギルマスが呆れる。

 そこへグスタフが千里に確認する。


「それで、西に行くって言っていたよな」

「うん。あの山脈を越えようと」

「あの山脈を? まあ、お前達なら行けるんだろうな。ワイバーンの営巣地があるから、それだけ気をつけろよ」


 ギルマスが忠告をする。


「うん。ありがとう」

「それと、森の中は馬車が通れないから、馬車はマイナンの街に置いて行くことをお勧めする」

「わかった。そうする」




 翌日。クサナギゼットは、ヘブンリー改めシエルを後にする。

 そして、マイナンで馬車を預け、森に入る。何日かをかけて森を抜ける。


「千里さん。ワイバーンの巣が山肌のあちらこちらにありますね」

「本当だね。刺激しないように遠回りしながら行こうか」


 クサナギゼットの面々は、千里と桃香も例外ではなく、リュックを背負っている。

 クサナギゼットは慎重に山を登って行き、そして、山頂にまでたどり着く。


「桃ちゃん、見てみて、また森だよ。その向こう、海だね」

「そうですね。あのあたりに優香さん達が育ったところがあるんでしょうか」


 そう、二人で景色を眺めていると、他のメンバーが瞬間的に警戒した。


「珍しい奴がいるじゃないか」


 赤髪の女性がそこに現れたのだ。


「ルビーか?」


 フローラが確認をする。


「えっと、お前は……」

「フローラ、そう呼んでくれ」

「フローラ。お前、生きていたんだな」

「まあ、ちょっと引きこもっていただけだ」

「お前も私と同じく、一族一人になってしまったから、心配していたんだぞ」

「そうか。ありがとう。まあ、見ての通り無事だし、元気にしているよ」

「ところで、フローラもネフェリやリピーのように人間に従っているのか?」

「ああ。この千里と桃香に命を助けてもらった。娘もな。だから、この者達の寿命くらいは、従うと決めている」

「そうか。ネフェリとリピーも同じことを言っていたよ」

「ねえ、ネフェリとリピーって?」


 千里が二人の会話を遮って聞く。


「ああ、緑ドラゴン族の二人だ。この西で育った二人に従っているドラゴン族だ」

「へー、優香さんと恵理子さん、緑ドラゴン族と一緒にいるんだね」

「ユウカサン? エリコサン?」


 ルビーが聞く。


「タカヒロとマオ」

「そうか。お前達はそう呼んでいるんだな、あの二人を」

「まあね。で、貴方は?」

「赤ドラゴン族のルビー」

「そう。ルビー、よろしく。私は千里。こっちは桃香」


 桃香がぺこりとする。


「ところで、ここで何しているの?」

「眷属であるワイバーンの様子を見ているんだ」

「へー。何があるの?」

「何もないように見ているんだ」

「じゃ、何もないのね?」

「……今のところな」

「これからも?」

「ないかもしれん」

「じゃあ、ちょっと付き合って」


 でたよ、自由人が。


「私達、この先に行くんだけど、一緒に行かない?」

「言っただろう。私はここでワイバーンを見ていると」

「でも、何もないんでしょ。暇でしょ。ちょっと付き合いなさいよ」

「お前、人間族のくせにドラゴン族に対してその態度」


 ルビーのイラつきに、フローラがなだめる。


「あきらめろ。千里はこういう奴だ。それにな、千里も桃香も私より魔力量が多いぞ?」

「は? ドラゴン族より多い?」

「おかげで助けてもらうことが出来たんだがな。それに、我らより魔力量が多いってことがどういうことかわかるだろう?」


 ルビーが千里と桃香を見やる。

 魔力量が多いということは、体の中にマイナス距離の魔法を撃ちこまれるということ。

 逃げ場はない。


「……ちょっと興味がわいたよ。少しだけ、付き合ってやる」

「ありがとね。お願いしたいことがあって」

「なんだ?」

「この荷物もって」

「んがー! 荷物もちかい!」

「冗談。冗談だって。でも、今後はフローラみたいに背負ってもらうからね」

「……」

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