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女神の自治領シエル(千里と桃香)

 こうして、千里達は何とか十日目にはヘブンリーに到着した。


 クサナギゼットも千人の女子供もマークスとルークスについて、屋敷へと向かう。

 屋敷は、大きな白壁に囲まれた、さすがは公爵家、と言わんばかりの荘厳さであった。

 屋敷の門をくぐった先にある庭も広く、千人が入ってもまだ余裕がありそうた。


 屋敷の玄関にクサナギゼットの馬車を乗り付けると、屋敷から飛び出してきた男がいた。

 ヒックリだ。


 馬車から降りた千里と桃香に向かって駆け寄るヒックリ。


「父上は、父上はどうした」


 そう言って、ヒックリは千里に詰め寄った。

 しかし、次の瞬間、


 ザシュッ!


 と、ヒックリの首が飛んだ。

 マークスが剣をふるったのだ。


「千里様、申し訳ありません。見苦しいものを」

「えっと、ちょっとびっくりしたけど?」

「どのみち公爵家は全員が処刑されますので、この場でも同じかと」

「ごめん、いいのか悪いのかわからない」

「いいのです。元々このヒックリと言う男は、悪いうわさが絶えませんでしたから」

「もしかして、幼女誘拐事件の?」

「……そうです」

「じゃあいいか」


 屋敷から次いで出てきたのは公爵夫人と家令。

 マークスは家令に指示する。


「この豚を始末しておけ」

「は、はい!」


 さらにそれを見て驚愕し、膝をつく夫人に対してマークスは告げる。


「ヘブンリー公爵家は国を裏切った。よって、あなたも処刑されます。ここで死にますか? それとも見せしめにされた上で死にますか?」


 と。


「さすがにそれはひどいんじゃないの?」


 千里は一応マークスにそう聞いてみる。


「いえ、国を裏切った一族など、そうすべきです。再発防止のための見せしめです」

「じゃあ、私がもらっていい?」

「千里様がそうおっしゃるなら仕方ありませんが、本来は殺すべきです。いつ裏切られるかわかりませんよ?」

「私達を裏切ったら、塵すら残さないけどね」

「それはそれで怖いですね」


 その千里とマークスのやり取りをを聞いていた夫人は、


「裏切りません、裏切りませんから。誠心誠意努めさせていただきますから」


 と、泣いて額を地面につけた。


「あなた、名前は?」

「ベルキア、ベルキアでございます」

「じゃあ、ベルキア、命じます。この千人の内、女性には仕事を。子供達には教育を」

「は、はい。承知しました。ですが、貴族でもなんでもなくなってしまった私にどのようにしたら」

「そのあたりは代官と相談するわ。代官はいる?」


 千里が家令を見ると、


「呼んでまいりますので、応接室でお待ちいただきたい」


 そう言って家令は慌てて千里に背を向けた。


「わかった。急げ」


 マークスがその背に命令した。




 応接室で千里と桃香がマークス達と待っていると、ドアがノックされる。


 トントントン


「入れ」


 マークスが声をかけると、


「代官のスミスと申します」


 と、スミスが部屋に入ってきた。


「スミス、率直に言う。この領を治めていたヘブンリー公爵が国を裏切ったため、一族を処分する。ただし、夫人を除いてな」


 スミスは驚いて声が出ない。

 しかし、そうも言っていられない。

 マークスが国王からの手紙をスミスに渡したのだ。


「こ、これは、国王からの手紙?」

「いいから読め」


 スミスは手紙に目を通す。

 しかし、目が点になる。

 そこに書かれているのは、「その領はクサナギゼットの自治領にする。絶対に潰すな。後は任せた」それだけだった。


「こ、これは?」

「まあ、わからんだろうな。簡単に説明するぞ。今回の戦の際に、我が国、アストレイアはエルフの国シルフィードの属国となった。そこにいらっしゃるお方がそのシルフィードの姫様、ローレル様だ。つまり、うちの国王よりよっぽどか上のお方だ」


 マークスがまずはローレルをスミスに紹介する。

 スミスが固まる。だが、マークスは気にせず説明を続ける。


「それで、そのエルフの姫様を従えているのが、そちらの爆炎の女神と雷鎚の女神だ」

「「ブーブー」」


 千里と桃香が文句を言う。

 だが、マークスは知らん顔だ。


「この二柱の女神様が率いている冒険者パーティがクサナギゼット。ローレル様もそのメンバーだ。つまり、この領は、女神の自治領となった。絶対に潰すな。発展させろ。そう言うことだ。それをスミス、きみに丸投げする」


 スミスの膝が震える。

 しかし、スミスは今のマークスの説明を聞いて同じく震えている夫人を見つける。


「あの、ベルキア様も処刑に?」

「あの女に様付けはいらん。あの女は千里様が引き取ると言った。だから、千里様直属の従者だと思えばいい。ちなみに、すでに役割を与えられている」

「女神の直属って、様をつけなきゃダメじゃないですか?」

「いや、いらん。もともと罪人だ。いつ殺されてもおかしくないような立場だ。だが、千里様から役割を与えられている以上、協力してやれ。いいな」

「はい」

「何か確認することはあるか?」

「自治領と言うことは、税金は?」

「納めなくていい。千里様と桃香様の金だ。二人のために使え、貯めろ」

「えっと、それから、女神様方は?」

「基本的にここにいない。だからスミス、お前にすべてかかっている」

「この領の騎士達はどうなったのですか?」

「まあ、国王に刃を向けたんだからな。戻ってこないと思っていいぞ」

「そんな。では、もしどこかから攻められたら?」

「そんなことしてみろ、爆炎と雷鎚で塵も残らん。そんなことをする輩がいると思えん。一番怪しいのは西のマイナン伯爵か? あれはヘブンリーと仲が良かったからな。まあ、国王から通達が行くだろう。大丈夫だと思うぞ」


 後日の話だが、千里達の自治領によって飛び地になってしまったマイナン伯爵は、その恐怖に耐えきれずに国王に忠誠を誓ったうえで配置換えを願って逃げ出した。

 そのため、マイナン領も自治領に組み込まれることになった。




「ところで、女神様方」


 マークスが千里と桃香に声をかける。


「何?」


 もう、女神で返事しちゃってるよ。

 そう思う面々。

 千里も桃香も飽きかけているだけだ。


「この自治領の名前ですが、変更した方が良いかと思うのですが?」

「え、名前変えるの?」

「例えば、千里の国、とか」

「バカにしてるでしょ」

「いえいえ、そんなつもりは全くなく」

「いいわよ、ヘブンリーで。天国っぽくていいじゃない」

「ですが、それは罪人の名前です」

「じゃあ、シエル。それで」

「承知しました。今日この時より、この領を女神の、クサナギゼットの自治領とし、その名をシエル。そうしましょう」


 マークスがそう宣言した。


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