シルバーと猫耳、危なげもなく準決へ(優香と恵理子)
闘技場に着くと、当然ながら予選会以上ににぎわいをみせている。
また、賭けの方も多くの人が熱中している。ミリー達もしかり。
「それじゃ、頑張って来てね」
と、恵理子はミリー達と一緒に優香とリーシャを残して観客席へ移動していく。
「リーシャ、選手控室はこっちみたいだけど」
「私、着替えてから行くわ」
「着替える?」
リーシャは頭の左右を指さした。
「じゃあ、先に行ってる」
優香が控室に入ると、すでに何人もの選手が待機していた。ざっと見渡すと、騎士服を着ている者が多い。また、そうでないものは、冒険者か。まあ、この世界、強いものは騎士として勤めるか、勤めるのが嫌なら冒険者だろう。かくいう自分も冒険者である。
どうしたもんかと、壁に寄りかかって腕を組んでいると、一人の冒険者風の男が声をかけてくる。
「おいシルバー、今日、猫娘はどうした?」
嫌な予感。
「もうすぐ来ると思うけど」
「そうか」
それだけ言って、冒険者は去っていった。
控室にリーシャが入って来る。
その頭には、シバトラの被り物が。
「タカヒロごめん、女子の控室、あっちみたい。向こうに行くね」
と、リーシャが出て行った。
女子の控室? ということはここは?
優香は、くるりと壁に向き、壁におでこをつけて立ち、部屋の中を見ないようにと目をつむった。
「それでは、会場入りします」
と、係員が声をかけに来た。
優香は、誰よりも早くそそくさと廊下へと出る。
そして、係員にしたがって、闘技場へと足を進めた。
「お待たせしました。それでは武闘会を開催します」
アナウンスが闘技場全体に響く。
「国王様、一言お願いします」
「楽しませてくれ」
「ありがとうございます」
あっさりと国王の挨拶が終わる。それはそれですがすがしい。優香は思う。
「早速ですが、抽選を行います。まず、Aブロック……」
「リーシャはBブロックなんだね。対戦相手はプラチナパーティの冒険者?」
「うん。そうみたい。タカヒロは大丈夫なの? この国の近衛隊長ってかなり強いんでしょ?」
「騎士団の人はみんな強そうだけどね。
などと雑談をしていると、アナウンスがかかる。
「それでは、Aブロックの皆さま、ステージにおあがりください」
ステージは闘技場に四つ用意されており、先にAブロック四組の試合が行われる。
「行ってくるね」
「頑張って」
優香がステージの上に立つと、目の前から近衛隊長がやって来た。とはいえ本当に近衛隊長かどうか、優香は知らないが。
「近衛隊長をしているマークス・フィンだ。今日はよろしく、シルバー」
「シルバーランクの冒険者パーティクサナギ、僕はタカヒロだ」
「威勢がいいね、シルバー」
「タカヒロだっているだろう?」
「まあ、俺に勝ったら覚えてやるよ」
うーん。なかなか名前を売らせてくれないな。まあ、まだ初戦だし。
「それでは準備いいですか? 行きますよ。それでは第一回戦! はじめ!」
開始の合図がかかり、優香が剣をかまえていると、マークスも剣をかまえたまま立っている。
「おい、やる気あんのか? 胸を貸してやるんだ。来いよ」
マークスが優香を誘ってくる。
まあ、そうか。こっちが格下だし仕方ないか。
「では、お言葉に甘えて、行きます」
優香は、いつものように低い位置から踏み込み、剣を右下から切り上げる。
「よいしょ!」
と、マークスはその剣に合わせて上段から振り下ろしてくる。
ガキィ!
下からの優香の剣と上からのマークスの剣がぶつかり合う。
優香はその勢いのまま、体を反時計回りにくるりと回してマークスの右横腹へと切り付ける。
マークスはそれも剣で受け止める。
「おー、やるね。でも、騎士団のきれいな剣じゃないな」
「もともときれいだったんですけどね、いろんなものが混ざりました」
優香はバックステップをして距離を開ける。
「じゃあ、今度はこっちから行くよ」
マークスは上段に構え、突進してくる。
ガキン、ガキン、ガキン……
優香は、受ける、受ける、受ける。
「ほう、これだけ受けても平気なのかい。うちの隊に欲しいくらいだ」
何を言ってるんだか。優香はそう思う。
リーゼロッテの打ち込みはこんなんではなかった。
「わかりました。では、終わらせます」
優香は、剣をさやに納め、二本のナイフを取り出す。
「何がわかったんだ? で、ナイフでやるって?」
「あなたの強さです。では、行きます」
優香は、マークスに向かって飛び込む。
マークスはそれに合わせるように切り込む。
が、優香がさらにギアを上げてマークスの懐に飛び込む。
マークスが剣を振りきる前に懐に入り込んだ優香は、ナイフの柄をみぞおちに叩き込んだ。思いっきり。
「グハッ」
マークスが倒れこんだ。
優香は、マークスののど元にナイフを突きつけ、
「審判。終わりです」
と、自分の勝ちを主張する。
「勝者、タカヒロ!」
と、審判は優香の勝利を宣言した。
優香はリーシャの下へと戻る。
「お疲れ様。危なげなかったわね」
「そんなことはないよ。相手が油断してくれたからこそかな」
「まあ、シルバーだもんね」
「あはははは。でも、リーシャなんて無名な猫娘じゃん?」
「それではBブロックの皆さま、お願いいたします」
Bブロックのリーシャが呼ばれる。
「それじゃ、行ってくる」
「頑張って」
リーシャが闘技場のステージへと向かって行く。
「よかったよ、子猫ちゃんと当たらないんじゃないかと、ドキドキしてたんだ」
「えっと、誰?」
「あはははは、プラチナ冒険者のザンギだ。覚えておいてくれ。うちのパーティに入ってもらいたいしな」
「えっと、私冒険者じゃないし?」
「なればいいだろう」
「それに、きっとカッパーからよ」
「構わん。アイドル枠だ」
「……お断りするわ。入るパーティは決めているの」
「クサナギか? おそろいで着やがっていい気なもんだ。俺が勝ったらうちのパーティな」
「いやよ」
試合開始のアナウンスがかかる。
「それでは、よろしいですか。Bブロック、始め!」
リーシャは団服から槍を取り出す。
「槍かよ。自分の彼の動き見なかったのか? ナイフの方が速いぜ」
と、ザンギはナイフを持ってリーシャに向かって突進してくる。
それに対して、リーシャは槍の突きを繰り出して接近を食い止める。
しばらく、応戦が続く。
が、ついに、リーシャの槍が切り上げられる。抵抗もなく。
いや、リーシャのフェイントだ。
よって、切り上げたはずのザンギのナイフが抵抗を失い、勢い余って浮く。
「ごめん遊ばせ」
リーシャは自ら槍を手放し、ザンギの懐に踏み込むと、右こぶしをザンギの腹に撃ちこんだ。
さらにリーシャはナイフを取り出し、ザンギの首に刃を当てる。
ちらっと、審判を見るリーシャ。
「勝者、リーシャ!」
「「「おー」」」
「「「ねっこみみ! ねっこみみ! ねっこみみ!……」
妙な掛け声が会場から上がる。
二回戦
「坊やがあたしの相手なんてね」
やたらごつい女性が優香の目の前にいる。
「近衛隊長の方が強かったわー」
と、蹴り一つで場外に吹っ飛ばす。
「猫耳、やりたかったぜ」
「猫耳猫耳うるさいわー」
と、槍の柄を使って殴り、吹っ飛ばす。
「準決勝の相手、誰?」
リーシャが優香に聞く。
「騎士団長らしい。ユリア・ランダースって、フルプレートメイルの人。女性?」
「あ、控室にいたよ。女性だね。すごいね、女性で騎士団長って」
「そうだね。でも、全身鎧か。剣かな、ナイフじゃダメだろうし。ハンマーもってこればよかった。リーシャは?」
「ギルマスらしい。冒険者の頂点なのかな」




