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ローレルの戦い(千里と桃香)

「よし! 抜けた!」


 ルージュとフォンデは三万の帝国軍の中央を駆け抜け、皇帝の前へと出た。

 それに続いてローレルも。


「ルージュ、フォンデ、取り巻きを頼む。私はあれをやる」

「「ご武運を!」」

「そう思うなら、早めに終わらせて助けに来い」

「「はっ!」」


 ルージュとフォンデは左右に別れ、悪魔となっている皇帝の左右に構える騎士達に向かっていった。


「あんた皇帝だっけ? その醜い姿はなに?」


 ローレルがサザンナイトの皇帝、悪魔に声をかける。


「は? お前は誰だ? エルフだって言うのはわかるがな」

「私は、ムーランドラ大陸エルフの国シルフィードの姫、ローレル。属国アストレイアを守るため、宗主国としてお前を倒す!」


 ローレルが両手剣を構える。


「属国だと? ほぉ。そんなことになっているのか、じゃあ、お前を倒せばエルフの国もアストレイアも手に入れられるってことだな? わかりやすくていい」

「やれるものならな」

「じゃあ、行く……」


 皇帝がひときわ大きな、悪魔用の片手剣を右手に構える。


 ガキン!


 突然皇帝が消えたと思ったら、かまえた剣ごとローレルは突き飛ばされた。


 ズササササー


「グハッ!」


 ローレルは地面を転がって何とか止まる。


「おいおい、弱すぎるじゃないか。それで私を倒すと?」

「はぁはぁはぁ」


 ローレルは答えることが出来ない。一撃でそこまで追い詰められた。


 何だ今の速さは。

 突然目の前に剣が現れた。

 自慢のスピードでも負けか。

 確かに、セーラの兄の時とは比べ物にならない。


 だが、ローレルは立ち上がり、剣をかまえる。

 しかし次の瞬間、


 ドゴッ!


 ローレルの横腹に悪魔の蹴りが突き刺さる。


「グワッ!」


 ゴロゴロゴロ


 ローレルが転がっていく。

 しかし、剣を支えに何とか立ち上がるローレル。


「お前じゃ相手にならん」

「貴様に負けるわけにはいかないんだ。宗主国の姫として、そして何より、千里と桃香の弟子として、千里と桃香の剣として!」


 もう悔しい思いはしない。千里と桃香の役に立つ。剣になる。


 ローレルは悪魔に対して猛然とダッシュする。


 背の高い悪魔に対し、ローレルは剣を振る。

 しかし、ローレルの剣は空ぶってしまう。


 ガツッ!


 ローレルの顔に悪魔の左こぶしが入り、ローレルは吹き飛ばされる。

 どうしてもリーチが違うのだ。

 しかし、ローレルは口から血を流しながらも立ち上がる。


「弱い。それに、軍隊の方も、こっちが完全に押している。やはり数は力だ」


 そう言った悪魔はまた、瞬時にローレルに詰め寄り、ローレルの腹に左こぶしを叩き込んだ。


「グヘッ!」


 ローレルは、胃から何もかもを吐き出す。

 そして、膝をついてしまう。


「おいおい、姫様、そんなんでいいのか?」


 そう言って、悪魔はローレルの頭を左手でつかんで持ち上げた。


 目の前にまでローレルを持ち上げた悪魔は、ローレルの顔を覗き込む。

 ローレルのその目はまだ死んでいない。悪魔を睨み返す。


「まだ負けてない」


 ローレルは悪魔につばを吐きかけた。


「エルフの姫は下品だな!」


 ドゴン!


 そう言って、悪魔はローレルの顔を地面にたたきつけた。

 悪魔は、再びローレルの頭をつかんだまま持ち上げる。

 顔が血と泥で汚れたローレルは悪魔に告げる。


「おい、筋肉魔導士にできて私にできないことがあると思うか?」

「何を言っているんだ?」


 そう言う悪魔の左手首、ローレルの頭をつかんでいる悪魔の左手首をローレルは両手でつかみ、足を振り上げて、悪魔の腕に足で絡みついた。


「捕まえた」


 ローレルはニヤリと笑う。

 そして、


「インフェルノ―!」


 と、炎魔法を唱えた。


 悪魔の足元が赤く光り、炎が空に向かって立ち上がった。

 その炎は、ローレルごと悪魔を飲み込んで燃やしていく。


「グワー」


 悪魔はその炎から逃げようとする。

 しかし、悪魔が動いても炎がついてくる。


「悪いな、悪魔よ。この炎はお前を焼いているんじゃない。私だ。だから、私をつかんでいる以上、お前も燃える。どっちが先にへばるか勝負だ!」


「は、離せ!」


 炎の中で悪魔は剣を離した右こぶしをローレルに叩き込む。何度も何度も。

 しかし、ローレルは悪魔の左腕を放さない。

 殴られるたびにローレルの顔が苦痛にゆがむ。

 離してはいけない。このまま燃やし尽くす。

 ローレルは炎を燃やし続ける。


「いい加減に火を消せ!」


 悪魔はローレルを殴り続ける。

 しかし、ローレルは負けない。


 何があっても負けてはいけない。

 千里と桃香が私を見ている。

 もう二度とあの二人に悲しい思いをさせない。

 二人を助ける。二人の力になる。だから絶対に負けない。

 私は千里と桃香の騎士なんだ!


 悪魔は気づく。

 自分の髪は焼け、肌はだたれていく。

 しかし、ローレルの髪は肌は全く焼ける様子がない。


「なぜおまえの髪は焼けない!」

「だから言ったろ。筋肉魔導士にできて私にできないことはないと」


 当然、サザンナイトの皇帝がカイナーズの女王、セーラのことを知っているわけがない。


 一見無事に見えるローレルも実は危険な状態には変わりはない。

 自身にヒールをかけ続けているのはやけどの部分だけ。

 悪魔に殴られ続けている顔も体も傷つき続け、そして、何より、炎の中では酸素がない。


 ローレルが気を失わないよう、歯を食いしばり……。

 それでも、もうだめか、と思った瞬間、悪魔がついに膝をつき、前のめりに倒れた。


 勝った。


 ローレルがそう思った瞬間、ローレルにも限界が来た。

 炎が消え、ローレルの意識が遠ざかろうとする。

 倒れたままのローレルが見たのは、全身が焼けただれながらも立ち上がろうとする悪魔だった。


 ローレルは、再び歯を食いしばり、腕で体を支えて立ち上がろうとする。

 しかし、すでに魔力も体力も限界を迎えている。

 立ち上がれないでいるローレルの前で悪魔が立ち上がる。


「貴様、絶対に許さん!」


 そう言って、悪魔は足を持ち上げローレルを踏みつぶそうとした。

 その瞬間。


「「ローレル様!」」


 ザシュッ! ザシュッ!


 悪魔に左右から大鎌が振られる。

 ルージュとフォンデだ。

 二人が大鎌を振りきった。

 ルージュの大鎌が皇帝の胸をえぐり、フォンデの大鎌が皇帝の首を切り落とした。


 ああ、ルージュにフォンデ、最後においしいところを。

 そして、

 自分では最後まで倒しきれなかった。


 そう思いながら、ローレルは気を失った。




「フローラ!」


 ローレルの戦いを遠目に見ていた千里がフローラを呼ぶと、フローラはドラゴン形態になって超低空で千里のところまで飛んできた。

 千里は、飛んでくるフローラの背に飛び乗り、ローレルの下へと向かう。


 フローラから飛び降り、ローレルの下に駆け付ける千里。

 まずは、ローレルに治癒魔法をかける。


「メガヒール!」


 ローレルの傷が治っていくが、ローレルの意識はまだ戻らない。

 千里は、自分がやっていいものか悩んだが、今は戦いを止めたい。

 そう思い、皇帝の頭を手にし、フローラに再び飛び乗る。


「フローラ、戦場の中心へ」

「はい!」


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