開戦と裏切りと(千里と桃香)
王国軍の先頭に立つのは、漆黒の団服に身を包んだ八人。
その団服の中は今やクサナギゼットの戦闘服となった黒のセーラー服。
「時間は?」
千里が正面を見つめたまま聞く。
「あと十、九、八……」
レオナがカウントダウンを始める。
「四、三、二、一、時間です!」
「ルージュ、フォンデ、走れ!」
「「はっ!」」
ローレルの指示にルージュとフォンデは飛び出し、ローレルはその後を走っていく。
ルージュとフォンデは、両手にナイフを持ち、敵兵の剣をパリィしながら並んで走っていく。いちいち倒している余裕はない。
その後ろをローレルが続く。
ローレルは、ルージュの後ろだったり、フォンデの後ろだったりと、狙われないようランダムについていく。
敵軍は横に広がっているとはいえ、それでも分厚い。
ひたすらルージュとフォンデは走っていく。
ガキンガキン!
騎士の剣とルージュ、フォンデのナイフが合わさる音が響く。
「スピードを落とすな! 走れ!」
「「はいっ!」」
走れ走れ走れ!
一方の千里と桃香、フローラは、攻め込んでくる敵国騎士をひたすら殴って、ひたすら蹴って沈黙させていく。
フローラにいたっては蹴り飛ばした騎士を他の騎士にぶつけて足を止めていく。
しかし、相手は三万。
千里達が相手をできるのは目の前の騎士だけで、左右に大きく広がった騎士達は素通りさせてしまう。
「お前達! 後ろに行かせるなよ! 国王を守れ!」
マークスが剣を振りかざし、声を上げる!
「「「「おー!」」」」
王国軍からも大きな声が上がる。
両国軍がぶつかる。戦場ではただ剣と剣がぶつかる音が鳴り響く。
「粘れ、粘れ、粘れ! 今は一人当たり三人だが、時間を稼げ! ヘブンリー公爵軍がこれば、たった二対一にかわる! それまでもちこたえろ!」
「「「「おー!」」」」
「ルシフェ、レオナ、下がって! 王国軍の兵士にヒールを!」
千里が指示を出す。
「「はい!」」
二人が王国軍の中へと下がっていく。
レオナは、傷ついた兵士を見つけてはそばに寄り、手を当てヒールをかけていく。
一方のルシフェは、怪我人を見つけては、治癒魔法を飛ばしていく。
レオナはルシフェとの技術の差に悔しい思いをするが、今はそんなことを考えている暇はない。一人でも多く回復させれば、それだけ長く持ちこたえられるのだ。
「お前が治癒魔導士か!」
ルシフェが敵国騎士に目をつけられ、剣を振り下ろされる。
ガキン!
レオナがその剣をナイフで受ける。
ガキンガキン!
レオナと騎士が打ち合う。
が、長くは続かない。
ザシュッ!
騎士の背にアイスランスが突き刺さった。
レオナだ。
「ルシフェ、大丈夫?」
「大丈夫。レオナ、ごめん」
「謝んないでいいから。騎士達の治癒をお願い。貴方は、先生は私が守るから!」
とはいえ、両軍は横に広がってぶつかっている。
ルシフェの認識できる範囲なんて、たかが知れている。
両サイドでは動けなくなっている怪我人、死人が出ているはずだ。
「ルークス、左へ! 私が右に行く」
「わかった兄さん。気を付けて!」
「お前もな!」
マークスとルークスも薄くなってきている両サイドへフォローに向かう。
最後尾で戦況を見守る国王。それとジョセフィーヌとミケ。
だが、次の瞬間、後ろを振り返ることになる。
ドドドドドド
地鳴りが後ろから近づいてくる。
「国王陛下! 遅くなりました」
馬に乗って走ってきたのはヘブンリー公爵。そしてその軍。その数五千。
それに気づいた国王軍の兵士たちは、
「ヘブンリー公爵軍が来たぞ! まだやれる! 踏ん張れ! 一人当たりたったの二人だ!」
と、皆で気合を入れつつ、サザンナイト軍と対峙する。
しかしながら、国王もジョセフィーヌもミケですら気を抜けない。
なぜなら、ヘブンリー公爵は馬上で槍を振り回している。
その後ろのヘブンリー公爵家の騎士達もすでに剣を抜いている。
そして、決定的な一言。
「国王陛下! その首もらい受ける!」
ヘブンリー公爵が声を上げる。
「あの悪魔どもを受け入れるなど、納得できん。国王自身が悪魔に違いない。今ここに、国王を打倒して、わたしが 国王となるのだ!」
その声に、国王軍は焦る。
これで、前に三万のサザンナイト軍、後ろに五千のヘブンリー軍。この二軍に挟まれたことになる。
ヘブンリー公爵の裏切りは想定していなかった。
そのヘブンリー公爵が、槍を国王に向けて突き刺す。
ガキン!
公爵の槍が上へと跳ねあげられた。
「な! 貴様、本当にシバスか?」
「さあ、どうだろうな。試してみるか?」
馬上の国王がヘブンリー公爵と向き合う。
「第四騎士団、ヘブンリー公爵軍を迎え撃て!」
国王が声を上げると、左右の森から第四騎士団が飛び出し、公爵軍の側面から突っ込んだ。
「ジョセフも特訓の成果を見せろ!」
「はい!」
ジョセフィーヌは、ヘブンリー公爵軍に対して、いくつものファイアバレット共に突っ込んだ。
第四騎士団も同じだ。魔法を駆使しつつ、ナイフをふるっていく。
ただし、ヘブンリー公爵軍は馬に乗っている。ミー達第四騎士団は、馬を蹴り、飛び上がりつつ、騎士にナイフを突きつけていく。
さらに馬の背を蹴って高い位置まで飛び上がり、魔法を撃ちこんでいく。
「ヘブンリー。公爵っていうのは、その程度の槍づかいでなれるものなんだな」
国王が公爵をあおる。
「貴様、貴様は国王じゃないな!?」
「ま、ばれちゃしょうがない。どうせお前はここで死ぬんだ」
そう言って、ヨンは顔のマスクをはがす。
「さて、公爵、これを見たからには死んでもらう。覚悟!」
ヨンは馬を走らせ、ヘブンリー公爵の横をすり抜けると同時に、ナイフを公爵の脇腹に突き立てた。
「ぐわっ!」
「ナイフで悪かったな。一撃で殺すことが出来なかった。だが、次は死んでもらう」
そう言って、ヨンは再びすれ違いざまにナイフをふるった。
公爵の首から血が噴き出る。
「よし! 公爵は打ち取った! 後は、公爵軍を殲滅する!」
ヨンはナイフを掲げて第四騎士団を鼓舞する。
「「「「おー!」」」」
第四騎士団プラス二名で十一名。それで五千の軍に向かう。
それぞれが五千の騎士、兵士たちの中に紛れて行き、ファイアバレットを乱発して倒していく。
「王国の騎士ごとき、我らの敵ではない。我らの師は千里様と桃香様だ。日ごろの特訓の成果を見せろ!」
「「「おー」」」
第四騎士団のファイアバレットの乱射が止まることはない。それと同時に、ナイフを振り回して兵士たちを沈黙させていく。
「殺す必要はない、行動不能にすればいい!」
とはいえ、相手は五千。いつまでたっても終わりが見えない。




