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参戦!(千里と桃香)

 翌朝


「お姉ちゃんたち、またね。絶対に遊びに来てね」


 そう言うリーシュに手を振る千里と桃香。


「うん。絶対に行くから。リオルお兄ちゃんがなんでも買ってくれるって言ったからね」


 リーシュとは違って、うなだれてクサナギの拠点を出ていくリオル。

 また負けた。どうしても勝てないのはなぜなんだ……。

 と、つぶやきながら。




 二人が帰った後。


「じゃあ、明日、出発しようか。レオナはヨンと旅の準備をお願い」

「「はい」」


 ズダダダダダダダ


「ん?」


 玄関前に走ってくる女性が一人。

 千里が確認する。


「えっと、ミューラさんだっけ?」


 冒険者ギルドの受付嬢、ミューラだった。


「ハァハァハァハァ……。覚えていてくださり、ありがとうございます」

「どうしたの、そんなに慌てて。トイレ?」

「ち、違います!」


 ミューラはパンパンとスカートを叩いて身なりを整える。

 そして、姿勢を正すと、千里と桃香に告げる。


「指名依頼が入っております。王城まで来てほしいとのことです」

「お断りします」

「……ほら、やっぱり」


 あっさり断る千里に対して、げんなりした顔をするミューラ。


「私もギルマスにそう言ったんですよ。絶対に断られるって。じゃあ、私、次に行きますので。それじゃ」

「ちょい待ち」

「ん? 何です?」

「次って? 指名じゃないの?」

「ええ、指名です。クサナギゼットさんへの指名です。ですけど、断られる可能性があるわけですよね。なので、そのために頼む順番リストがあるんです」

「なるほどね」

「じゃ、行きます」

「バイバーイ」


 ミューラは走り出す格好をしたまま立ち止まって千里と桃香を見ている。


「あれ? ミューラさん、どうしたの? 急ぎじゃないの?」

「そこはちょっと気になったから話くらい聞いてみようかな? じゃないんですか?」

「「……」」

「こんな疲れた受付嬢に、お茶の一杯でも出して、そのついでにちょっと話を聞いてみようかな、じゃないんです?」

「……確かにそのリストは気になった。だけど、依頼については全く気にならないから」

「そうですか。本当に本当に聞いてくれないのですね?」

「うん」

「はぁ。仕方ありません。それではまた」

「それじゃ」


 さすがにあきらめたのか、ミューラは、とぼとぼと走り出した。


「今度は南か……」


 というつぶやきを残して。




「何だったんでしょうね」


 桃香が聞く。


「桃ちゃん、気になるの?」

「はい。気になりますが、千里さんの言うように、依頼を受ける気にはなりません」

「だよねー」




 その日の夜、夕食を食べてまったりとしているところに、


 ドンドンドン


 来客があった。


「レオナ?」

「はい。見てきます」


 レオナは立ち上がって玄関へと歩いて行く。


 そして、戻って来て千里と桃香に報告する。


「千里、桃香、国王様がお見えです」

「国王?」

「はい、王妃様もご一緒です」

「自ら?」

「はい。自ら」

「はぁ。しょうがないね。入れて」

「承知しました」




 応接室に国王と王妃、それとお付きの騎士二人を通す。

 それと、王妃は腕に赤ちゃんを抱えている。


「夜中の訪問にもかかわらず、招き入れてくれたこと感謝する」


 国王と王妃が頭を下げる。


「国王様と王妃様が頭を下げちゃダメなんじゃないの?」

「いや、これは国王としてではない。個人としてここに来た。私はシバス・アストレイア。こっちは妻のアガサだ」


 アガサも頭を下げる。


「それで、その個人のシバスさんとアガサさんが何の用で?」

「指名依頼を出したい」

「確認だけど、国としてじゃないのよね?」

「ああ。親としてだ」

「親?」

「そうだ。この子を逃がしてもらいたい」


 そう、シバスが言うと、アガサが涙を流し始める。


「どういうこと?」

「この国とサザンナイトの関係は聞いているだろう? 近いうちにサザンナイトが侵攻してくる可能性がある。高い確率で。そうなったらこの国は終わる。だが、親として、この子だけは逃がしてやりたい」

「みんなで逃げればいいじゃない」

「私は国王だ。国民を置いて逃げるわけにはいかない。妻も同じだ」

「国民は逃がさず、自分の子供は逃がすってこと?」

「国民には事前に逃げるように言う。ただし、王族であるこの子が逃げてはいけない。だが、親としては逃がしたい。だから、個人として頼んでいる。私と妻が死ねば、この子はすでに王族ではない。ただの子供だ」

「で、この子をどうしろと」

「君らはクサナギというパーティと関係があるのだろう。そのパーティに娘、マティルダがいるはずだ。マティルダにこの子を託して欲しい」


 アガサは、子供を抱きしめて泣いているだけだ。


「ってことは、敗戦確定なわけ?」

「正直、そうだ」


 後ろに立つ二人の騎士がぎゅっとこぶしを握る。

 しかし、シバスは続ける。


「本来ならサザンナイトを取り囲む各国と協力関係を早く築くべきだった。しかし、隣の大国ノーレライツに手紙を送っても、真面目に取り合ってもらえなかった。平和だからの一点張りだ。それに、前回参戦した魔族は、我々に協力しているのではない。むしろ、我々を滅ぼしたいと思っているだろう。その抑止力になっていたのがクサナギだということもわかっている。だから、今回は、助けてくれるものがいないのだ」

「王都以外の戦力は?」

「ヘブンリー公爵にお願いしているが、間に合うかどうかという返事。その他の貴族は確実に間に合わん」

「それで戦力差は?」

「こっちがヘブンリー公爵家を合わせて、一般兵を含む一万五千。サザンナイトが、騎士三万」

「ダメじゃん」

「……」


 シバスが黙り込む。そしてアガサが涙を流す。

 そこで、アガサが抱いていた赤ちゃんが、「ほぎゃっ」と微笑んだ。

 それがさらにアガサの涙を誘う。この子の命はあと少しかもしれないと。


「シバス」


 千里が国王を呼び捨てにする。


「今の目標はこの国が侵攻されないことだよね?」

「そうだ。そうなれば、危険が去ったとは言えないが、とりあえず、国もこの子も助かることになる」

「わかった」


 千里と桃香はソファから立ち上がる。

 それを不思議そうに眺めるシバスとアガサ。

 千里はソファの後ろに回り、そして、ローレルの襟をつかんで、ポイっと、ソファに座らせた。

 そして、千里はシバスに告げる。

「シルフィードの属国になりなさい。そうすれば、宗主国が守ってくれるかもしれない」

「千里!」


 ローレルが背後に立つの千里に向かって叫ぶ。


「シルフィードの軍が間に合うわけないだろう」

「今回は侵攻されなきゃいいんだから、これだけしかいないけど、属国のために頑張ってみようよ」


 ローレルが目を点にする。そして、


「ふふふ、あははは、あははははははは」


 ローレルが笑う。


「三万の騎士に対して一般兵を含む一万五千。それに私達、それでやると?」

「まだやると決まっていないわ。シバスの答えを聞いてからね」


 シバスが口を開く。


「属国になった時の待遇は? 我々王族はどうなる?」

「どうもしないわよ。我々に逆らったらその時は潰す。それだけよ」

「今回の報酬は?」

「いざと言う時のために各国に出兵するように手紙を書く。その兵站にかかる費用を持ってもらいたい」


 ローレルの回答を聞いてシバスが立ち上がる。

 それについでアガサも立ち上がる。


「宗主国、シルフィードの姫、ローレル様。どうか、我が国をお救いください」

「お願いいたします」


 シバスとアガサはそろって頭を下げた。

 赤ちゃんはただ、笑っているだけだった。


 千里は声を上げる。


「よし、予定変更。明日、戦場に向けて出発する。全員完全武装!」

「「「「はいっ!」」」」

「クサナギにできたことはゼットにもできる。それを優香さんと恵理子さんに見せる!」

「「「「はいっ!」」」」

「私達がここにいることを気づいてもらう!」

「「「「はいっ!」」」」

「やるよ!」

「「「「おー!」」」」


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