リーシュとリオル登場(千里と桃香)
その日の夜、一階の食堂でみんなで食事を取っていると、突然玄関のドアが開いた。
「リーシャお姉ちゃんおかえりー」
という声と共に、フードをかぶった少女が飛び入ってきた。
千里も桃香も他のメンバーもその様子を見ているが、警戒はしていない。なぜなら殺気が全く感じられないからだ。
少女はきょろきょろと見回す。家はあっているのに、そこにいる人たちが違う。
「あれ、間違えちゃったかな……ごめんなさい」
と言って、少女は玄関に足を向けようとする。
しかし、次に男が入ってきた瞬間、千里と桃香を除く全員が立ち上がり、警戒する。
「お前達、誰だ!」
フードをかぶった男が叫ぶ。
「ここはクサナギの家だぞ!」
「みんな、こぶしをおろして」
千里がメンバーに声をかける。
「どうやらタカヒロとマオの知り合いみたいだし」
千里と桃香が立ち上がり、男の前まで歩み出る。
「そういうことで合ってる?」
「そうだ。妹がタカヒロとマオのパーティに入っている」
「私は千里、この子は桃香。私達はそのタカヒロとマオを探している。向こうも探してくれている。で、この家は、ギルドに貼ってある貼り紙に、私達に自由に使えって、伝言があったから使わせてもらっている。と言うことで、理解できた?」
「そうか。すまない。勝手に入って使っている賊かと思った。ギルドが確認して鍵を貸しているなら、間違いないだろう」
「で、貴方達は?」
男はフードをとる。頭には角。
「私はリオル。この子はリーシュ。クサナギのメンバーの一人、リーシャの兄と妹だ。いつまでも帰って来ないので、定期的にこの家を訪れていたんだ。そうしたら今日、明かりがついていたから入ってしまった。許可なく入ってしまい申し訳ない」
「いいのよ。タカヒロとマオの関係者でしょ。なら、私達の関係者みたいなものだわ。ご飯食べる?」
「いいのか?」
「ヨン、二人分追加できる?」
「はーい。かしこまりました。用意します」
「じゃあ、座って。タカヒロとマオのこと教えてくれる?」
「リーシュちゃん、お姉ちゃんのリーシャってどんな人なの?」
「うーん、自由人」
その一言に、クサナギゼットの面々は思う。ここにもいるぞと。
「それでね、魔族の国の姫なのに、私のことを魔族の国のシンボルだからって言って、タカヒロ様達と旅に出ちゃって」
あー、ここにも姫がいたよ。と、思う面々。
「それでね、お姉ちゃん、タカヒロ様とマオ様と重婚するんだって」
優香さんも恵理子さんも何やっているんだか。
「確認だけど、リーシャって、女性だよね?」
「姫って言ったじゃん」
「そうだったそうだった。ごめんね」
リーシュはふと気づく。
「あー、お姉ちゃんとおそろいの人がいるー」
ミケだ。
「ねえねえ、あなたも茶トラがお気に入りなの? お姉ちゃんも茶トラが気に入っていたの。見せて見せて」
「えっと」
戸惑うミケ。
「リーシュちゃん。リーシャってもしかして、猫の恰好をしていたの?」
「うん。始めは人間の国に来た時は、私達みたいにフードをかぶって角を隠していたんだけど、タカヒロ様とマオ様に猫耳カチューシャに代えられたみたい」
「「……」」
何やってんだ、優香さんと恵理子さん。
「それを気に入って、ずっとつけているよ。あ、しっぽとセットね」
「リーシュちゃん。あの子はミケ。本当の猫人族だよ。だから、耳もしっぽも本物なんだよ」
と、千里が説明すると、ミケはしっぽをみよんみよんと動かして見せる。
「あーほんとだ。ごめんなさい。お姉ちゃんと同じかと思っちゃった」
「いいのですよ。獣人はこの国では珍しいのか、私も視線を浴びましたから」
ミケが耳をぴくぴく動かして見せながらリーシュをなだめる。
「かわいいー。私もね、寝るときは猫の着ぐるみなの」
千里と桃香は思い出す。そういえばキザクラ商会で着せられたなと。
「もしかして、キザクラ商会の?」
「うん。猫の着ぐるみが一番のお気に入り。兎も持ってるー」
「だよね。着心地いいもんね」
「うん」
「ねえ、リオルって言ったっけ」
「ん、なんだ?」
「タカヒロとマオが、どこへ行ったか知ってる?」
「旅に出たきっかけを知らないのか?」
「きっかけ? きっかけがあって旅に出たの? 私達を探しに出たんじゃないの?」
「お前達を探しに行ったのは事実。だが、実際は、この国に追われて出て行ったんだ。だが、クサナギが出て言った後、急にこの国も軟化してな。そんなことなら初めからあんなことしなきゃよかったのに」
「あんなことって?」
「そもそもは、この街の西にあるヘブンリー公爵家の息子が悪いんだがな。その息子が若い子供と一緒にクサナギの若いメンバーを攫ったらしい。クサナギはそれを取り返すために公爵家に乗り込んだ。まあ、その息子がどうなったかなんてしれている。で、クサナギが悪魔の従者と呼ばれるケルベロスを連れていることもあって、公爵がタカヒロとマオを悪魔扱いした。それで、公爵家とこの王都の騎士に挟撃されたクサナギは、血を流したくないと逃げ出したんだ。その後は、知らん」
「なんか、この国が許せなくなってきたわ」
と、憤慨する千里に対して、桃香は素直に疑問を聞く。
「じゃあ、何で軟化したんですか?」
「公爵家と王都の軍で挟撃した際、それを率いていたのがこの国の王女。この王女とクサナギは仲が良かった」
ああ、サウザナイトやサザンナイトに行った王女か。そう想像する千里。
「その戦いで、王女は自殺。その後に、クサナギが逃走。王女の死体は見つからず、もしかしたら、クサナギが王女を連れているんじゃないか、そういう考えが広がった。それでクサナギと敵対するのをやめたってところだな」
「なんか、本当にこの国が嫌いになりそう。都合がよすぎる」
「まあ、そうだな。この国をつぶすなら付き合うぞ。我らの里もこの国に一度つぶされているんだ。タカヒロとマオがこの国に住んでいるから黙っているが、いつ攻め込んでもいいぞ」
「そうね。タカヒロとマオが帰って来たら相談するわ」
「いつでも声をかけてくれ」
「了解」
「ところで、これからここにいるのか? ここでクサナギを待つのか?」
「ここから西に行ってみようと思ってる。タカヒロとマオの足取りをさかのぼってみたくて」
「なるほどな。だが、ここにいるのが一番合える確率が高いんじゃないのか?」
「そうなんだけど、暇なのよね」
「ま、止めやしない。だが、今晩我々を泊めてくれ」
「仕方ないわよね。今度私達が魔族の里に行ったら逆に泊めてよね」
「もちろんだ」
「ところで、魔族ってこの世界にたくさんいるの?」
「実は知らないんだ」
「何で?」
「我々には角があるだろう」
「ふむ」
「この角があるのは、高位魔族なんだ。エルフで言うところのハイエルフな」
「それで?」
「そこは感動するところじゃないのかよ」
「ハイエルフの知り合いがいるけど、私達にはその差がよくわからないのよ」
「……まあいいや。普通の魔族はと言うと、ほぼほぼ人間族と同じで見分けがつかないんだよ。だから、いるのかどうか、もう人間族と見分けがつかないんだ」
「そうなの。ということは、はっきりと魔族だとわかるのはあなた達だけだと」
「そういうことだ。ただし高位な」
「こだわるのね」
「当然だ」
「この街から南にまっすぐ行けば高位魔族の里があるの?」
「そう言うことだ。ちょっと遠いがな。気が向いたら寄ってくれ」
「よろしく」
「ところで、これ知ってるか?」
そう言って、リオルは両方のこぶしを握って前に出し、親指を立てたり寝かしたりする。
「もしかして、タカヒロに教えてもらった?」
「そうだ。そうだな、何をかけようか」
「そうねー……」
結局、この夜もリオルはぼろ負けする。




