他国からの依頼は受けません。だってローレルは宗主国の姫だもの(千里と桃香)
翌日。
「ギルドマスターいる?」
千里と桃香は、ローレル達、フローラとルシフェ、ジョセフィーヌを連れてギルドにやってきた。
残りのメンバーは、家の管理とハウスン商会だ。
「おう、上に上がってきてくれ」
ギルドマスターのブレイクが二階から顔を出して千里達を部屋へ呼んだ。
「それで何?」
ソファに座った千里がブレイクに問う。
「お前達、金に困っているか?」
「困ってないわ。ついこの間、海賊を壊滅させてね。お宝がっぽがっぽよ。その前は盗賊ね。何なの一体。盗賊と言い海賊と言い、お金持ちって、大丈夫なの?」
「……確かに、社会的にどうかと思うな。そうか。困っていないのか」
「ええ。だから常設依頼で適度に冒険者登録を更新できていれば全く問題ないわ。と言うわけで、依頼を受ける気はないわよ」
「うーん」
ブレイクが悩んでいるのを見て、千里は立ち上がる。
「それじゃ、行くわね」
「あ、ちょっと待ってくれよ。話だけ、話だけでも聞いてくれ」
「嫌よ。話を聞いたら受けなきゃいけなくなるかもしれないじゃない」
「じゃあ、相談に乗ってくれ。それでいい」
「うちのメンバーを全員プラチナAにして」
「……」
「それじゃ」
千里がブレイクに背を向ける。
「あ、待て、いや、待ってください。お願いしますって」
「プラチナA?」
「何人だよ」
「今は十九人」
「充分多いわ。現状は?」
「九人がB、九人がプラチナ。あれ、ミケ、なんだっけ」
「シルバーだったかと」
ローレルが答える。
「シルバーをいきなりAはつらいだろう」
「うーん。そうかも。まあいいわ。冒険者のランクを上げても、何が変わるかわからないし。じゃあ、クサナギ、タカヒロとマオのことについて教えてくれたらいいわ」
「わかった、知っていることなら教えてやる」
「じゃ、お願い」
「お前達はムーランドラから来たんだろう?」
「そうよ。何をいまさら」
「確認だ確認。じゃあ、このアルカンドラの情勢はわかってないだろう?」
「ええ。知る必要もないけどね」
「まあ、聞けって」
「「……」」
「この国、アストレイア王国は隣国サザンナイト帝国と仲が悪くてな。小競り合いがよくあるんだ。そのサザンナイトだが、前はサウザナイト帝国といってな、この国の王女が乗り込んで行ったときに皇帝が殺され、新たな国になったんだ。皇帝を殺したのは、その王女でもこの国の騎士達でもないがな。で、その時に、皇子を奴隷にしたのがその王女。ただし、奴隷の首輪をはめただけでなぜか死んでしまったから、新政権サザンナイトから奴隷の監督不行の罪で手配されている。まあ、その王女も亡くなられているんだが。そう言うことで、サザンナイト側からするとアストレイアに攻め込む理由があるってことで、いつ攻め込んできてもおかしくはないんだ。実際に一度攻め込まれそうになったしな」
「それが私達になんの関係があるの?」
「王女のサウザナイト遠征、次のサザンナイトの侵攻阻止、その両方に関わっているのがクサナギだ」
「「……」」
千里が気を取り直して聞く。
「えっと、私達の仲間がそれらに関わったってのは理解するわ。一つ確認していい?」
「いいぞ」
「クサナギはアストレイアに仕えていたの?」
「いや、冒険者への依頼として同行した」
「サザンナイトを退けろって?」
「いや、それをするのは国だ。クサナギに頼んだのは王女の護衛だ。結果的にいろいろしたかもしれんが、あくまでも想像だ。捕らわれていた魔族を開放して、その魔族がサウザナイトの皇帝を倒してしまったとか、サザンナイトが奴隷にしていたドラゴン族を開放して、そのドラゴン族が「タカヒロとマオに手を出したら滅ぼすぞ」と言ったとか言ってないとか、そんなことは噂だ。見たことじゃない。ただ、それ以降、二人はドラゴン族を従えし勇者と呼ばれている」
「……二人が一体何をしたのか、ちょっと想像できちゃうけど、だけど、結局のところは、国と国との関係の話よね」
「そっちはそうだな。王女とクサナギの関係の話の方だが、頼んだのはあくまでも護衛だからな」
「でも、私達に頼みたいことも似たようなものでしょ?」
「まあ、そうだな」
「クサナギのパーティ構成がどうなのかは私は知らないわ。だけど、この依頼は絶対に受けられない」
「何でだよ」
「逆にギルマスはムーランドラの情勢はどこまで知っているの?」
「何か大きな出来事ってあったか?」
「人間族の大国、カイナーズとドレスデン、そしてファルテン、この三つの国が属国化されたのは?」
「は? 何の冗談だ?」
「冗談じゃないわ。事実よ。知らないのね」
「……」
「その三つの国を属国化したのは、エルフの国シルフィード。つまり、シルフィードが宗主国なの」
「それで、その話がどこへ?」
「私の後ろにエルフがいるでしょ?」
ゴクリ
ブレイクがつばを飲み込む。
「その真ん中が、シルフィードの姫、ローレル。左右がドレスデンを降伏させた時の将軍のルージュと副将軍のフォンデ。この三人が私達のパーティにいるの。そういう状況で、私達のパーティがこの国の依頼を受けられると思う?」
「……」
「宗主国の姫が他国の依頼を受けるなんてできないのよ。それを強要するなら、三国と同じように属国化するわよ」
「……その三人を従えているお前達は何なんだ?」
その質問に千里と桃香は顔を見合わせるが、何かと言われても……。と、悩んでいると。
「女神様だ」
ローレルが口を開いてしまう。
「ろ、ローレル!」
「今はまだ広がっていないが、近いうちにフィッシャーの街から話が流れてくるだろう。二柱の女神様が顕現されたとな」
「ローレル……」
「ローレルさん……」
それは言ってほしくなかった。
その呼ばれ方がいたたまれないから足早にこの地を目指したのに。
いや、優香と恵理子に会うためだ。
だが……女神なんて呼ばれたくないのも事実。
しかし、ローレルはそこでは終わらない。
「爆炎の女神と、雷鎚の女神だ」
「……変な名前を付けないで」
まだまだローレルは付け加える。
「それにな、うちのパーティにもドラゴン族がいるぞ。つまり、うちの女神達も、「ドラゴン族を従えし女神様」だ」
ローレルは自身と同じように千里と桃香の後ろに控えているフローラを示す。
フローラは、ふふん、と、ブレイクを見下ろす。決して頭を下げたりしない。
ブレイクは、その視線に冷や汗をかく。正直立ち去りたいとさえ思う。ここはギルマスの、自分の部屋だが。
「ローレル、もしかして張り合ってる?」
ローレルはニヤリとする。
「おい、拝んだ方がいいのか?」
指を組んで祈りだしそうなブレイクに、
「やめて」
「やめてください」
と、叫ぶ千里と桃香。
「まあ、宗主国の姫様が従うって言うのが神様だってなら、納得できるな。わかった。国の依頼はお前達にもっていかない。それでいいな」
「わかってくれればいいわ」
「ついでだから、話を聞いてもらった報酬として、タカヒロとマオの話を知っている範囲で話すな」
「お願い」




